文化

〈書評〉データでは捉えられない苦境を描く 『学費値上げに反対します ――学生たちの生活と主権』

2026.04.16

〈書評〉データでは捉えられない苦境を描く 『学費値上げに反対します  ――学生たちの生活と主権』
昨今、国立大学では学費の値上げが相次いでいる。2020年度前後には既に、千葉大学や一橋大学など首都圏の大学で値上げが実施されていたが、24年9月に東京大学での値上げが正式決定されて以降、地方の国立大学にも波及しつつある。26年度には、埼玉大学や山口大学など4つの大学で値上げが実施され、岡山大学も27年度に値上げする方針を発表している。

本書は、このような学費値上げの流れに関して、直接の影響を被る現役の大学生・大学院生を中心として書かれ、数字上のデータからでは必ずしも見えてこない学生生活の実態や生の感情を社会に突きつけている。学費値上げに関する議論は、大学経営の健全化のようなマクロな視点で語られることも少なくない。そのような議論は、値上げによって学生がどのような影響を受けるのかという視点がしばしば欠落しているが、学生の目線で書かれた本書は学生が被る影響を感情剥き出しで生々しく描き出している。さらに、学費が値上げされていなくても、近年の物価高騰などにより、一部の学生の生活はすでに限界を迎えていることを本書は明らかにしている。アルバイトに明け暮れて学業が疎かになる本末転倒な日常や、貸与奨学金という名の借金を背負うことによる不安のような、数字上のデータだけでは決して見えてこないものを浮かび上がらせることこそが本書の意義の一つと言えるだろう。

本書は、値上げによる学生への影響や学生の生活実態だけでなく、学生による反対運動も記録している。オンライン署名、要求書の提出、学内での集会などによって学生が反対の声を広げる過程はもちろん、反対活動に伴う様々な感情が克明に綴られている。一方的な決定への憤り、学内の無関心層との温度差による孤独感、反対運動が実を結ばないことのもどかしさ、他大学の人との連携による連帯感。本書に刻まれたこれらの感情は、大学内の意思決定のプロセスに対する問題提起という面も持っているように思われる。さらには、今の大学、そして日本社会で声を上げることの困難さとその意義を私たちに再考させる。学生はもちろん、現代の学生の生活実態を知らない世代にこそ読んで欲しい一冊。(法)

『学費値上げに反対します――学生たちの生活と主権』
佐藤雄哉・金澤伶編著、地平社
2026年
1800円+税

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