企画

【特集】京大硬式野球部 制約の中、リーグ優勝目指す

2021.12.01

本企画では、京大硬式野球部を取り上げる。昨年7月、京大の課外活動自粛要請により同部の活動再開がずれ込んだことなどを踏まえ、関西学生野球連盟は春季リーグ戦の中止を決めた。活動の本格再開後、リーグ戦優勝を目標に掲げるも、今年の秋季リーグ戦まで3季連続の最下位となっている。しかし、プロ注目の投手や、珍しい器具を用いて選手を支えるデータ班の存在など、明るい要素もある。コロナ禍による制約が続く中、リーグ戦優勝を目指して奮闘する部員に話を聞いた。(編集部)

目次



    データ班 分析で勝利呼び込む 投球解析装置も活用
    VS 関西学院大学 京大 最終戦敗れる 秋季リーグ 投手陣踏ん張れず


部員に聞く 京大硬式野球部

秋季リーグ 開幕戦勝利も最下位

京大硬式野球部は、関西学生野球連盟に所属している。春と秋のリーグ戦を、同連盟に属する他の5大学(関西大・関西学院大・近畿大・同志社大・立命館大)と戦う。2021年秋季リーグ戦は、5年ぶりに開幕戦に勝利したものの、最終的には2勝7敗1分で最下位という結果に終わった。勝利した2試合はいずれもロースコアに持ち込んだ試合だった。サヨナラ負けを2度喫するなど、惜しい試合も少なくなかった。出口諒・新主将は、秋季リーグ戦を振り返り、「開幕戦に勝利できて勢いに乗れるかなと思っていたら、壁に当たった。もう少し勝ちたかった」と語った。投手陣は、水江日々生投手、水口創太投手、岩本在仁投手が登板過多になったことが反省点だという。

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【本紙の取材に答える出口諒・新主将】



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活動制限の弊害

硬式野球部は2020年3月末以降、大学からの全面的な課外活動自粛要請を受けて活動を休止した。連盟は春季リーグ戦の延期開催を模索し、硬式野球部は7月10日以降、要請の緩和を受けて活動を再開した。しかし、課外活動に参加していた京大の学生の感染が確認されたことを受け、京大が7月21日に再度全面的な自粛要請を出したことで、硬式野球部も再び活動を休止した。連盟は、「感染拡大や加盟校の活動状況などを総合的に判断」し、春季リーグ戦の中止を決めた。硬式野球部の活動の本格再開は同年8月末にずれ込んだ。

再開後も、他の京大の課外活動団体と同様に、大学による制限を受けている。一日あたりの活動時間が原則として3時間以内と定められているため、コロナ禍以前と比べると練習時間が減ったという。出口さんは、「練習によって実力を伸ばさなければならないにもかかわらず、今は実力を維持するだけの練習になっている」と指摘した。

活動制限の弊害は、練習時間の不足だけではない。硬式野球部は、プロ野球でいう1軍、2軍にあたる制度として、AチームとBチームに選手を分けている。今年は合宿が認められなかったため、例年キャンプを行っていた期間には、大学による人数制限を考慮してAチームとBチームで、別々のグラウンドで練習をした。一緒に練習する機会がなく、AチームとBチームの実力差がかなり開いてしまったという。出口さんは、「4回生の選手の経験が、Bチームに伝わっていない」と嘆いた。

感染症対策のため、選手だけではなく、マネージャーも様々な対応をしている。検温や消毒といった基本的な対策のほか、体温の入力が完了していない人への催促等も行っているという。島岡琴子マネージャーは、「選手が気持ちよく活動するために、誰でもできるが誰かがしないといけないことに取り組んでいる」と話した。また、他大生のマネージャーは大学の活動制限によりグラウンドに来ることができないため、リモートでの書類作成等を行っている。島岡マネージャーは、「モチベーションの保ち方が難しい中で一緒に作業してくれており、感謝している」と明かした。

