訂正・再掲載  「ノーベル物理学賞 解説」 川合光教授「『対称性なき世界』の始まり」(2008.12.16)

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幣紙11月01日号、11月16日号におきまして、ノーベル物理学賞日本人受賞に関する解説取材記事を、非常に多くの誤りを含んだまま、掲載許諾を得ずに発行してしまいました。取材を受けて下さりました川合光先生、九後太一先生、ならびに読んでいただいた読者の皆さまに謹んでお詫び申しあげ、改めて掲載許可を得まして再掲載をさせて頂きます。

この場で、反省と今後のため、原因と改善を述べさせていただきます。

原因としては、編集員が取材後、訂正箇所の指摘依頼を出さなかったこと、その背景として、ボイスレコーダからの書き起こしを過信していたことがあります。専門性の高い記事ということで不備の指摘をしていただくことが当然予想されたにもかかわらず、ひとえに編集員が未熟でありました。

また、編集部による編集員の取材への指導が不足し不徹底であったことも原因として挙げられます。そのような未熟な編集員の記事を確認不足のまま掲載したことには、編集員一同でお詫び申しあげ、指導の徹底をして参る所存です。

改善として、専門的な記事の確認依頼の徹底、各号担当者による編集員への依頼状況確認、さらに、取材先との記事内容に関するやりとりのため、時間に余裕ある記事の制作を徹底していきます。

今号に関しては、改めて川合、九後両先生に訂正をしていただき、掲載許可をいただきました。両先生には慎んでお詫びと感謝を申しあげます。

今後は改善を徹底し、正確な記事の作成を目指していきたいと思います。この度は真に申し訳ございませんでした。(麒)



今回の物理学賞受賞にあたって、小林・益川両氏がかつて所属した素粒子論研究室で研究をしている川合教授に受賞の意義を語っていただいた。(麒)

―小林・益川理論の位置付けとは。

世の中には4つの相互作用がある。強い相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用、重力ですね。重力以外の三つの相互作用は標準模型というものでほぼ完全に表わされています。wボゾンとzボゾンという粒子が実験的にも確認されて標準模型が確立したのがだいたい1980年ころです。その時にまだ見つかっていなかった粒子が2つあって、1つがt(トップ)クォーク、もう1つがヒグス粒子で、tクォークはもう見つかっています。ヒグス粒子のほうは今話題になっているヨーロッパのLHC(Large Hadron Collider)で何年か後には見つかるだろうと思われています。それが見つかったら標準模型に現れる粒子は全て見つかったということになるわけです。

益川先生と小林先生の仕事は、時間反転の破れが標準模型でどのようにして起こっているかを示されたものです。時間反転に対する不変性というのは、時間の流れを逆転した世界を考えても、もとの世界と変わらないということですが、それが少し破れているということが、実際の素粒子の実験でわかっています。それを標準模型の枠内できちんと説明できるということを示したのが小林・益川理論です。ただし、そのためにはクォーク・レプトンは3世代必要になります。第1世代は我々の身の回りの物質をつくっているもので、電子と電子のニュートリノ、uクォークとdクォークです。そういうもののコピーがもう一つあるのは当時から予想されていました。2世代目はμ粒子とμニュートリノ、cクォークとsクォークです。益川先生と小林先生は時間反転対称性の破れを説明するためには、さらにもう一世代必要であることを示し、3世代目の存在を予言したわけです。それがτ粒子とτニュートリノ、tクォークとbクォークです。

標準模型が確立したのは80年ですから、標準模型の確立前にその枠内で説明しようということ自体が斬新だったわけですが、それが21世紀になって実際に確認された。これは、高エネ研とアメリカのSLACで独立にやっているB-Factoryという、bクォークを加速器でたくさん作ってどういう風に壊れるか調べるかという実験で実証されたわけです。自然界は小林・益川理論どおり3世代目のクォークを導入することにより、時間反転の対称性を破っていたわけですが、標準模型が確立する過程にあってそういうことが言われたことが卓見だったわけです。

―時間反転が破れているとは具体的にどういうことなのでしょうか。

南部先生の対称性の自発的破れと、益川先生・小林先生の時間反転の破れというのは実は違う内容でして、もちろん、南部先生も小林・益川先生もノーベル賞に値する仕事をなさっているわけですけれども、それを対称性の破れということで一つにくっつけられていることに、素粒子屋さんには少し違和感を覚えている人がけっこういると思います。小林・益川先生がとるならおそらくカビボという人ととるのではないかと思われていた。南部先生が受賞されるとしたら単独かおそらくゴールドストーンという人と一緒にとるんだろうと思っていたんですね。それが益川先生・小林先生ととるということに、対称性という言葉でひとくくりにするのは誰がしたんだろうと。おそらく意図的にごっちゃにしたんでしょうね。何かの判断があって。その判断自体は日本人には非常にいいものになりましたが(笑)。

