総合博物館・特別展 紹介「イザベラ・バードの旅の世界」(2010.03.16)

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京都大学総合博物館は、同館と人間・環境学研究科の共催で1月13日から同研究科教授の金坂清則氏が20年をかけて撮影した写真展「ツイン・タイム・トラベル イザベラ・バードの旅の世界」を開催。金坂氏が19世紀のイギリス人女性旅行家・イザベラ・バードの22歳から70歳までのおよそ50年にわたる旅の旅行記に基づきフィールドワークをする中で撮影した世界各地の写真と旅行記の記述を、旅の行程に従い展示する。3月28日まで開催しており、学生は学生証の提示により無料で閲覧できる。

本紙では特別に展示される写真を掲載し、特別展の紹介を試みたい(写真キャプション番号は展示番号)。 (麒)

※本紙に展示写真・付随文章を掲載

金坂氏がこの特別展にこめるコンセプトは「ツイン・タイム・トラベル」。これは旅行記の読み方を、旅行記の旅の時空と自分の旅の時空を重ね合わせることで旅のもつ意義を新しいものにしていこうとする考え方だ。従来の地理学では、旅行記は「旅人の偶然の産物であり体系性・統一性に欠けた記述の羅列に過ぎない」とされて重視されてこなかったが、金坂氏は逆にそうした偶然性をもつ旅行記の記述やスケッチや写真が場所や地域の特質を如実に表し、地誌に匹敵するバードの記述からは、経済的側面に偏重する近代地理学の地誌が見落としていた観点を提供していると指摘し、旅行記こそ科学的な方法論をもって取り組むべき貴重な資料だとする。旅行記を読み解く上では歴史学や他の人文・社会科学の知識を駆使して取り組む必要があることから、この考え方を通じて「総合の学」としての地理学の枠組みを取り直し、こうした他分野との関わりを考える分野へと発展させていきたい、と金坂氏は話す。企画展ではバードの旅行の順に配列された写真とバードの旅行記からひいたキャプションを合わせて見ていくことで、「バードの旅空間の再現」という我々の地理学的認識に転回を促してくる。

特別展として写真展を行うのは総合博物館としても異例であるが、金坂氏の写真展は2005年からバードの本国イギリスなど世界各地で順次開催されてきた巡回展となっており、今後も日本各地を回ることになっている。1月23日に開催された金坂氏による講演会も大入りで、写真の有名雑誌である『アサヒカメラ』や若い女性向けファッション雑誌『Numero TOKYO』に掲載されるほどの幅の広い注目が示されている。金坂氏はバードの研究が評価され英国の王立地理学協会特別会員・同スコットランド名誉会員でもあり、写真展は英国立スコットランド図書館に始まり、今後もバードの旅に合わせる形で世界を回って開催することで写真展自体がバードの旅を再現し、観客にバードの旅を想起させる仕組みだ。

バードは22歳で世界旅行を始めてから、米国、カナダ、日本、東南アジア、中東、再度東アジア、本国イギリスの順で旅をした(右地図)。帝国主義で激動する19世紀の世界を女性が旅をしたという事実は、それ自体興味深く、その写真は清朝末期の中国の様子などの歴史学的価値も豊富なものも多い。金坂氏は、「この写真展を見て、若い人が世界に関心をもち、アクティブになるきっかけにしてほしい」と話す。

編集員の視点


「写真展自体が世界を旅する」という異例極まりないこの特別展では、「ツイン・タイム・トラベル」という言葉に集約される金坂教授の長年にわたる研究と資料収集の成果が申し分なく発揮されている。バードの旅の行程に従って配置されたモノクロの写真やスケッチと、金坂教授が重ね合わせるように撮影した渾身の写真は、1つ1つが学術的意味とともに「美しさ」という芸術的意味をもち、「旅」という行為のもつ多面的な意味を想起せざるを得ないものだ。

「旅行記を地理学に組み込み、過去と現在の旅空間の共振を図る」という概念をはじめて耳にしたときは、その真意や学問としての位置づけにとまどってしまった。中学高校で習う「地理」のイメージは土地の名前や地域の産業の暗記であり、地理学とは社会科学の素材に過ぎないとも思われたからだ。しかし、金坂教授はそれを否定し、旅行記という旅人の「偶然」の産物を学問の俎上に載せ、そこから見える異時代の「風景」から体系的な地理学的あるいは人文・社会科学的認識をもつべきことを主張される。いわば、「鷹の目」からは味気なく映った地上の風景を「蟻の目」に映る身近でアクティブな「活動の場」に捉えなおしたようなものだろう。旅に不可欠なものは地図であるが、私は下宿で眺め渡して明日行く場所の計画を立てるときの地図と、実際にそこに行って風景を楽しんでから見る地図の、差異とその面白さに思い至った。無機質と思われがちな教科書の漢字の羅列を、「実際に見る」という観点から反省的に考え直す必要性を訴えるのがこの写真展とはいえないか。

そのような学問の姿勢は一面においては大変に体力を強いられる。しかし、この写真展のもう一つの魅力は、自己の体系的な認識を得るために、疲労を厭わずバードの軌跡を追い続けた金坂教授のアクティブさだろう。「今の若い人にはもっと元気になってほしい」というよく聞くフレーズも、この教授から言われると、現実味を感じてしまう。少なくとも、私は世界の風景にぶつかってみたいと思った。(麒)

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