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【打撃練習の様子(11月25日、吉田グラウンド)】



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春のリーグ戦に向けて

秋季リーグ戦が終わり、4回生が引退した。9つのポジションのうち、4回生がレギュラーであった5つが空くことになる。出口さんは、「3回生には下回生の時から試合に出ていたメンバーが少なく、秋季リーグ戦でも良い成績を残せたわけではなかった。これからはレギュラーを固定しないで戦いたい」と話した。また、4回生野手が多く抜けるため、他大学から例年以上にノーマークになることが予想される。出口さんは、「そこをうまく突ければと考えている」と明かした。

これまでの主将は下回生の頃から試合に出ていた選手が多かったが、出口さんはそういった選手ではない。自身について、「皆と同じ目線でレギュラー争いをする一人だと思っている」と話す。

出口さんは今後の抱負について、今年のチームが実績と経験で劣ることは自覚しているとしたうえで、「全員で楽しみながら、目標である優勝に向かってしっかりやっていきたい」と述べた。

マネージャーも優勝のためにチームを支える。飯田萌菜実マネージャーは、「選手が最大限の力を発揮できるようにサポートすることがマネージャーの仕事。コロナ禍で色々な問題がある中、マネージャー全員で力を合わせていきたい」と語った。

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もっと知ってもらうために

出口さんは、関西学生野球連盟が主催する大学野球の人気があまりないと話す。そうした状況を受け、硬式野球部では広報にも力を入れている。2018年頃からAmebaブログで「吉Gのキセキ」という選手やマネージャーのメッセージを掲載している。また、今年10月からは脇悠太・前主将が中心となり、「京大ベースボール」というメディアを立ち上げた。脇さんは、「京大ベースボールは硬式野球部の広報紙ではない」と話す。自社媒体を持っておらず、現在は公式サイトでの硬式野球部選手の特集が中心だが、将来的には硬式野球部にとどまらず、京大の学生スポーツを専門に報道していくつもりだという。現在、部外からも記者を募集中だ。

出口さんは大学野球の魅力について、「高校野球よりもレベルが高く、プロで活躍する可能性がある選手もいる。玄人好みだと思う」と話す。

2022年春季リーグ戦は有観客の試合となることが予想される。リーグ戦の入場料は一般千円、学生500円、中学生以下無料。チケットはリーグ戦当日に球場にて発売している。硬式野球部に興味を持った方は、一度観戦に行ってはいかがだろうか。(凜)

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データ班 分析で勝利呼び込む 投球解析装置も活用

野球とデータの融合が最近のトレンドだ。東京大学では、野球部データ班の斎藤周さんが福岡ソフトバンクホークスからスカウトされ『GM付きデータ分析担当』になるという。京都大学の硬式野球部にも、データ班に所属するアナリストがいる。経済学部3回生の三原大知さんだ。

データ班が担う主な業務はライバルチームの情報収集と、自チームの選手を分析することだ。班員は総勢十名ほどで、ほとんどが選手との兼任で務めている。その中でも三原さんは、前キャプテンの脇悠大さんが「三原はデータ班の中でも特殊な役割を担っている」と評するように、自チームのデータ分析のみを専属で担当する数少ない人物だ。出身校である灘高校でも野球をプレーした経験はないのだという。

「チラシを見たのがきっかけ」と、硬式野球部への入部は偶然の産物だった。当時のコーチで、11月から新たに監督に就任した元ソフトバンクの近田怜王氏とも協力して、自らが入部する直前に部に導入されたピッチング測定器の「Rapsodo(ラプソード)」を投手のトレーニングに活用した。一見、理系の専門的知識が必要そうな器具だが、三原さんは「文理や学部はあまり関係がない」と話す。三原さん自身は高校の時にメジャーリーグのサイトから興味本位で学んだ。ラプソードが出す球速や回転数などのデータをもとに、どこを改善すれば良いか、どういう球種を武器に加えたら良いのか、自チームの投手にアドバイスするという。

