〈映画評〉不遇な女性の自由と孤独『アンモナイトの目覚め』(2021.06.01)

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個性的なタイトルが目を引く本作の舞台は1840年代、重苦しい雰囲気が漂うイギリスの港町。実在した貧しい古生物学者のメアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)と、裕福な化石収集家の妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)が互いに惹かれ合い、押し殺していた感情が燃え上がる様を描いた作品だ。過不足なく絞られたせりふと、波や風、鳥のさえずりといった自然音が心情を切々と表現している。女優ふたりの圧巻の演技があるからこそ成り立つ演出だといえよう。

本作のストーリーは、ふたつの社会問題に大きく関わっている。ひとつはジェンダー不平等だ。メアリーとシャーロットは両者とも女性で、男性優位の社会のなかで抑圧されている。メアリーは化石の発掘で古生物学に多大な貢献をしたにも関わらず、女性であるが故に、研究者としての立場を認められないまま貧しい生活を送っている。シャーロットは高圧的な夫に従属する立場にある。全編を通して画面に漂っている沈鬱な空気は、当時の女性の生きづらさをそのまま表しているようだ。

もうひとつはLGBTQ+(性的少数者)である。ふたりがどのような性的指向を持っていたかは明言されないが、女性同士の恋愛を描いた作品であることは確実だ。人間嫌いのメアリーと奔放なシャーロット、地位も性格も正反対のふたりは互いの存在に安息を見出し、本当の自分を開放していく。フランシス・リー監督によれば、当時のイギリスは現代に比べ、女性同士の恋愛に対する差別意識が薄かったらしい。このため、ふたりが同性の恋愛に葛藤するような描写はない。女性同士の恋を、自然な恋愛として扱っている点こそ、現代の性的少数者の差別に対する静かな抵抗となりうるだろう。

ただし、主題はふたりの恋ではなく、あくまでメアリーの生き様である。シャーロットはロンドンで一緒に暮らせるよう取り計らうが、メアリーはこう答えて申し出を拒んだ。「自由な鳥を、金の鳥かごに閉じこめたいの?」と。どんなに危険で貧しくとも、化石を発掘し研究に勤しむ生活こそ、彼女にとって真に価値のある生き方だった。ラストシーン、彼女は自身が発掘し、大英博物館のケースに収められた化石の前に立つ。寄贈者の名前が男性に書き換えられたその化石は、一時は発掘で名を上げながらも、歴史の表舞台から消されてしまったメアリーの人生を象徴しているように思える。

彼女らが現代に生まれていたならば、もっとのびのびと生きることができただろうか。政界の人物による女性蔑視的な発言や、LGBT理解増進法案に関する議論を見ていると、この問いを容易に肯定するのは難しそうだ。あらゆる性別に対する束縛が問い直されている今、男性中心の社会の中で精一杯生きた女性の声なき声に、耳を傾けてみてはいかがだろう。(凡)

制作年:2020年
上映時間:118分
制作国:イギリス
監督:フランシス・リー
原題:Ammonite
映倫区分:R15+

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