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「源氏物語」の受容と多様性を立体的に論ずる

2008.12.18

京都大学時計台記念館百周年記念ホールで12月13、14日、文学研究科主催の国際シンポジウム「世界の中の『源氏物語』ーその普遍性と現代性」が開催された。内外から様々な分野の研究者が招かれ、「源氏物語の本質に立体的にせまる」ことを狙いに基調講演と3つのセッションおよび、各セッションのパネリストによるラウンドテーブルが行われた。

1日目は文学研究科長苧阪(おさか)直行氏などからの挨拶に続き、まず「日本文学の中での『源氏物語』」と題したセッションが行われた。各セッションの流れは概ね共通して、それぞれのパネリストがはじめに20~40分発表をしてからパネルディスカッションに入った。このセッションでは日本における源氏物語の受容、解釈の有り様を歴史的に考察。趣旨は源氏物語そのものよりは源氏物語を介して日本、ないし日本人の思想や文化について語るというものだったのかもしれないが、各人の発表内容は多岐にわたった。

九州大学の今西祐一郎教授は、源氏物語が皇統の万世一系をおかすタブーを描いているのにも関わらず公に発表され読まれ続けてきた背景について持論を展開した。

光源氏のモデルである在原業平の登場する伊勢物語の後人注記(登場人物の「男」「女」について後世の人が付け加えた注釈)に着目し、それが文徳・清和・陽成(55・56・57代)系から光孝・宇多・醍醐(58・59・60代)系への皇統の移行(直系の天皇が生存しながら皇統が傍系に移行した稀有な例。光孝帝は陽成帝の祖父の兄弟にあたる)に絡む政治的意図をもった注釈であると主張。傍系が直系に対する正当性を主張するために、その注釈によって陽成帝が業平と二条后の不義の子であることを示唆したのだと言い、紫式部はそのスキャンダルを「歴史」の一つと認識していたからこそ宮廷における禁忌を書けたのだ、と論じた。 

その他、源氏物語の六条御息所が中世王朝物語に登場する物の怪に与えた影響、江戸時代に本居宣長らが唱えた「もののあはれ」論、源氏物語を原作とした漫画『あさきゆめみし』にみられる現代日本の文化などが論じられた。

基調講演では源氏物語をチェコ語で完訳した福井県立大のカレル・フィアラ氏がどのような道のりで翻訳をしたかを解説。散文の処理、掛言葉の訳などの具体例を交えて講じた。

セッション2では「海外での受容と翻訳の問題」と題してイギリス、ドイツ、台湾から招かれた3氏(トーマス・マッコーリ氏、ユディット・アロカイ氏、林文月氏)がそれぞれの国における源氏物語の翻訳事情などを語った。マッコーリ氏は源氏物語の翻訳について「ドメスティケーション(読者を作品に引き寄せる)」と「異国化(作品を読者に引き寄せる)」という対となる概念を基とし、ウェーリー訳やタイラー訳などについて考察を加えた。

林氏は自らの源氏の和歌翻訳について、五言絶句、七言律詩などの中国古典の型にはまらない劉邦の詩をモデルとすることで、中国古典文学作品とは一線を画するものとして書いた、と説明した。

2日目はセッション3で美術と源氏物語の関連性について、仏像をはじめとした国風文化との絡みや絵巻物についての解説が行われ、続いて最後のプログラムとなる各セッションのパネリストによるディスカッションが行われた。まとめとなる議論にも特にならず、光源氏の愛は純愛であったか否か、作者が女性であることにはいかなる意義があるか、などについてざっくばらんな討論がなされた。

最後に司会の川合康三氏(文学部教授)が「それではまた源氏物語2000年紀で会いましょう」と締めくくり、2日間にわたるシンポジウムは幕をとじた。

《本紙に写真掲載》

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