それで、南部先生の対称性の破れというのは、対称性の自発的破れのことです。つまり、システム自身は対称性をもっている、つまり元の理論は対称だとする。けれども、状態が対称性を破ってしまっている。たとえば、磁石ですね。あれは温度を上げていくと磁性がなくなるんですね。温度を冷やしていくとまた磁石になる。その時に、どちら向きの磁石になるかというのは、元々の基本法則は対称なのでどちら向きの磁石になってもおかしくないんですね。だけど、実際はどっちかに向いちゃうんですね。そういうのを自発的な対称性の破れといいます。つまり、本来の法則は対称性を破ってないんだけど、状態が対称性を破ってしまうと。磁石なんかがそうですし、超電導なんて現象もそうなんですね。で、そういう自発的対称性の破れというキーワードで自然界を眺めてみると、我々が真空と思っているのは、真空というのは空っぽですね。ですけど、実際は量子力学の世界ですから、粒子とか反粒子とかが仮想的にできていて、真空自体は非常に複雑なシステムなんですね。その真空自体が対称性を自発的に破っているんだということを、そういうことが実際におきているんだということを示されたのが南部先生なんですね。

ちょっと歴史的なことを言いますと、南部先生は60年にそういうことを発見されたわけですが、それはハドロンの世界でカイラル対称性という対称性が自発的に破れ、そのために陽子や中性子が質量をもち、一方でパイ中間子のように質量がゼロにちかい粒子が出てきているのだということを示されたわけです。その対称性がゲージ対称性だった場合、その対称性が破れることによってゲージ粒子が重くなる。重いということは低いエネルギーでは作りにくいということですから、それで弱い相互作用が弱くなっている。すなわち、弱い相互作用というのは重い粒子によって媒介されていて、それはゲージ対称性が実際に破れていることによってそうなっているんだと、そういうモデルを最初に作ったのがワインバーグとサラムなんですね。その前にそういうことが実際に起こり得るんだと言ったのがヒグスという人です。ヒグスはヒグス粒子が見つかったらノーベル賞を取るんではないかと言われてますけど。そのヒグス理論を使って弱い相互作用と電磁相互作用をまとめたのがワインバーグとサラムです。一方、強い相互作用のほうは自発的に破れていないんですけどやはりゲージ理論で、量子色力学といっています。弱電磁のワインバーグ・サラムと量子色力学をまとめたのを標準模型と言ってるわけです。標準模型が実験的に確認されたのは80年ぐらいですけど、理論的には標準模型の最後の完成ともいえるのが、益川先生・小林先生の仕事です。小林・益川先生の時間反転の破れですが、CP対称性の破れともいいます。これは、場の理論はCPT変換というもの、すなわち、C(Charge conjugation:粒子と反粒子の対称性)という変換とP(parity:鏡像性)という変換とT(time reversal:時間反転)という変換を同時にした変換のもとでは完全に対称という性質があります。すなわち、粒子と反粒子を変えて、さらにそれを鏡に映す(鏡に映すというのは空間の方向を変えるということですね)、同時に時間の方向も変えると。そうすると、理論はいつでも対称だと。そういう意味で、時間反転で対称であることとCP対称性は同じことなんです。CPというのはCとPを行うということで、CとPとTをやったら必ず対称というわけなので、T不変性があるかということとCP不変性があるということは同じです。そうすると、ある素粒子があったとする。その素粒子にCP変換をしてやる。粒子だったやつを反粒子にして、しかも鏡に映すわけですね。もとのものと、CP変換をしたものを用意してきて、それがどういう風に壊れていくかを比べてみる。そうすると、CP対称性があるなら、それぞれの粒子が壊れてできたものの間にも対称性があるはずですね。それが実は違うというのがCP不変性の破れです。実際にそういうことをB-Factoryで見てCPの破れの度合いを確かめたところ、小林・益川理論と一致していたということです。

