【解説】ノーベル物理学賞受賞“小林・益川理論” 第1回 川合光教授 「『対称性なき世界』の始まり」(2008.11.01)

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今回の物理学賞受賞にあたって、小林・益川両氏がかつて所属した素粒子論研究室で研究をしている川合教授に受賞の意義を語っていただいた。(麒)

● 新たなクォークへ


―小林・益川理論、それから今回の受賞というものの物理学上の位置付けはどのようなものでしょうか。

まずは世の中には4つの相互作用があります。強い相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用、重力ですね。重力以外の3つの相互作用は標準模型というものでほぼちゃんと表わされいると。その標準模型が実験的にwオゾンとかzオゾンとかいう粒子を用いて確立したのがだいたい1980年ですね。その時にまだ見つかっていなかった粒子が2つあって、1つがt(トップ)クォーク、もう1つがb(ボトム)で、tというのはもう見つかっています。bというのが今話題になっているヨーロッパのLHC(Large Hadron Collider)、それで何年か後には見つかるだろうと。それが見つかったら標準模型というのは予想通り6つ全部あったということになるわけです。小林・益川先生の仕事というのは、標準模型の中での時間反転の破れですね。時間反転というのは時間を逆転した際に同じような世界になるかどうかということですけども、時間反転の破れというのは実際に素粒子の実験でわかっているわけです。それを標準模型の枠内できちんと説明できる。ただし、説明しようとすると、3世代必要であると。1世代目というのは我々の身の回りの物質で、例えば電子と電子のニュートリノ、それからuクォークとdクォーク、これが一世代なんですね。そういうものが二世代までコピーがあるのは当時皆知ってたんです。二世代目はμクォークとμニュートリノ、それからcクォークとsクォーク。標準模型は確立したのは80年ですから、標準模型の確立前にその枠内で説明した。そして、CP対称性(時間反転対称性)の破れがあって、そこにはクォークが三世代必要だとして、三世代目のクォークを予言した。レプトンにはτとτニュートリノ、tクォークとbニュートリノが必要だと。それで実際に実験で三世代目のクォークが確認された。それから、高エネ研とアメリカのSLAGでやっている、B-Factoryといって、bクォークをたくさん作ってどういう風に壊れるか調べる、そうすると小林・益川理論における時間反転の破れがきれいに見えた。そういう意味で小林・益川理論は、世の中でなぜCPが破れていて、それからクォークが3世代あることを説明できているということになっている。それが歴史上の標準模型が確立する過程にあってそういうことが言われたと。

―時間反転が破れているとは具体的にどういうことなのでしょうか。

南部先生の時間反転の破れと、小林・益川の時間反転の破れというのは実は違う内容でして、今回、南部先生も小林・益川先生もノーベル賞に値する仕事をなさっているわけですけれども、それを対称性の破れということで一つにくっつけられていることには素粒子屋さんは少し違和感を覚えているという人がけっこういると思います。両先生がとるならおそらくカビポという人ととるのではないかと、南部先生がとるとしたら単独かおそらくゴールドバーガーという人と一緒にとるんだろうと思っていたんですね。それが小林・益川先生ととるということに、対称性という言葉でひとくくりにするのは誰がしたんだろうと。おそらく意図的にごっちゃにしたんでしょうね、何かの判断があって。その判断自体は日本人には非常にいいものになりましたが(笑)。 

● 自発的対称性の破れ


それで、南部先生の対称性の破れというのは、いわゆる対称性の自発的破れ、つまり、システムは対称性をもっていて、元の理論は対称だと。だけども、状態によって対称性が破れてしまっているんだと。たとえば、磁石ですね。あれは温度を上げていくと磁性がなくなるんですね。温度を冷やしていくと磁石ができる。その時に、どちら向きの磁石になるかというのは、元々の基本法則は対称なのでどちら向きの磁石になってもおかしくないんですね。だけど、実際はどっちかに向いちゃうんですね。そういうのを自発的な対称性の破れと。つまり、本来の法則は対称性を破ってないんだけど、状態が対称性を破ってしまうと。超電導なんて現象はそうなんですね。で、そういう自発的対称性の破れというキーワードで自然界を眺めてみる。我々が真空と思っているのは、真空というのは空っぽですね。ですけど、実際は量子力学の世界ですから、粒子とか反粒子というのが真空の世界でも仮想的にできていて、真空自体が非常に複雑なシステムなんですね。その真空自体が対称性を自発的に破っているんだということを、そういうことが実際におきているんだということを示されたのが南部先生なんですね。

