〈書評〉ノーベル賞受賞者が説く学ぶ喜び 益川敏英「学問、楽しくなくちゃ」(2021.08.01)

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本書は、益川敏英氏の講演録や雑誌への寄稿を5本収録した一冊である。益川氏は、CP対称性の破れを説明する六元クォークモデルの研究を評価され、2008年にノーベル物理学賞を受賞したことで知られる。本書では、そういった素粒子物理学の研究に加えて、学問をすることの喜び、大学の役割、さらには世界平和への思いなど、益川氏の様々な見解を読むことができる。

本書で最も印象的なのは、益川氏が学問をする喜びについて語る部分である。益川氏自身は、過去の偉人達への憧れや新しいことを知る喜びが駆動力となって、努力しているという感覚無しに学問や研究に打ち込んできたという。学生にも、無理矢理努力するのではなく、自然に打ち込めるようなものを見つけてほしいと述べている。また、真剣に1つの学問を勉強するだけでなく、0・5くらいの力で別の学問を学ぶことを勧めている。このように「1・5」を学ぶことで、自分の研究対象が持つ性質がその対象に固有のものなのか、他の学問とも共通するものなのか分かるようになり、より深い理解につながるという。益川氏自身は、素粒子物理学の研究に打ち込むかたわら、労働組合活動や平和活動にも積極的に取り組んだ。

近年の大学を巡る問題についても、本書の中で積極的に提言している。国立大学の法人化や、研究内容を評価して支給する競争的資金の積極的導入など、すぐに役に立つことばかりが求められる状況に警鐘を鳴らす。「100年経ったら役に立つかもしれない」という視点で科学を見てほしいと述べ、目先の利益追求では見つからないのが科学であると喝破している。

益川氏は「いちゃもんの益川」の異名をとるほど、議論好きで知られ、本書でも議論の大切さを何度も強調している。学生時代に同世代の友人と豊かで広がりのある議論をすることが、向上心や人間の幅につながると指摘し、読者にも積極的に議論することを勧めている。記者は二年前の春、大学入学時の学部ガイダンスで益川氏による講演を聴いたが、その際も新入生からの質問に対して生き生きと答えていたことを良く覚えている。

先般、益川氏が上顎歯肉がんのため81歳で死去した。専門とする素粒子物理学の複雑な研究とは裏腹の、明快な思考とユーモア溢れる語り口が魅力の研究者であった。益川氏の話をもう直接聞くことができなくなってしまったのは大変残念ではあるが、本書をはじめ、益川氏が残した講演録や原稿には、益川氏の思考が息づいている。ぜひ手に取ってみてほしい。(凜)

「学問、楽しくなくちゃ」
益川敏英(著)
新日本出版社
2009年10月20日発行

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