文化

書評 酒井啓子『イラクは食べる』

2008.06.18

読んでいると腹が減ってくる。近場にイラク料理の店はないものかと考えてしまう。「イラクは食べる」には基本的にイラクを取り巻く様々な情勢が書かれている。ただ、集中力を欠いた状態で読み進めているといつの間にか食べ物の話に変わっている。いったいいつ変わったのかと慌てて読み返してみると、マムルーク朝の自律的支配を最後に維持したバグダード州知事ダーウド・パシャという人物の名前から、同名のミートボールをトマト味のソースで煮込んだ料理の話になっていたようだ。

別に何の絡みもなく食べ物の話をしているわけでもない。情勢の変化は人々の食生活にも変化をおよぼす。住む場所を追われ、地域の伝統食を食べられなくなったと不満を抱く人々、反対にイラクの周辺国に広まるイラク料理など。食生活は生活の基本であり、すべてのことから切り離せない。

前述したような人の名前から食べ物に話がうつることは何件かあり、その話題の転移に少々の強引さを感じはするのだが、その極め付けが終章のひっくり返しごはん「マクルーバ」である。炊き込みごはんをひっくり返して大皿に移すと、上から羊肉、野菜、ごはんという層状になっている料理である。そもそもイラクの料理というよりはイラク以外の周辺国でよくみられる料理である。どういった文脈でこの料理が紹介されたかといえば、2003年以降イラクでは様々なことが「ひっくり返った」からである。まあ、そういう本である。(幸)

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