〈生協ベストセラー〉 岡田暁生著『西洋音楽史』 ―「クラシック」を歴史的に楽しむ指南書―(2009.05.16)

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「音楽の歴史」とりわけ西洋「芸術音楽」、いわゆるクラシックの歴史を辿る。個々の章で中世音楽から現代音楽までの曲の進行形式・演奏法・ジャンルなどの諸特徴を具体例を挙げながら明らかにしていく。文学・絵画・建築等、同時代の他の芸術との比較や、や普仏戦争等の歴史的事象を音楽的観点から結びつけての精緻な分析、それぞれの時代の特徴を分かりやすく表す比喩表現も多用。「あとがき」にもあるように、専門分化のあまりにもすすんだ「クラシックの歴史」を門外漢でも分かるように通史的に解説するという試みは成功しているように思う。

グレゴリオ聖歌、オルガヌムやモテットといったジャンルを生み、音楽の背後の秩序を重んじたいわば「神の時代」の中世音楽。教会権力の衰退と自我の目覚めから、音楽の大らかな優雅さや「芸術家」としての作曲家という概念が誕生したルネサンス期音楽。協奏曲やオペラといったなじみのジャンルが登場する一方で、統一的なイメージに収斂させることなどほぼ不可能ともいえる多様性としてのバロック音楽。啓蒙の時代ならではの対話としての音楽形式(ソナタ形式)が生まれた18世紀古典派。聴衆のマス化、高度な音響技術開発、スター演奏家の誕生、といった現象に象徴される19世紀クラシック。娯楽としての音楽を追求する伊・仏と真面目なクラシックを追い求めた独という対立軸はあったものの、全体として市民を感動させ、日常からの解放させるという機能を有していた「無味乾燥になっていく時代だからこそ生まれた」ロマン派音楽。

それぞれの時代がその背景とともに縦横無尽に流れるように語られ、全体像が描かれていく。バッハやモーツアルトやベートーベン等の作曲家や作品たちにスポットをあてつつ、それぞれの時代を幾度も全体の文脈におき、相対化するのを忘れない。

ただ、それまで流れるように語っていた筆者の叙述が一転するのが最後の章だ。著者は第一次大戦後までの歴史を叙述したうえで、それまで自身が行っていた「作曲家/作品中心の音楽史の語り口」そのものを、自明のものではないとして俎上にあげる。「誰が何を作るか」から「誰が何を演奏するか」へと関心が移行した現代において、従来の「現代音楽の歴史」的な記述には疑問を抱かずにはいられないというのである。

そして最後に現代諸芸術の中で音楽のみがまだ一種の宗教的なオーラをまとっていると述べ、いまだに私たちが「感動」を音楽に求めている状況そのものに宗教を喪失した現代社会の精神的苦悩をみる。単に現代音楽が使い捨ての娯楽産業に堕ちていると嘆くわけでもなく、かといって楽観的にその可能性に期待を寄せるのみでもない。ここに現代の、一筋縄ではいかない「クラシックの黄昏」時代の複雑さが現れているように思った。(義)


《本紙に写真掲載》

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