「誰もが発言できる時代」の小説の役割 未来フォーラムで平野啓一郎氏(2009.08.01)

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7月22日、百周年時計台記念館百周年記念ホールで京都大学未来フォーラムが開かれた。本フォーラムは大学と社会との協力と連携を深めるため、様々な分野で活躍する卒業生を講師に迎える講演会で、今回で39回目。

今回は、1999年にデビュー作『日蝕』で第120回芥川賞を受賞した、平野啓一郎氏が講師を務めた。講演のテーマは「小説の現状と今後」。自身がいかにして作家となったのか、何を目指すのか、そしてこれからの小説がどうなっていくのかを語った。会場は満員で、立ち見も出るほどの盛況ぶり。講演後の質疑応答でも、活発な意見交換が行われた。

平野氏は自分の小説には、「生と死」という一貫したテーマがあると言う。このテーマには父親の突然の死が深く関係している。当時平野氏は1歳だったので直接的な体験ではなかった。それでも「ある日突然死ぬ」というのが、子ども時代の平野氏にとっては不思議だったという。「死」を意識するなら、自然とその反対である「生」も意識される。そしてそれが「自分とはなにか」、「世界とはなにか」という問いにつながっていったという。

平野氏が『日蝕』を書いたのは大学生のころだが、入学当初は文学から離れようと考えていた、と語る。しかし平野氏いわく、90年代当時の京都は遊ぶ場所があまりなかったので、結局気づけば本を読んでいたそうだ。そのころはバブルの崩壊による就職氷河期で、平野氏は「一般的なサラリーマン」という将来に希望が持てなかった。さらに東西冷戦が終わった後の、均一化された日常を生きるのが是とされる時代が90年代だったと平野氏は言う。

その時代背景の中で、平野氏は『日蝕』を書いた。そして芥川賞を受賞したのだが、平野氏はこの作品が「若者の声」として捉えられたことに疑問を感じた。

現代の社会はネットを通じて誰もが発言することができる。これによってそれまでの「世代のラベル」がなくなる。つまり、誰もが自分を主張できるので、全体の声を代弁することができなくなってきているのだ。そしてこの「誰もが発言できる社会」においては、ますます他者との関係が重視される。

平野氏は最新作『ドーン』では個人と他者のそうした関係について扱ってみた、として講演を締めくくった。

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