21世紀の、新しい美術館のあり方 未来フォーラム(2010.02.16)

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21世紀の美術館はいかなる姿を見せるのか。1月22日、時計台百周年記念ホールにて講演会『21世紀の美術館~3Mから3Cへの移行の時代にあって』が開かれた。講師は京大法学部卒、東京芸術大卒である長谷川裕子氏。長谷川氏は金沢21世紀美術館の設立を監修、海外で開催されるビエンナーレも数多く手がけるキュレーター(学芸員の上級職)として活躍。

長谷川氏は問題提起として日本の文化力衰退を指摘、現代の若者が文化を享受創造する力を持っているか疑問を投げかけた。また自身の経験から、新しい美術館のあり方についても省察を深める。アメリカで不況時、買い物袋に全財産を持ち歩く女性、ショッピング・バッグ・レディを見たという。彼女たちは襲われる危険性があり、社会的弱者である。しかし店や美術館をシェルター代わりに利用し、そこが人間の誇りの依拠となる場所となっている現実を見た。イスタンブールで美術展を監修中、9・11テロが起きた。ムスリムに対するバッシングから、トルコからアメリカへの留学が相次いでキャンセルされた。対米感情が悪化し美術展の開催も危ぶまれたが、現地人スタッフは開催を熱望。アートが国を超えたアイデンティティとなる姿を長谷川氏はそこに見たという。また、金沢21世紀美術館を設立した契機に、近くにある兼六園がこれまでと違う味わいを醸し出すのを発見。どの方向からでも入れる兼六園は、同じく多方向から館内に進入可能な21世紀美術館と好対照をなし、伝統と革新が理想的なかたちでたたずむ。

こうした体験から長谷川氏は、21世紀の美術館は「3M」から「3C」へ移行すべきだと主張する。3Mとはすなわち、20世紀の「男性中心主義」(Man)、「拝金主義」(Money)、「物質主義」(Materialism)であり、一方で3Cは21世紀の「共生」(Co-existence)、「集合知」(Collective intelligence)、「意識主義」(Consciousness)を指す。氏はその体現として金沢21世紀美術館を監修。その美術館構想は、制作に携わる者や市民を交えて対話を重ねながら練られた。今までの美術館についての感想は「暗い」「作品の安全ばかりを重視」「美術館が外の世界と隔絶している」。この対極として「開放性」「透過性」「フレキシビリティ」がある美術館をつくってやろう。


◆ 金沢21世紀美術館の試み ◆

市長がつけた注文はこうだった―「割烹着で気軽に来られる美術館に」。金沢21世紀美術館のいくつかの特徴的な点、その一つにガラス張りが多い事が挙げられる。館内外を区切る外壁のほとんどがガラス張り、講堂も中を窺えるようになっているのは「開放性」「透過性」の具現、専門家以外の市民が入りやすくする工夫だ。また、館内に設けられた無料ゾーンは広く、有料区域であってもその透過性によって作品の一部を窺い知る事ができる。ショッピング・バッグ・レディから得た着想、拝金主義の駆逐がここに活きている。展示方法も独特だ。従来の美術館が四角いスペースをさらに四角い部屋で区切り通行方向を指示するのに対し、金沢21世紀美術館は形状や大きさの異なる大小10の展示室を、車が通れるほどの間隔を空けて配置。来館者は進路を強制されることなく、その無駄とも思える空間は休憩場所として機能したという。最後は海外や、自らが手掛ける美術館の取り組みについて紹介し、講演を締めくくった。




【編集員の視点】ある風景―ベルトコンベアと化す展覧会

有名な展覧会になると観覧料は大学生でも1000円を超す。無料スペースはショップのみで、営利主義を肌身に感じる。いらいらしながら長蛇の列に並び、やっと見れたと思ってもじっくり見れば後ろがつかえる。作品に接する時間は刹那、考える間もなく押し流される。列を外れれば遠巻きに眺めるしか無く、その行為は作品との距離を遠のかせるのみ、「逸脱」だと諭される。休憩場所は少なく、疲れは溜まる一方。指示されたルートを通って作品を見る―それは大量の作品を短時間で見ることを可能にするとても効率的な消化方法だが、次第に作品を見る事は一種の義務と化し、あたかも展覧会はベルトコンベアの様相を呈する。この悲劇の問題点は「休符」がないことだ。休憩場所や無駄そうな空間、さきの「逸脱」も、作品を反芻し想像を掻き立てる非常に有意味な場所や方法ではないだろうか。金沢21世紀美術館がこうした問題を打ち破る、新たな美術館の始まりであってほしい。(鴨)

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