文化

夢幻の記憶と繋がる演劇 東京の演劇団体 吉田寮で公演

2026.04.01

夢幻の記憶と繋がる演劇 東京の演劇団体 吉田寮で公演

『GENIUS LOCI』に出演した俳優陣(提供)

3月27日からの3日間、東京を拠点とする演劇企画団体「STAy」が吉田寮で公演し、約90名を動員した。寮内を移動しながら俳優がエピソードを語るツアーパフォーマンス『genius loci | Yoshida』を開催したほか、舞台『GENIUS LOCI(ゲニウスロキ)』を現棟で上演し、引っ越し作業が進む吉田寮に華を添えた。

ツアーパフォーマンスは、俳優が観客とともに寮内を巡り、各スポットの紹介とそれに紐づく自らの体験を語るという形式で進んだ。特に印象的だったのが、食堂を紹介した俳優の経験談。自らが通う大学の自治寮は取り壊されて久しく、近年はサークル活動に関する規則も厳しくなっているため、学生が自由に活動できる場所に魅力を感じると語っていた。自治が学生生活の充実に大きな影響を及ぼすことを示唆するエピソードだ。

また、寮のトイレを案内した俳優は、匂いと記憶が結びつく「プルースト効果」にふれ「かつて付き合っていた人のシャンプーの香りが忘れられない」と話していた。別の俳優は、壁に書かれた「色即是空」の文字と幼少期の写経の経験を結びつけ、「色即是空は画数が少ないから楽だなと思っていた。今はそれが示す意味も理解できるようになってきた」としみじみ振り返っていた。寮を巡るとともに、俳優陣の人生のなかにも足を踏み入れているようで、その二重の感覚が新鮮だった。

舞台『GENIUS LOCI』は、道をさまよう青年が主人公の、幻想的かつ力強い作品だった。作中には、太平洋戦争を想起させるような「王国」と「隣国」の争いが登場する。「王国」の女性は、自らの国の正当性を大声で主張し隣国を口汚く罵る。ときには根拠もなく主人公をスパイだと決めつける。これだけ言動は強烈ながら、内心には揺らぎがあり、何が正しいのか本当はよくわかっておらずただ時勢に押されているだけのように見える瞬間もある。主人公は最終的に、この女性を反面教師にするかのように、地に足をつけて生きる大切さにたどり着くことになる。

見どころは女性役の鬼気迫る演技だ。日本にも確かにあった戦争の過去を地の底から引っ張り出して、丸ごと身体で受け止めたかのようだった。

脚本・演出を担当した小島淳之介さんによると、寮生との交流から今回の企画が立ち上がり、半年ほどの準備期間を経て上演に至ったという。退去の時期と重なったのは偶然だというが、どうしてもリンクさせて考えてしまう。「ゲニウス・ロキ」には土地に根差した歴史や精神という意味がある。現棟がどのような道をたどるにせよ、あの空間の「ゲニウス・ロキ」は全く壊れることなく吉田寮とともにあり続けるだろう。本企画を通して、吉田寮ひいては日本という土地全体に染み付いた言葉にならないものを演劇のかたちで浴び切った。(梅)