文化

モダンな曲線美に至るまで 「フランソワ・ポンポン展 動物を愛した彫刻家」

2021.07.16

7月10日より、左京区にある京都市京セラ美術館で、日本初となるフランソワ・ポンポンの回顧展が開催されている。ポンポンはフランスの彫刻家で、1922年、67歳のときにサロンに出品した実物大の石膏像《シロクマ》で高い評価を受け、動物彫刻家として人気を博した。今回の展覧会では、ポンポンが通った美術学校があるディジョン博物館の出品を含め、約90点の作品が展示され、無名時代から晩年に至るまでのポンポンの生涯と作品を追う。

彼は当初、人物像での成功を目指していた。ブルゴーニュ地方の町ソーリューで木工職人の家に生まれたポンポンは、パリに出て、《考える人》などの作品で有名なロダンのもとで、下彫り職人として働き彫刻を学んだという。動物彫刻で有名なポンポンだが、人物像も非常に見ごたえがあるものばかりだ。特にユゴーの小説『レ・ミゼラブル』に登場する少女のブロンズ像《コゼット》からは、水桶の重みと、それを持ち上げるコゼットの体全体の緊張が伝わってくる。

だが、ノルマンディー地方の小さな村で暮らし始めると、彼は動物に目を向けるようになる。家畜たちを観察する機会に恵まれたポンポンは、動物の後を何時間も追いかけながら塑像を作ったという。当時のスケッチも展示されており、細かく寸法が書き込まれたメモからは、ポンポンが綿密な観察に基づいて制作に励んでいたことがわかる。

そして、朝日に照らされたガチョウの輪郭線に美を見出したことで、極端に単純化した彼独特の造形を確立していく。アヒルや鶏や豹など、羽と毛の細かな表現がそぎ落とされ、それによって生まれたしなやかな曲線をエッジが美しく引き締めている。こうした抽象的な造形はエジプト美術の影響のほか、日本美術との関連も指摘されているようだ。例えばぽってりとしたフォルムが愛らしい《フクロウ》は、パリのセルヌッシ美術館にある、フクロウをモチーフとした江戸時代の香炉と類似性があるという。

そして晩年、ポンポンは動物独特の動きの印象を作品に表すことを目指すようになる。《シロクマ》はそうした作品のひとつで、サロンで人気を得た後、さまざまな素材で卓上サイズの作品が作られた。今回はそのうち3つが展示されており、中でも大理石の《シロクマ》は、柔らかさと力強さを兼ね備えた姿に石のあたたかみが加わり、いくら見ても飽きない味わい深い作品だといえよう。

ポンポンの作品がまんべんなくとりあげられ、彼の作品世界に存分に浸ることができる。会場では、角度を変えて作品を眺めながら、いちばん気にいった作品がどれか語り合う観覧者の姿が見られた。展覧会は9月5日まで。観覧料は一般が1800円、大学・高校生が1200円、小・中学生が800円。開館時間は10時から18時で、月曜は休館である。(凡)

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【大理石の《シロクマ》。柔らかなシルエットに癒される】

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