文化

生命の色を抽き出す染織 「志村ふくみ 百一寿 ―夢の浮橋―」

2026.04.01

生命の色を抽き出す染織 「志村ふくみ 百一寿 ―夢の浮橋―」

本展が初公開となる新作《夢の浮橋》

染料で染めた絹糸を縦横に交差させ、さまざまな文様をもつ布地を織りあげる染織。紬織の人間国宝で随筆家としても知られる染織家・志村ふくみは、植物から抽出した染料を用いる「草木染め」を追究し、自然の色彩に満ちた作品の数々を生み出してきた。細見美術館(左京区)で開催中の特別展「志村ふくみ 百一寿 ―夢の浮橋―」では、志村がライフワークとする「源氏物語シリーズ」や、石牟礼道子原作の新作能『沖宮』の装束など近年の作品を中心とする約40件を鑑賞できる。

「源氏物語シリーズ」の作品の中でも特に目を引くのは、本展を機に制作された新作《夢の浮橋》だ。光源氏の死後を描いた宇治十帖の最終巻の名を負う本作。紫根の紫色、紅花と茜の緋色のぼかしが、絹本来のつややかな白地の両端を淡く染め、宇治十帖のどこか淋しい作品世界に呼応するかのような儚さを感じさせる。

作家・石牟礼道子の遺作となった新作能『沖宮』の鮮やかな装束も見どころだ。東日本大震災の後、現代日本への危機感を募らせた志村が旧友の石牟礼に手紙を送ったことで始まったやりとりから、『沖宮』は構想された。主人公の少女・あやがまとう緋色の舞衣《紅扇》は、一見すると鮮やかで可憐な印象をうけるが、あやが村の干ばつを収めるために人柱になるという悲愴な運命を背負った存在だと知ると、その緋色はより切実な意味をもつように感じられる。

過去の作品も多く展示されている。評者の心をとらえたのは《月の湖》だった。濃淡のある藍を地に、黄土色の緯糸がいくつもの筋を通している。満月に照らされて光を帯びた波が黒々とした湖面を伝わっていくさまが奥行きをもって写し取られている。偶然生じた弛みやしわが湖面の複雑な立体感を引き立てていたのが、絵画にはない織物ならではの見え方で面白かった。

101歳を迎えた現在も制作に励む志村。本展は、みずみずしい感性を保ちつづける彼女の作品に触れる絶好の機会だ。会期は5月31日まで。毎週月曜休館。一般2千円。学生1500円。着物姿で来館すると200円割引。(鷲)

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