〈書評〉夢に関わる全ての人に『星に願いを、 そして手を。』(2021.07.01)

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どこか懐かしい夏の終わりである。中学生の祐人・理奈・春樹・薫は、なじみの科学館の図書室で、夏休みの宿題に追われていた。カルピスをふるまい4人を見守る館長夫妻、爽やかで微笑ましいこの光景は一瞬にして急転する。目に飛び込んでくるのは喪服の黒だ。突きつけられる館長の死と科学館の閉館をきっかけに、社会人になった4人、館長の過去、その孫で高校生の直哉という、三世代にまたがる物語が展開していく。

本作は第29回小説すばる新人賞を受賞した、青羽氏のデビュー作だ。最大のテーマは「夢」である。ただし、この作品における夢は必ずしも輝かしいものではない。人と夢とは多様な関わり方があることを、登場人物ひとりひとりが体現している。

例えば、宇宙への憧れで繋がっていた4人のうち、祐人は夢を諦めた側だ。自分の能力に限界を感じて文系に進み、今は市役所に勤めている。一方で理奈は大学で宇宙を研究し続け、夢に向かって順調に歩んでいるように見える。しかし実際は宇宙への好奇心が鈍り、科学者という夢から離れることもできないまま迷っている。そしてほかの世代、高校生の直哉たちは夢を模索している最中で、館長たちは夢に破れた過去を抱えていた。

それぞれ異なる形で夢に関わる彼・彼女たちの姿。この物語は、それらに序列をつけたりはしない。どの生き方が「理想」かを示すのではなく、あくまで生き方の「可能性」を示すに留まっている。だからこそ、夢に破れ、迷い、諦めつつ進んでいくこと、全てをひとつの在り方として肯定しているのだ。 

祐人の職場の後輩・宮田は言う。「いろいろな可能性に折り合いをつけて、俺らは進んでいく必要があるんです」「悩んで悩んでやっと辿り着いたのが今なら、俺はその今を信じてみてもいいと思います」。部活が終わったと思えば受験、大学に入ったと思えば就活。将来を模索し選んでいく時期なのに、夢を見出し追い続けるにはあまりにも目まぐるしい。その中で、ありえた未来を捨ててしまうこともあるはずだ。それは何ら後ろめたいことではないと、もがいたすえに至った今を認めていいのだと気づかせてくれる本作は、夢に悩むあらゆる人々にとって、人生を歩み続けていくうえでの、光になることだろう。(凡)

『星に願いを、そして手を。』
青羽悠(著)
集英社
2017年2月発売
1600円+税

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