ちょっと歴史的なことを言いますと、南部先生は60年にそういうことを発見されて、その対称性、つまりゲージ対称性が実際に破れているんだと、そのゲージ対称性が破れることによってゲージ粒子というものが重くなって、重いということは量子力学的には作りにくいということですから、それで弱い相互作用が弱くなっているんだと。弱い相互作用というのは重い粒子によって媒介されていると。そういうゲージ対称性が実際に破れていることによって成り立っているんだというモデルを最初に作ったのがワインバーグ・サラムなんですね。その前にそういうことが実際に起こり得るんだと言ったのがヒブスという人ですね。ヒブスはb粒子というのが見つかったらノーベル賞を取るんではないかと言われてますけど。そのヒブス理論を使って弱い相互作用をどうするか、電磁相互作用をまとめたのがワインバーグ・サラムで、強い相互作用というのは自発的に破れていないんですけど、強い相互作用の理論を量子場の力学と言います。その弱電磁のワインバーグ・サラムと量子の力学をまとめたのが標準模型と言ってるわけです。

● 南部から小林・益川へ


その標準模型が実際に確立したのが80年ぐらいですけど、ワインバーグ・サラム理論というのが出て、それを検証する段階が小林・益川先生の仕事です。だから、小林・益川先生の時間反転の破れ、CPの破れというのは、例えば場の理論にはCPT変換というものがあって、C(Charge condigation:粒子と反粒子の対称性)という変換とP(parity:鏡像性)という変換とT(単位:時間)という変換を同時にしたCPT変換というものでは完全に対称と、これは定義です。粒子と反粒子を変えて、さらにそれを鏡に映す、鏡に映すというのは空間の方向を変えるということですね。同時に時間の方向も変えると。そうすると、理論はいつでも対称だと。そういう意味で、時間反転が対称であることとCP対称性は同じことなんです。CPというのはCとPを変えるということで、CとPとTをやったら必ず不変ということなので、T不変性があるかということとCP不変性があるということは同じです。そうすると、ある素粒子があって、それにCP変換をしてやる。してやると、粒子だったやつは反粒子になって、しかも鏡に映すわけですね。そういうものを用意してきて、それがどういう風に壊れていくかみていく。そうすると、CP対称性があるなら壊れたものにも対称性があるはずですね。それが実は違う。実際にそういうことをB-Factoryで見て、それでCPの破れがどのくらいかの度合いを確かめるて小林・益川理論と一致してたということですね。

そうすると何が重要かというと、宇宙の最初で、宇宙ができたときは粒子はなくて、何もない空っぽの空間だったとすると、インフレーションで空っぽの物が膨張すると。それで大きな宇宙に広がったんですけど、温度は非常に低くて、粒子も反粒子もない空っぽだと。空間だけが広がっている。それがインフレーションが終わった時に、どーんと加熱される。熱い状態になるわけね。熱い状態になると、粒子とか反粒子とか光子とかそういうものがうじゃうじゃできる環境になるわけね。そういう時は何もないところから作ったので、粒子と反粒子の数は同じわけです。ところが、反応していくうちに粒子のほうがちょっとだけ多くなる。たとえば100万分の1ぐらい多くなる。宇宙が冷えるときに粒子と反粒子が反応して潰れていくんですけど、ちょっとだけ粒子が多かったから残りますね。それが我々の周りを構成する粒子だと。つまり、粒子と反粒子のシンメトリーというのはそこから出ているのだと。そういう意味で、CPの破れというのは物質が存在するいわれともなっているわけですね。

● 京都学派の伝統


―小林・益川先生は名古屋大学出身である一方、湯川・朝永の影響も言われますが、どういうものでしょうか。

湯川さんの仕事が35年、朝永さんの仕事は戦時中から完成して世に出たのが47年、12年経っているんですね。南部さんが60年、小林・益川が72年。だいたい十何年おきなんです。坂田さんが活躍されたのがだいたい60年前後ですね。南部さんもまた坂田さんの下に出入りされていた人ですし。だから、あの時代に活躍されていた人たちは多かれ少なかれ湯川・朝永の影響を受けています。そういう意味で、日本の素粒子論というのは十何年おきにいい仕事が出ているんですね。小柴さんというのは例外だとしても、十何年おきに仕事が出てて、その最初に二人というのはやはりすごいですね。坂田さんというのはちょっと違った視点で、クォークというものにすごく近くまで行っていた。その残念さを小林・益川が補ったんですね。

※次号では「小林・益川」の直弟子である九後太一・基礎物理学研究所教授に聞きます。

《本紙に写真掲載》

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