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炎症慢性化を解明 タンパク質TRPM2の働き

2008.06.18

TRPM2と呼ばれるタンパク質の働きにより炎症が悪化・慢性化するメカニズムを工学研究科の森泰生教授(生化学)らのグループが解明した。研究成果は炎症性疾患の症状緩和をもたらす新たな薬剤の研究・開発に生かされる。この論文は英科学誌 Nature Medicineにも掲載された。

炎症は本来、創傷治癒のメカニズムであり、必ずしも病気ではない。しかし、何らかの原因で悪化・慢性化すると、病気だとみなされるようになる。炎症を悪化・慢性化させる原因には様々なものがあるが、その内の1つに「活性酸素の過剰産生」が挙げられる。

血液中のマクロファージは好中球を呼び寄せ、ともに消毒作用を持つ活性酸素を作り出し、創傷の治癒を行っているが(炎症)、活性酸素が過剰に産生され続けると、創傷部位を越えて損傷を引き起こすようになる(悪化・慢性化)。マクロファージが好中球を呼び寄せる際にCXCL2やCXCL8と呼ばれる物質を出すこと自体は分かっていたが、その生産のメカニズムはよく分かっていなかった。このCXCL2/CXCL8生産の全体像を明らかにしたのが今回の研究である。

マクロファージの表面にはTRPM2と呼ばれるタンパク質が埋め込まれている。TRPM2には活性酸素を感知して穴を作る働きがあり、マクロファージはその穴(チャネル)からカルシウムイオンを取り込んでいる。実験では、正常なマウスとTRPM2遺伝子を欠損させたマウスとを比較。TRPM2のないマウスでは好中球が集まらなくなった他、潰瘍性大腸炎のモデル実験でも、潰瘍の形成が大幅に抑えられた。結果、TRPM2が開き、マクロファージ内のカルシウムイオン濃度が上昇すると、CXCL2の産生が誘導されることが明らかになった。

今後はTRPM2をターゲットにした炎症性疾患の新薬開発が進められる。森教授は「TRPM2がカルシウムイオンを通さなくするブロッカーを作れば、これまで治りにくかった慢性的な症状にも有効だろう」と話している。

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