そうすると何が重要かというと、宇宙の最初で、宇宙ができたときは粒子はなくて、何もない空っぽの空間だったとし、インフレーションで空っぽの物が膨張する。それで大きな宇宙に広がるんですけど、温度は非常に低くて、粒子も反粒子もない空っぽで、空間だけが広がっていく。それがインフレーションが終わった時に、どーんと加熱される。熱い状態になるわけね。熱い状態になると、粒子とか反粒子とか光子とかそういうものがうじゃうじゃできる環境になるわけです。その時は何もないところから作ったので、粒子と反粒子の数は同じわけです。ところが、反応していくうちに粒子のほうがちょっとだけ多くなる。たとえば100万分の1ぐらい多くなる。宇宙が冷えるときに粒子と反粒子が反応して対で消滅していくんですけど、初めにちょっとだけ粒子のほうが反粒子より多かったとすると、対消滅した後に粒子が残りますね。それが我々の周りを構成する粒子だと。つまり、自然界における粒子と反粒子のアシンメトリーというのはそこから出ているのだと。そういう意味で、CPの破れというのは物質が存在する根拠ともなっているわけですね。

―仮に反粒子が多くできていたらどうなっていたのでしょう。

どちらを粒子と呼び、反粒子と呼ぶかは便宜的に言っているだけです。また、粒子と反粒子ととり変えても、低いエネルギーではさほど変わらないものができます。たとえば、反粒子を集めて反物質が作れる。実際、反水素とかつくってるわけですが、普通の水素とほとんど同じものになります。ただそいつらをぶつけると消滅して光子になります。ただし、詳しく調べると、ほんのちょっとだけ違うというのがCP対称性の破れですね。

―南部先生の発見の意義とは。

自然現象は対称性をもっているけど、真空という状態が対称性を破っているんだと。基本法則は対称であるというところがとても重要なんですね。特に、ゲージ対称性なんていうのは、対称性があるからゲージ理論という矛盾のないものがありうるわけで、基本法則には対称性があるんだけど、真空がそれを破っちゃってると。我々に直接見えている対称性だけが基本法則の対称性ではないということですね。

―この世界というのは例外的な世界ということなのですか。

標準模型というのは強い相互作用をあらわす量子色力学と弱電磁相互作用をあらわすワインバー・サラム理論からなります。弱電磁のほうは自発的に破れているんですが、強い相互作用の量子色力学のほうは破れていないんですね。そういう意味で、ゲージ対称性にも破れているものと破れていないものがあります。

―素粒子は粒子だったり波だったりと聞いて我々の常識を超えた印象を受けるのですが、同じく常識を超えた対称性の破れという現象はそういう性質と関係がありますか。

それはないですね。粒子というのは点に見えるわけですね。ですけど、点に見えているものは実は波の塊だったというのが量子力学です。波というのは各点ごとに値がある、いわば、グラフとしてかけるようなものですが、その中で比較的局在化したものを波束と言います。そういうやつを作ってやると遠くから見ると点に見えますね。それが粒子は波だということです。ですから、量子力学というのは、古典力学で点粒子として記述していたものが、実は波だったということです。これはそれだけのことで、対称性の自発的破れと直接は関係ありません。

―南部先生が自発的対称性の破れから素粒子の数を予言したのは、素粒子のそういった特殊な性質によるものなのだろうか、と個人的には考えたのですが。

南部先生が粒子の性質に気づかれたのは、強い相互作用をするハドロンという粒子はクォークからできているわけですけど、そこにはカイラル対称性という対称性があって、その対称性が自発的に破れているらしいということです。で、そのせいでクォークというものが重いものになっているらしいと。南部先生がどのようにそれを発見されたかといいますと、超電導体の中では電子が2つくっついてクーパー・ペアというものになり、それが物質の中にいっぱいできることによって超伝導が発現するのですが、ハドロンの世界でもこれに非常に似たことが起こっているということです。クォークと反クォークがくっついてカイラル対称性が破れると。南部先生はそれを最初に発見したわけですが、それはもちろん量子力学で初めて起きる現象です。考える元になるものが量子力学だというのは、全てのことです。

―京都大学と小林・益川両氏のつながりとはどのようなものでしょう。

湯川さんの仕事が35年、朝永さんの仕事は戦時中からですが、完成して世に出たのが49年、13年経っているんですね。南部さんが60年、小林・益川が72年。だいたい十何年おきなんですね。坂田さんが活躍されたのがだいたい60年前後ですね。坂田さんは湯川さんと共同研究もあります。南部さんもまた朝永さん、湯川さんの影響を受けられたと思います。だから、あの時代に活躍されていた人たちは多かれ少なかれ湯川・朝永の影響を受けているんですね。そういう意味で、日本の素粒子論というのは十何年おきにいい仕事が出ているんですね。(小柴さんは実験なのでこの流れではありませんが、87年のしごとですから、やはり、小林・益川の十何年後です。)その基礎を作った最初の二人、湯川さん、朝永さんはやはりすごいですね。坂田さんはこの2人とはちょっと違った視点で、クォークというもののすごく近くまで行ってたんですね。その残念さをようやく小林・益川がはらしたといえるのではないでしょうか。

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