〈映画評〉狂気のレッスンに魅せられて『セッション』(2021.06.16)

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偉大なジャズドラマーになることを目指してアメリカ随一の名門音楽学校に入学したニーマン(マイルズ・テラー)と、彼の才能に目を付けバンドに引き入れた伝説の教師フレッチャー(J・K・シモンズ)。このふたりの師弟関係を描く本作は、3部門のアカデミー賞を始め多くの映画賞を受賞したが、ネット上ではまさに賛否両論の感想が飛び交っている。

というのも、フレッチャーはただの名教師ではなく、完璧なミュージシャンを育てることだけを追求するスパルタ教師だからだ。本人の人格を否定するばかりか家族までも貶める罵声を浴びせ、学生同士の競争心を煽って精神を追い詰める。容赦のないフレッチャーの指導に対し、ニーマンは恋人や家族を捨てて練習に打ち込み、懸命に食らいついていく。最後の最後までふたりが打ち解けることはない。彼らの師弟関係を結ぶ絆は、ある種の爽快ささえ感じさせるほどに、徹底して歪んでいるのだ。

シモンズの猟奇的な演技、暗く統一された画面の色調、そしてニーマンの手から噴き出した血が引き起こす具体的な痛覚。これらすべてが、音楽にとりつかれたふたりの情熱を狂気に仕立て上げている。こうしたあまりに痛々しい演出は、ネット上の感想にもあるように、不快感や恐怖感を生むものであることは否定できないだろう。

だが、彼らの狂気にはある種の憧れを感じる。それは常人である自分が持ちえない狂気だからだ。ほかのすべてを振り捨てて、情熱を傾けることができるものを見つけた人々。一度見つければ穏やかな人生を送ることは不可能かもしれない。それでも、人生をかけて何かに打ち込んでいる人は輝いて見えるものだ。だからこそ、狂気に共感できずとも、痛みが呼び起こされたとしても、画面から目が離せない。ふたりが立つ舞台を見つめる、画面に映った観客たちの中に、自分の姿が見えるような気がしてくる……ふたりの超人的な熱狂に、息をのむしかない「観客」のひとりになってしまうのである。(凡)

制作年:2014年
監督:デイミアン・チャゼル
制作国:アメリカ合衆国
原題:WHIPLASH
上映時間:106分

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