笑いのない人生なんて、考えられない 日本学術会議講演会(2009.10.16)

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京都大学時計台記念館百周年記念ホールで11日、日本学術会議近畿地区会議主催の講演会、「人はなぜ笑うのか?」が開かれた。

開会挨拶で日本学術会議会長の金澤一郎氏は、様々な種類の笑いや、笑いの効果を概観したうえで「作り笑いをやめて、心の底から本物の大笑いができる人生を」と締めくくった。

関西大学名誉教授で日本笑い学会会長を務める井上宏氏は「人間の潜在的『笑い力』の顕在化」と題し、笑いが身体と心、そして人間関係にもたらす影響を説明した。身体への影響としては、リューマチの痛みを引き起こすインターロイキン6が、患者が笑うことで減少するという事例などを紹介した。心への影響に関しては、笑いの前後にどのような変化が生じるかを、心中を決意した家族が最後に吉本新喜劇を見たことで死ぬのをやめたなど具体的な事例を紹介し、また笑いの最中に人間がどのような状態にあるかについて息を吐き、力を抜いているといった身体的な状態および主客が未分離であるなど意識的な状態を挙げ、浄化と再生であるとした。人間関係への影響では、どんな民族人種にも笑いがあり、笑いが世界共通のものであることを挙げたうえで、笑いが人間関係の円滑剤であり、また敵意を持たないことの意思表示であることを説明し、それが結果的に心身の健康をもたらすとした。しかし井上氏は、笑いが心身の健康と神話的人間関係の手段であるとしながらも、笑いそれ自体楽しむ対象として目的であることを強調し、「笑いのない人生なんて考えられない」とも語っていた。

大阪大学医学研究科の岩瀬真生助教は「笑いの脳内メカニズム」と題し、笑いの情動過程として、面白いかどうかを判断する認知、愉悦感情そのものである体験、そして笑いに伴う顔の動きなどの表出の3つを示し、その脳内メカニズムを概説した。認知においては作り笑いと本物の笑いにおける脳の活性部分の違いを、そして表出においては表情筋に麻痺のある患者の写真を用いて、本物の笑いと作り笑いでそれぞれ麻痺の現れ方に違いが出る事例を示した。さらに岩瀬氏は、解明が困難な体験に関しても言及し、自らの仮説を示していた。

目白大学講師の野澤孝司氏は「笑い学研究から感性の科学へ向けて」と題し、表情や声ではなく、肚(ハラ・横隔膜)に注目して笑いをとらえた。横隔膜は呼吸をつかさどるという意味において、心と身体のつなぎ目ともいえるため、横隔膜に注目することは心身二元論の超克であり、また脳(理性)では理解できない感性としてのおかしさをとらえることができるのではないかと野澤氏は語る。そもそも横隔膜は二億五千万年前の急激な気候の変化による酸素濃度の低下に適応して哺乳類が身に付けた器官であり、これによって哺乳類は胎生を発達させることになった。胎生はやがて社会性をもたらし、そこから笑いが必要とされたという意味においても、笑いにおける横隔膜の重要性は大きいのではないかと野澤氏は指摘する。そして野澤氏ら研究グループは、横隔膜の動きを計測することによる笑い測定機を開発し、自己の笑いに同調するラフトラックなど応用可能性を示した。話の終わりには、実際の測定画面の動きも実演された。また野澤氏は人間性や社会性などをユーモラスに考え直す視点としてのユーモアニズムという視点を提唱し、ユーモアニズムは一段高い次元からの認識をもたらし、また理性も感性もすべてを俯瞰できるとも語った。

講演の最後には、すべての講師に対して、質疑応答がなされたが、他者の笑いが伝播する笑いの共振現象についての質問が多くみられた。

編集員の視点


井上氏が著書『笑い学のすすめ』(世界思想社)の冒頭でも断っていることだが、日本笑い学会は、日本「お笑い」学会ではなく、目的は笑いという現象を研究することにあるのであって、いかに人を笑わせるかを追求しているわけではない。そして、その帰結として井上氏は笑いという現象をを研究することにあるのであって、いかに人を笑わせるかを追求しているわけではない。そして、その帰結として、井上氏の話は笑い問う現象についての真摯な科学であり、ウケ狙いのトークショーではない。当然ながらこの講演もそのようなことを意図しているわけではない。

しかしながら、4時間も講演があればどんな講演でも時折聴衆から笑いが漏れることはあり、今回もその例外ではなかった。そこにきて、これが笑いに関する講演会だからこそ、笑いというものが私たちの世界の隅々、それこそ真摯に研究を報告する講演会にまで当然のようにいきわたっており、それが一定の効果を持っている、いや講演を進行していくうえでなくてはならないことに気づかされる。笑いというものが社会で担っている機能の大きさに対して、私たちはもっと自覚的になってもいいのではないだろうか。(町)

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