語学教育は世界観を変えるか 仏元首相・ドヴィルパン来日(2008.07.16)

Filed under: ニュース
????????????????????
京都大学百周年時計台記念館・百周年記念ホールで6月20日、国際フォーラム「多極的世界観の構築と外国語教育―多様な言語文化への挑戦」が行われた。当日は多くの学生が定員500名の会場を埋め尽くしたほか、フランス大使館からも職員が来場した。今回のフォーラムは高等教育研究開発推進機構が主催。日仏交流150周年・京都大学創立111年記念を兼ね、日仏同時通訳で行われた。

基調講演では、フランス共和国元首相ドミニク・ドヴィルパン氏が「多極的世界における多言語主義と文化的多様性の挑戦」をテーマに話した。世界の言語の画一化、グローバル化が文化的危機だと訴える氏は、少数言語に対する理解を求めた。「言葉の渡し守は平和の渡し守でもある」と指摘した氏は、翻訳と詩を世界の平和と対話に不可欠なものだとし、代表的な詩人としてイスラエルのアモス・オズとパレスチナのマフムード・ダルウィーシュを挙げた。

大学の役割については、「一連の不完全で歪んだ翻訳が、逆説的に確信や新たな解釈の源になり、不寛容な社会を開いたものとしてきた」とし、「この役割を担うのはその性格上一つの言語だけに閉じこもることのできない大学だ」と語った。教育政策についても触れ、学校間の交流と交換留学など、はやくから多様な外国語学習の選択肢を子どもらに提示すべきという見解を示した。

また、世界の文化多様性の保全のふたつのツールとしてユネスコとフランコフォニー(フランス語圏の意)国際組織を挙げ、両者に肯定的な評価を与えた。

【後ほど「フランコフォニー国際機関は言語帝国主義的なうごきを続かせる結果になってはいまいか?」と会場から問われた氏は、母国語ではない仏語による詩からネグリチュード(黒人性)運動の概念を生み、植民地主義に断固対抗した詩人エメ・セゼールを挙げ、母語以外の言語を使うことが政治的な帝国主義とは結びつかない、と答えた】

米国一極主義の崩壊と言語文化


人間・環境学研究科教授の佐伯啓思氏は、「混迷の中の世界―アメリカ一極主義から多極的世界へ」と題した報告を行った。

主な論点は3つ。1つ目は現代の世界情勢が深刻な混沌に向かっているという点。「限られた国が政治的覇権を争う多極主義と各地の民族・文化を重視する多元主義を区別し、後者を推進せねばならない」と述べた。また、自由の理念と多文化主義の概念が対立した例として、仏での女性イスラム教徒のスカーフ問題に端を発する「宗教シンボル禁止法」の問題やムハンマド風刺画問題にも触れた。

2つ目は現代のグローバリズムについて、「文化的画一性を生んでいる」とした。ただ、その中で逆に自国文化への認識が強まり、歴史文化への問い直しが盛んに行われるようになった、とも。

3つ目は言語と文化について。「言語は歴史・精神性・価値観、など国特有のコンテクストが付加されており、相互の食い違いはいくらでもおこりうる。逆に言葉の壁がある、と自覚することが自国の文化背景を再発見するきっかけになる可能性もある」と語った。

最後に「多言語教育が現代日本の閉鎖性と言葉の弱体化をうちやぶることを期待する」として報告を終えた。

続いて三浦信孝・中央大学教授は、「日本の国策としての多言語主義」と題した報告を行い、主に仏と日本の言語政策について語った。特に仏について、「外向きには多言語主義でありながら、内向きには憲法に共通語は仏語ひとつ、と書くなど少数言語無視の政策をとっている」とし、仏の姿勢を閉鎖的共同体主義として批判した。

多言語主義を巡る諸問題への提言


講演者3名を討論者としたパネルディスカッションでは、司会を務めた人間・環境学研究科准教授の小倉紀蔵氏がいくつかの質問をし、3名が応じた。

まず、「果たして一国の言葉しか話せない人の言語生活・世界観は貧しいのか?」という問い。三浦氏は、「一つの言語の中にも既に差異・多言語性が存する。が、それに気づくためにもに多言語を知ることは重要」と、ドヴィルパン氏も「すべての色をひとつの言語でみれるが、それだと創造性を養うことは難しい」と述べた。佐伯氏は「特殊性と普遍性を対立させることはない」と簡潔に答えた。

第2に「多言語主義と競争を本質とする自由主義経済は折り合いをつけられるか?」という問い。ドヴィルパン氏は「自由主義に取り込まれた現代の英語は、文化・精神を内包しなくなりつつある」と述べた。三浦氏は社会言語学でのランゲージマーケットの概念を持ち出し、「強い言語が勝つ現状を考えると政策的な意図がないとまずい」と、対して佐伯氏は「文化や言語は市場経済の元、前提となるものであって商品化するべきではない」と述べた。

最後に東アジアの外国語教育への提言を求められたドヴィルパン氏は「まず手段はどうあれ、アジア自体を再び学びなおし、自国社会の真髄を再認識するべき。そうすれば世界の文化自体をも豊かにできる」と述べ,
フォーラムを締めくくった。

今回のフォーラムはメッセージとしては意義深いものを多く含んでいたが、具体的な教育システムや、「文化」というものの意味内容についての踏み込んだ議論にまでは至らなかった。主催の高等教育推進課は今回の開催のみに満足することなく、語学教育の様々な具体的問題に対応していくことが望まれる。 (義)

《本紙に写真掲載》

トップページお問い合わせサイトポリシー著作権について個人情報の取り扱いについて
京都大学新聞社 〒606-8317 京都市左京区吉田本町 京都大学構内 TEL:075-761-2054(直通) 075-753-7531(内線2571) FAX:075-761-6095