〈講演会〉住民自ら維持できる生活道路を 講演会「アフリカの道を考える」
2025.02.16

総合討論の様子。壇上左から金子准教授、安原教授、福林准教授
第1部では、3名の研究者がプロジェクトの研究成果を報告したのち、現地での研究に携わってきた5名の学生との総合討論が行われた。エチオピアの広範囲に分布するブラックコットン土(BCS)は水を吸収すると膨張するため、雨季の生活道路は通行が困難になる。宮崎大工学研の福林良典准教授は、BCSにより村民が市場や病院などの社会サービスにアクセスできなくなり、貧困の要因になると指摘した。土質を改良する方法として植物粉体の利用を挙げ、これとBCSを混合することで水を含んでも車両などの重さに耐えられるように改良できることを示した研究成果を紹介した。京大工学研の安原英明教授は、植物粉体の原料として有用な在来植物を3種類選定し、それを粉体化する手法を開発するまでの過程について説明した。今後の課題として、BCSと粉体を混合する手順や粉体の適切な量などをマニュアル化し、誰でも現地で土質改良を実践できるようにすることを挙げた。京大アジア・アフリカ研の金子守恵准教授は、開発した技術を現地住民に受け入れてもらうための取り組みとして、土のうを用いた道路補修の実地試験や技術者・行政を対象とした研修・ワークショップについて紹介した。研究室で実験を行うだけでなく、現地でフィールドワークを行うことが土質改良技術の社会実装にとって重要であると語った。
総合討論では、「プロジェクトを進めるなかで苦労したことは何か」という学生の質問に対し、安原教授は「プロジェクト開始直後にコロナ禍に突入し、2年間オンラインでのやり取りのみだった。当時は現地の人があまり乗り気ではなかったが、対面で会えるようになると当事者意識が生まれ、そこからようやくプロジェクトが動き出した」と話した。
第2部では、プロジェクトリーダーの木村亮特任教授と副リーダーの重田眞義特任教授が登壇し、長年アフリカの道づくりに携わってきた経験を通じて得た気づきや今後の課題について対談した。木村教授は、マサイ族の青年に「お前が偉い人間ならライオンを何匹殺したんだ」と訊かれ衝撃を受けたといい、「国によって価値観が異なることを感じ面白かった」と回顧した。重田教授は、学部生のとき、アフリカに行くと近所の人に伝えたところ「兄ちゃん何『教えに』行くんや?」と言われ、「日本人がアフリカに行くのは何かを教えるためだという常識があると感じた」と語った。実際にスーダンでフィールドワークを行った経験を振り返り「教えてもらうことばかりだった」としたうえで、「このプロジェクトは、こうした常識を考え直していく必要があると日々確認する経験になった」と述べた。
質疑応答では、「フィールドワークをする中で意義深い研究テーマを見つけ出すコツはあるか」という学生の質問に対し、重田教授は「一番武器になるのは人の話を聞くこと。自分で考えるべきと思い込む必要はない」と答えた。
当日はオンラインも含めて、中学生から社会人まで90名ほどが参加した。登壇者のユニークなエピソードに会場が笑いに包まれる場面もあり、講演会は終始和やかな雰囲気で幕を閉じた。(鷲)