隣の国の“戦後”を考える 徴兵拒否で前科者の現実(2008.12.16)

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12月6日文学部新館第一演習室において「韓国徴兵拒否企画~21世紀のみんなのいやなこと~」(主催:反戦と生活のための表現解放行動)が催された。韓国の兵役拒否をめぐる事件を撮った映像が上映されるとともに、識者による講演が行われた。(魚)

日本の35年にも及ぶ植民地支配から解放されたと思いきや、米ソの冷戦構造に翻弄される運命となった朝鮮半島。米国占領下で48年に建国された韓国では、翌年徴兵制を施行。極東地域における軍拡競争を嫌ったアメリカの意向により一時廃止されるが、朝鮮戦争をきっかけに再開。今日まで兵役は憲法で国民の義務と規定され、存続している。

原則的に韓国国籍を持つ全ての男子は、19歳になると身体検査を受ける。そこで入隊の資格ありとされた者は、2年間の軍務に就かねばならない。兵役を拒否すると、1年半程刑務所に入れられる。一方で国会議員など、有力者の子息の兵役忌避(※1)が社会問題となっている。韓国は現在でも北朝鮮と「戦争状態」にあり軍務には死の危険もある。

こうした隣国の状況を知ることで、軍隊とは何かについて考えてみることが、今回の集会の目的。第1部では兵役拒否を扱った映像作品「107号室、2等兵の手紙」が上映された。これは03年、韓国政府が米国のイラク侵略を支持し、軍をイラクに派兵する方針を決めた。これに疑問を持った韓国陸軍二等兵カン・チョルミン氏が、休暇を機に軍務に復帰するのを拒否し、有志とビルの一室に立てこもった8日間を描いた作品である。作中では、母親からの説得や、「この立てこもりを、他の政治闘争と連帯させよう」と勧誘する政治団体の勧誘に苦悩するチョルミン氏が映され、会場には重苦しい空気が流れた。

第2部では、現地で兵役拒否の運動を行うカン・イソク氏が登場。氏は高校時代の礼拝強要反対運動(※2)を通して平和についても考えるようになった人物で、兵役に就かないことを宣言している予備兵役拒否者だ。始めに彼の活動を紹介する映像が放映された。

映像では、軍隊の存在そのものに疑問を持ったイソク氏ら有志が「軍隊?」という団体を作る。今年10月1日の国軍の日に行われた軍事パレードで、イソク氏が拳銃を模したクッキーを持って中央分離帯の茂みから全裸で飛び出し、戦車に立ち向かう、というパフォーマンスを決行するまでを描く。「107号室~」の悲壮感すら感じさせる立てこもりとは、打って変わって常に楽天的。「軍隊が無かったら誰が国を守るのよ!」と食ってかかるオバちゃんにも笑顔で「じゃあ、あなたはどうして軍隊に行かなかったのですか?」と応戦したり、上半身裸の上にインクを塗って町を駆け抜けたりする姿は滑稽でもあった。開場からも時折り笑い声が漏れた。

上映後、参加者からの質問に答える形でイソク氏の講演があった。「代替的兵役義務(※3)についてどう思うか?」との質問には、「代替的と言っても、前提としてあるのは国民を戦争に協力させるという考えであり、反対だ。私は韓国だけではなく周辺諸国も含んだ軍隊そのものの廃止を目指している」と述べた。

また、「現在の活動で目指しているものは?」との問いには「1万人で徴兵を拒否すること。そうすれば刑務所も満杯になって、徴兵制度は崩壊する。自発的に軍隊に行きたい人なんか周りには1%も居ないし、実際現在だって年間60人くらいの非エホバが徴兵拒否して刑務所に行く。私はこうした人達をリンクさせて大きな力を持たせる役目を担いたい。思想信条だけではなく、単純に軍隊に行くのはイヤ、という人達も歓迎」と語った。

