【ルポ】防犯カメラ設置の熊野寮で起きていたこととは(2008.11.01)

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10月4日付けの京都新聞に「反権力・学生自治の象徴・京大熊野寮に監視カメラ」と題する記事が掲載された。文意を要約すると①反権力の象徴京大熊野寮が②今年の夏に防犯カメラの設置を大学に求め実際に置かれた③監視社会を容認するとは学生の意識も変わってしまったのだろうか…というものだ。現役寮生でもある編集員がカメラ設置に至るまでの経緯と寮の現況をルポすることにした。(魚)

相次いだ不審者事件


今年度に入ってから熊野寮では不審者が侵入する事件が相次いで発生した。

まず4月29日夜11時頃、正体不明の「不審者」数名が食堂に侵入、その後隣接するBMXパークに移動し依然たむろしていた。この時は全寮に放送をかけ、寮生数十名が捜索に当たったが、既に「不審者」たちの姿は無かった。深夜1時頃に再び姿を現し寮生と口論になったが、結局2時ごろ去っていた。この間、12時半頃「熊野寮生が騒いでいる」との通報を受けた岡崎派出所からこれから熊野寮に行く、との連絡があり、制服私服各2名の警察官が来た(寮内への立ち入りは寮生が阻止したもよう)。

その後、5月中旬頃から度々初老の男性が寮に侵入し、自治会所有のホワイトボードや壁に油性ペンで落書きを繰り返し、更には「寮の秩序を破壊しに来た」などと発言したため、6月に自治会の決定によって立ち入り禁止となった。しかしその後も2,3度姿を現しては寮生と口論になった。

更には5月26日午後6時45分頃、バイクに乗って現れた不審な二人組が寮内に侵入し、寮の屋上に上っていった。これを目撃した寮生が寮外に退去するよう求めたが、二人組はこれを無視し更に煙草を吸おうとした。屋上は防水マットが敷いてあり火気厳禁だったため寮生が注意したところ、不審者はこれも無視。寮生と不審者とでもみ合いになり収拾がつかなくなってしまったため、止むを得ず警察へ通報を行った。午後7時頃、川端警察署からパトカー6台が到着し付近一帯が騒然となる中、不審者は帰りその日は何とか一件落着した。

しかし、それだけでは終わらなかった。騒動が記憶から薄れつつあった6月30日深夜12時頃、食堂に突然焦げ臭い匂いが充満した。その場にいた寮生の間に「もしや火事では」との思いがよぎり騒然となった。

その後不審な人物が食堂西の塀から火花の出る何かを投げ込んでいた、また別の人物が寮にロケット花火を打ち込んでいた、との目撃情報があった。不審者は先月の不審者と同一人物である可能性が濃厚だったため、翌日警察に通報をした。

後日この件に関しては示談が成立し一応の解決を見たが、相次ぐ不審者事件に寮内では不安の声が高まっていた。

そして防犯カメラ導入へ


そのような状況下で防犯の為のカメラ導入が浮上したのはある種必然だったとも言える。

「これまでは全寮に緊急放送を掛けてその場にいる寮生が出てきて対応する、っていうパターンで何とかやって来れたと言うのはあるけれど、今回の件では問題(もみ合いになったとか)もあって対応がうまく出来なかった。だからあらかじめ不審者が入ってこないように威嚇する“抑止力”になるものがあったほうが良いのではないか、と思った」カメラ導入を提起したS氏は語る。また、現場検証に来た警察から「(犯行の)動画か、画像か何かがないとこっちとしては動けない」と言われたそうで、万が一何かあったときの証拠として使えるのではとの考えもあったという。

一方で、カメラを設置するのはプライバシー権を侵害することになるのでは、など反対の声も上がった。しかし、安全を求める声の方が大きく、結局8月5日のブロック会議[※]で7割以上の賛成により、導入が決定した。当初は寮の自治会会計から予算を出す計画だったが、学生センターが全額工面してくれることになった。同センターのB氏は「これまでも両側の要望には可能な限り応えて来ましたが、今回の場合はこちらも寮自治会が不審者事件の対応で苦慮していたのは知っていて大変だなあ、と感じていました。寮生の安全に関わる事柄ですから速やかな設置を決定しました」と話す。

