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高温超伝導メカニズム解明へ 「奇妙な金属」磁場で消失

2008.06.04

理学研究科の芝内孝禎准教授らの研究グループが、IBMワトソン研究所および名古屋大学と共同で、高温超伝導体がもつ金属としての特異な性質が、高磁場において消失することを発見した。この研究成果は米国科学誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」5月12日から16日の週の速報電子版に掲載された。

超伝導とはある一定の転移温度まで温度を下げることで金属が電気抵抗を持たない状態になることである。電気を流す際の損失がないので多くの技術革新の可能性をもつ性質であるが、転移温度は一般にかなりの低温であり、温度を下げるためのコストが問題となる。

高温超伝導体とは超伝導状態となる金属のうち転移温度の高い銅酸化物系統のものである。具体的には低コストな液体窒素の温度である絶対温度77度よりも高い転移温度をもつものが多い。しかし、高温超伝導体がなぜ超伝導状態になるのかはいまだ解明されていない。

高温超伝導体には、転移温度以上で様々な普通の金属とは異なった性質があり、その状態は「奇妙な金属」と呼ばれる。その代表的な性質は、普通の金属のように低温で電気抵抗が温度の2乗に比例しないことである。

今回発見されたのは、高温超伝導体に強い磁場をかけると奇妙な金属の状態が失われ、普通の金属へと変化することである。変化が起こる磁場は温度とともに変化していき、絶対零度では超伝導の状態から急激に状態がかわる量子相転移という新しい現象が存在が明らかになった。この発見は高温超伝導を引き起こす奇妙な金属状態が磁気的機構によるものであることを示唆するものであり、高温超伝導の仕組みの解明への一歩となる。

実験は、現在最も強い磁場を扱えるフロリダの高磁場施設で、高温超伝導体の中でも比較的不純物の影響が少ないタリウム系高温超電導体を用い、試料中の酸素量を調整し、転移温度を下げた状態で行われた。

高温超伝導の仕組みについては様々な理論が候補としてあるが、この発見は高温超伝導の発現に磁気的な機構が働いていることを示唆しており、高温超伝導体の統一的理解への大きな手掛かりとなることが期待される。

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