更に、「兵役拒否で刑務所に入った人は、前科者となり雇ってくれる場所が無い。その人達の為にタクシー会社を作る構想もある」と語った。

次に、人間・環境学研究科で韓国の兵役問題を研究しているパク・ジンファン氏が、韓国における兵役制度、および徴兵拒否についての基礎情報を解説した。氏は、これまでの兵役拒否は、エホバの証人(※4)信者に固有の事象として考えられてきたこと、非エホバ信者の兵役拒否は00年代に入り生まれた、ごく新しい現象であること、イソク氏らの活動も非常に新しい潮流であり、それに対して既存の平和運動を行っている団体の間では、反発が強いことを強調した。

第3部では、『韓国の軍事文化とジェンダー(権仁淑著)』を翻訳した山下英愛・立命館大講師がコメントした。イソク氏らの運動が韓国社会に出現したことに対し、自身が韓国の大学に在籍していた90年代と比べ「時代が変わったんだなあ」と感慨深く話した。

他に、軍隊という制度自体が、「男の役割(女を守る)」「女の役割(男に守られる)」を規定するジェンダー化の役割を果たしている、と指摘。そしてそうした「ジェンダー化」は、軍隊といった目に見える制度としてだけではない。たとえば玩具が「男の子用」「女の子用」に分けられていたりするなど、日本も含めたアジア圏において生活の至る所に見られるものだ、と語った。

最後にイソク氏は「もし、目の前にいる相手を殺さなければ自分が死ぬ、という状況になったとき、私は相手を殺してまでも自分が生き残ろうとは思いません。他の人を殺してでも生き残ろうとする人の気が、私は知れません」と語り、集会は幕を閉じた。

徴兵…変わる韓国社会運動


今回の講演で明らかとなったのは、山下氏の「時代が変わったなあ…」の言葉が表すとおり、韓国社会における運動の変遷である。軍隊のあり方を問う運動は韓国社会において90年代までは皆無であった。80年代の激しい民主化闘争でもそのような議論は皆無であった。韓国社会において軍隊、そして徴兵は日常化され、自明のものとされていたからだ。

90年代は、エホバ信者に固有の問題という留保つだったが、00年代からは社会一般の問題として良心的兵役拒否が扱われるようになった。

そして「軍隊?」である。この組織はそれまで韓国社会において「常識」であった軍隊と言う国家機構そのものを否定している。わずか20年の間に、ここまでラディカルな運動が出現するまでになったのだ。

ただ、パク氏の指摘どおりこの「軍隊?」はその主張のラディカルさと、パフォーマンスの過激さから、従来の平和運動関係者と溝があるのは事実。彼らの活動が、今後の韓国社会において新たな運動潮流となるか否かを判定するには、あと数年は掛かるだろう。その点でもイソク氏の今後には要注目である。

また、「107号室、2等兵の手紙」を観ながら私は、「ゴーマニズム宣言special脱正義論(小林よしのり著)」と(映画と漫画で非対称ではあるが)対比をさせていた。「脱正義論」について、具体的な内容をここには記さないが、個人の連帯だった活動がいつの間にか、永続的な闘争組織のように変質してしまった、(というように描写する)前者。それに対し、後者は「(8日間限定の予定だった立てこもりを)もっと長期化して、他の政治闘争と連帯しよう」との、学生政治団体からの申し出をチョルミン氏が最終的には拒否したことにより、一旦運動を終わらせた様子が描かれている。

どちらのあり方が良く、どちらが悪いかを簡単に判断することは出来ない。しかし「107号室~」のラスト、8日間の立てこもりを終え大統領官邸まで行進する途中で、チョルミン氏は警察に拘束され連行されてしまうのだが、そこにある種の清清しさを感じたのは私だけだろうか。



※1 「兵役忌避」は、その理由を問わず兵役から逃れようとする行為。「拒否」は宗教的理由など確固たる信念を持ち、兵役を拒む行為。
※2 韓国においては英才教育を目的とした特殊学校を除き、高校に進学する際は国立、私立を問わず抽選によって割り振られる。そのため、学生が信仰していない宗教教育を施す学校に進学させられてしまうこともある。
※3 社会奉仕など他の活動に就くことを軍務の替わりとみなす制度。韓国ではノ・ムヒョン政権下で導入が検討されたが、イ・ミョンバク政権で白紙撤回。
※4 異端とされているキリスト教系宗教団体。教義上兵役の他、国旗への忠誠、国歌斉唱、輸血などを禁じる。

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