〈生協ベストセラー〉 香山リカ・著『しがみつかない生き方 ふつうの幸せを手に入れる10のルール』(幻冬舎新書)―落とし穴から掬い上げる手―(2009.11.16)

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本書は、人生を窮屈で耐えがたきものにする深刻な要素に対して、批判や疑問を呈す。よくあるタイプの、どこか遠くにある幸せに眼を向けさせてその地点への到達法を指南するタイプの書物とは違う毛色を持つ。後者が天空を狙い定める一本の弓矢であるとするならば、前者は道端に点在する落とし穴を埋めるスコップのようなものか。全10章の構成で、1章ごとに1つのテーマを論じるスタイルをとる。特に恋愛や育児など、女性筆者ならではの視点が盛り込まれた章もあって、男性の読み手である私としてはなかなか興味深かった。全章を大きく二つに分けるとするならば、自己価値の確認や恋愛をはじめとした全時代を通し普遍的といえるものと、競争激化や育児ブームといった現代社会特有のもの、に分類できるだろう。ここでは現代社会特有のもののうち、特に私の目をひいた第2章を紹介したい。

『自慢・自己PRをしない』この章で取り上げられるのは謙虚からアピールへと塗り替えられた現代日本の意思表明における風潮である。1990年代初頭、日本人の間には自分を高く言わない、目立つ事を嫌う、控えめな風潮があった。しかし最近では就職活動の面接試験の場に代表されるような、自己アピールの姿勢が高い評価を得る傾向にある。この傾向は、日本人の性格の変化というよりはむしろ現代の自由競争社会を勝ち抜くための自己防衛ではないかと著者は言う。抜きつ抜かれつの競争社会では積極的に自分の価値を前面に押し出し、周囲に認めさせるくらいでなくては生き残っていけない、というわけである。そして肝心なのは、その風潮により何を得て何を失うのか、にある。これに関しては、社会経済生産性本部のアンケート、現場の産業医から聞いた話、産業カウンセラーへのアンケート、この3つの判断材料により1つの結論が示唆される。それは「社員は競争の激化やそれがもたらす雰囲気の変化を快く思っていない」ということだ。プレッシャーから精神病にかかる社員が急増したようだ。そしてもう一方の話題である、自由競争化による成果、についてはこう述べる。少なくとも本書で紹介される産業医の勤める会社では、精神病による休職が増えたり、社員の疲弊や部局の協調性が失われ、結局マイナスの結果しか得られなかったと。

私が昨冬に訪れた研究室の教授は「人生相談をするなら年上の女性が適任だ」と。本書は上記の「競争化社会」に関するものだけでなく「恋愛」「刹那主義」「老化・病気・死」「仕事に夢をもとめる」「子どもへの過度な思い入れ」「拝金主義」「生まれた意味への執着」など種々のトピックを含んでいる。何か思い当たるものがあるならば、一度本書を手にとって「年上の女性」の話を聞いてみるのも面白いのではなかろうか。(電)

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