結局夏休み中に設置の工事も終わり、2台の防犯カメラが運用が玄関前の駐輪場を24時間監視している。ある女子寮生は「まあ、最近は世の中でも異常な事件とかがしょっちゅうあって怖いし、あと寮生は400人もいると正直誰が不審者でそうじゃないかとか分からないから不安って言うのは有りますよね。だからカメラとかも良いと思います」と語る。

とはいえ、今回の決定に不満を持つ者も居る。一部寮生は有志で7月に「軍事委員会(準)」を結成した。これはカメラに頼らず自力で寮を防衛しようという趣旨の団体で、玄関に机、冷蔵庫、棚を置き現在もほぼ毎晩「夜警」を行っている。

メンバーのT氏は「個人的にはカメラなど意味がない(と思う)、常に誰かが見張りをしている方が遥かに効果的な抑止力」と語る。同委員会に対しては「ただ目立って騒ぎたいだけでは」など冷ややかな声が多いものの、T氏は8月中旬と10月上旬に寮に入ってきた不審者を説得して放逐することに成功した、と自らの「戦果」を力説する。

カメラの効力か、軍事委員会の成果かは不明だが、幸いなことに夏以降、不審者による騒動は起こっていない。

寮自治は永遠に


ここで強調しておくべきなのは寮生自身が自ら決定した、という事だ。設置の費用を出したのは大学当局だが、管理権は自治会側にある。プライバシー侵害の懸念に対して、カメラは一定時間が経過すると映像が自動的に消去するものにした。映像を見るために必要なパスワードは自治会常任委員長と人権擁護部長の2名に限ることにする旨を決めた。寮に関することは寮生同士の話し合いで決める、という原則は変わらない。

最後にカメラを設置した効果は有るのかS氏に聞いてみた。「それはちょっと微妙やね、あんまり書いて欲しくないけど(笑)」防犯カメラはその存在を立て看なりステッカーなりで外部の人間にも分かるように周知する事で、不審者侵入の抑止効果を発揮するわけだが、それ以後の作業は全く行われていないそうだ。このいい加減さが良くも悪くも熊野寮なのだが、「自分たちが生活する場のことは自分たちで決める」という自治の精神は今後も衰えないであろう事は確かだ。

※ブロック会議 毎月2回行われる寮生の会議。近い部屋同士で構成されるブロック単位で開催される。寮の日常活動はここの議決を経て決定されるまさに「寮生は日々の住民投票である」を実感する場である。

《本紙に写真掲載》



〜参考〜 虚像としての反権力と防犯カメラ


1965年に開設された熊野寮は、その後の学生運動の高揚期にはありとあらゆる政治団体や宗教団体が入り乱れる「学生運動の拠点」としてその名を轟かせた。成田闘争や国鉄民営化反対、PKO法案反対などその時々の政府の政策に反対する運動が活発に行われていた。

90年代にもなると大多数の寮生は「ノンポリ化」したものの、自治会常任委員会執行部は政治的問題意識が高い者が多数を占めていたため、反権力としての寮のイメージは残り続けた。

しかし、00年代に入ってからは執行部の政治色も薄まり、2004年には「反戦・反差別・反権力」の看板も下ろした。現在の寮で政治活動をしている者は「寮生全体の2%以下です〈寮ホームページの記述より〉」

もはや「反体制の拠点」としてでは無く普通の「学生の生活空間」となっている。

それでも警察庁公安部にとっては依然として脅威に映るらしく、今年度に入ってからも4月28日と、6月9日の2度にわたる令状家宅捜索が行われ、令状にはない玄関の占拠や、事前連絡をしない、捜索現場に寮生を立ち入らせないなどの違法行為がなされた)。

防犯カメラは近年の治安に対する不安の高まりを背景に、各所での設置が進められている。京大においても90年代以降、キャンパスへのカメラ設置がたびたび検討されてきたが、その都度学部生の反対運動に遭い、取りやめになってきた経緯がある(吉田南では設置)。

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