NF鼎談連動書評 佐藤卓己・著『メディア社会―現代を読み解く視点』(岩波新書)(2009.11.16)

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連続書評最終回となる今号では鼎談出演者の一人でもある佐藤卓巳さんの著作を紹介する。一冊の本の体をなしてはいるが、本書は著者が04年11月から1年間にわたって京都新聞で連載したコラム「メディア論から時代を読む」を中心として自らの作品群を再編集したものである。そのため一項目ごとの分量が少なく、やや論じ方が不足していたり詰め込まれたかたちで必ずしも整然とした論理展開になっているとは言い難いが、メディア論に関する著者の考え方の全体像を捉えるのには絶好の書といえる。

ホリエモン騒動や小泉首相の言動など当時のスポットとなっていたニュースをとりあげてそれをめぐる新聞・テレビのうごきを批判的に扱う小編が多い。「情報」や「メディア」、「世論」という言葉の源泉を辿ったり、ユルゲン・ハーバーマスやマーシャル・マクルーハンといったメディア論の大家の言葉を引くことも多く、今日のメディア状況を歴史に即して考察しようという意図が感じられる。筆者自身が歴史学出身ということもあるだろうが、「はじめに」から「あとがき」まで繰り返し述べられているように、「メディア論はメディア史である」という想いを体現しているように思える。曰く「新しいメディアの文法はまだ存在しない。ニュー・メディアが新しいメディアたるゆえんは、まだその文法が確立していないからに他ならない。しかし、新しい文法とは既存の文法の応用であり、変成である。結局ニュー・メディアの文法を読み解く鍵は、メディア史にしかないのである」というわけだ。

さて、ここで言及されているニュー・メディアにはもちろんインターネットも含まれていようが、本書で筆者がネットの今後に触れている箇所は案外少ない。例えば、オウム事件を端緒としてのインターネット空間での自己責任と自己実現の問題、ネット選挙への期待と危惧、出版からネットへの情報媒体の変化による共有的な教養の消滅とそれに伴う伝統的な近隣団体の消滅、を取り上げている。インターネットが隆盛を極める時代のオールドメディア、ひいてはジャーナリズムのあり方が正面から論じられているわけではない。しかし、第4章「ジャーナリズムを取り巻く環境」では情報化と匿名化のすすむ社会において「裏付けのとれた事実だけ」を報道する新聞に期待を寄せるとともに、現在の新聞等の問題点として昨今の選挙報道で特にみられるように瑣末な対立点をことさら際立たせ扇情的に伝えることを挙げ、結果として政治へのシニシズムを蔓延させていると訴える。そのうえでこのままでは人権擁護を旗印として国家による情報統制を求める「善意」の声があがることに警鐘を鳴らしている。佐々木氏の経済構造からみた現代メディアの問題と合わさって、その視点がどのようにネット時代のジャーナリズムにむけられるか、このあたりが今回の鼎談で語って頂く糸口となろう。

これを書いている時点で講演会当日まで一週間もなくなった。3人の演者を招いての講演会は編集部としても前代未聞。なんらかのかたちでのメディア関係者とはいえそれぞれがその背景も畑も違う演者の方々が当日どのような化学反応を起こすか、大いに楽しみなところである。(義)

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