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【カメラでボールを撮影し成分を測定する】



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【ラプソードに内蔵されたカメラが、ボールの成分を捕える。】



rapsodo3.png【投球を終えるごとに、計測されたボールのデータを確認していた。】

実際にデータ班が活躍した試合に、キャプテンを務める出口さんは9月4日の近畿大学戦を挙げた。データから、近大で中軸を務めるとあるスラッガーが特定のコースに投げられた球を打ったとき、打球が必ず一方向に絞られることが判明。シフトも引くなど攻め方を徹底し、4打数で単打1本に抑え込んだ。その試合では京大は勝利を掴んでいる。

データ班として、選手とのコミュニケーションは欠かせない。選手たちは、怪我やコンディションのことも含め、監督や年の離れた首脳陣にはなかなか直接話せないことも多いという。そんな選手たちのため、三原さんは選手が喋りやすいように窓口をいつでも開けている。三原さんについて水口さんは「投手起用やコンディショニングなどの話をして、やりやすい環境にしてくれている。体に不調がある時、話しやすいのは首脳陣の中でも三原」とその活動に信頼を置く。

来季注目すべき選手として、三原さんは村尾昂紀、木村圭吾の3回生投手二人をあげる。「この秋は投げられなかったが、二人とも直球にスピードがある」と語る。また、2回生の水江日々生については、「水江はコントロールがよくて、器用さがある。連投も大丈夫な選手」と信頼が厚い。水口さんは三原さんの分析について「実際に直すのは大変だが、分析のおかげで課題が見つかりやすい分、どうしたら良いのかわかるし、練習を工夫しやすい」と話す。

強力なデータ班のサポートをどこまで結果に繋げられるか。来年春のリーグが楽しみだ。(航)

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VS 関西学院大学 京大 最終戦敗れる 秋季リーグ 投手陣踏ん張れず

10月24日、京都大学はわかさスタジアム京都にて今季の関西学生リーグの最終戦となる関西学院大学との2回戦を迎えた。先発の岩本在仁をはじめ、水口創太、池田唯央、川渕有真の4人が登板したが関学打線を抑えられず、11―2で敗戦しリーグ最下位で今季を終えた。

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【先発し力投する岩本投手(10月24日、わかさスタジアム京都)】



前日に行われた関学との1回戦を2―3で制して勢いに乗る京大は、1回表から片岡太志のセンターに抜けるヒットなどで一死満塁のチャンスを作る。早速試合が動くかと思われたが、後続が二者連続の三振を喫し無得点に終わった。4回には一死二・三塁のピンチを迎えるも、強烈なライナーをファーストの岩城孝典が好捕するなど守備にも助けられ、先発の岩本は無失点に抑えた。

試合が動いたのは5回。一死一塁でタイムリーツーベースを打たれ先制点を許すと、立て続けに2点を奪われる。6回から継投した水口は147キロの速球を見せるも、失策もあって2点の追加点を許した。7回と8回には山縣薫、愛澤祐亮のタイムリーにより京大は反撃を開始。2―5と3点差に詰め寄るも、8回には池田・川渕の両投手が相手の打線につかまり6失点と総崩れ。9回はチャンスを作れず、試合を終えた。

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【5回、ライト前ヒットを放つ松下和樹(4年)】



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【6回から登板した水口】



初回からチャンスを作るもあと一打が出ず無得点に終わり、守備には乱れが見られるなど、来季に向けての課題も浮き彫りになった試合だった。

次期キャプテンの出口は、ライナー性の打球でランナーが戻れずダブルプレーに取られた場面が二度あったことを念頭に、「走塁など、改善すべき点があった。来年度は走塁面も打撃面も技術を上げ、リーグ優勝を目指す」と述べた。この試合は4回生の引退試合であり、リリーフを務めた3回生の水口は、「前日からの連投の疲れもあったが、4回生が最後ということで楽しんで投げようと思った」と振り返った。(滝)

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