〈「5年条項」私の視点〉 大石高典 こころの未来研究センター研究員(2009.08.01)

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法人化後、あちこちの部局で常勤職定員の後に常勤職員が配置されないケースが増え、非常勤職や派遣職への置き換えが進んだ。この結果、同じ職場で「恒常的な業務」を行う立場が多様化した。身分が保証された人たちと、より不安定な雇用条件で、ある部分はワリキリって仕事をせざるを得ない人たち。労働観の違いが、日常業務の些細な状況で表面化し、心を一つにしてよい研究教育の場をつくっていこうというような雰囲気作りに水を差す。恒常的な業務を非常勤職員の超過勤務で補ったり、かつて常勤職が週40時間勤務でこなしていた仕事を非常勤職員が週30時間勤務でこなさねばならなかったりなど、実際の職場レベルでは様々な矛盾が顕現していると聞く。一方、研究畑であれば、「生き残る」ためには自分のキャリア・アップだけを考えざるを得ず、組織や、大学そのものに何を残すかを考えて行動することは自然と少なくなりがちだ。「非常勤職員は、5年以上働いてはならない」という「5年条項」の例外なき適用を進めることは、常勤と非常勤の間に職場に対する意識のさらなる乖離を招くだろう。

一律「5年」という基準の設け方に、大学が「経営」の思想でもって,これらの職能をもった人を使い捨てにするという軽視が潜んではいないか。なぜ5年なのか。こういった大学「経営」側の対応は、真剣な気持ちで業務に臨んできた職業人のプライドを傷つける。

それぞれの仕事はただ単に頭数があればよいというものではなく、それぞれに習熟を必要とする専門性が要求され、その専門性は一朝一夕に身に付くものではない。こういった自明のことを考慮せずに、5年で一律すべて首を切るということになると、現実問題として優秀な非常勤職員、たとえば膨大な文献に知悉した図書館職員や動植物の種類や分布を心得た研究林や植物園のフィールド技術者など、京大ならではの研究を下支えしてきた人材が失われてゆくことになる可能性がある。技官ポストが減らされている中、研究を支える専門的技能は短期間での職場異動のない非常勤職員によって維持されているという側面があることを忘れてはならない。

このように、京都大学が白眉とする基礎研究の維持充実には、実際の実験をサポートする技術職員や優秀な事務職員の方々の存在が必須であろう。研究で花を咲かせるためには、花や葉っぱだけでなく、根っことなる存在を無視できないはずだ。

この根っこは、これまで京都大学において長い時間をかけて「研究資源」として育まれてきたものであり、その伝統や文化を無視して、トップダウンで近視眼的なやり方で「経営資源」に転換しようとすれば当然無理が生じる。しかし、その摩擦をとくに非常勤職員の労働や雇用にかぶせるというやり方ははたしてフェアだろうか。

「5年条項」は、非常勤職員だけの問題ではない。少なくとも、今この時間にわれわれが共有する京都大学という場における労働観や学問観に「5年」という数字を持って楔を打ち込み、決定的な変更を迫るものだからだ。このような大学における労働原理・組織原理の転換を、十分な議論を行うこともなく進めてしまってよいものだろうか。「5年条項」の世界では、大学にいる人間の、大学への《愛》は生まれようもない。

(おおいし・たかのり氏は京都大学こころの未来研究センター研究員)

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