〈書評〉全ホモ・サピエンスの必読書『サピエンス全史 上/下』(2021.06.01)

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数ある人類種のなかで、なぜホモ・サピエンスだけが生き残り、地球の頂点に君臨するほどまでに繁栄できたのか。この問いに対し、人類250万年の歴史を俯瞰して明快な仮説を提唱するのが、今回取り上げる「サピエンス全史」である。

本書において人類史は、三つの重要な革命(認知革命、農業革命、科学革命)を軸に語られる。著者はまず、7万年前に起きた認知革命こそが、ホモ・サピエンスのその後の繁栄にとって決定的な役割を果たしたと指摘する。認知革命とは、架空のことについて語り、またそれを信じる能力を得たことを指す。例えばシマウマは、「ライオンが来る」という事実を仲間に伝えることはできるが、嘘をつくことはできない。ところがホモ・サピエンスは認知革命の結果、「あの人とこの人は仲が悪いらしい」といった噂話にはじまり、ひいては実際には起こっていないフィクションを語ることができるようになった。

こうしたフィクションによってホモ・サピエンスは、見知らぬ人どうしでも共通の話題を介して親しくなりやすくなり、効率的に協力できるようになっていったのだという。一般的に悪とされる嘘をつくという行為が、実は飛躍的な「発明」であり、我々の繁栄の基礎となったという主張は非常に斬新であった。

約1万年前に起きた農業革命によって、人々は定住するようになる。狩猟採集に比べて食料が安定的に手に入るようになり、一見すると進歩したかのように思われがちだが、著者は終始「農業革命は人類を不幸にした」との立場から議論を進める。中でも衝撃的だったのが、「小麦がホモ・サピエンスを支配した」という著者の言葉である。我々が農作業による腰痛や貧富の差の拡大、凶作による飢餓に苦しんでいる一方で、小麦は何の努力もなしに個体数を増やすことに成功した、というのである。

ではなぜ我々の先祖は農耕を止めなかったのか。本書は二つの理由を提示する。一つは、誰もかつての狩猟採取生活の記憶がなかったこと、もう一つは、既に狩猟採集では食料がまかなえないほどに人口が増加してしまっていたことである。現代においても、コンピューターが一般家庭に普及して約30年しか経たないのに、もはやそれなしでは生活が成り立たないまでになっている。何か変化が起こるとすぐに新しい環境に適応し、後戻りは出来ない人類の性質は今でも変わらない。歴史は繰り返すのだ、と感じた。

農業革命と同時に資本の蓄積、帝国主義の誕生が進み、そのような社会を土台にして約500年前に起こったのが科学革命である。著者は、科学革命の特徴はホモ・サピエンスが自身の無知に気付いたことだという。

その後の科学的進歩により、西暦1500年からの500年間で人口は14倍、エネルギー消費量は115倍になるという目覚ましい発展を遂げた。250万年のうちのたった500年に対し、本書の全20章のうち5章が割かれていることからも、発展のスピードの凄まじさがうかがえる。しばしば「史上最大の革命」とされる産業革命も、先行する三つの革命の延長線上にあるに過ぎないのだと思うと、不思議と些々たるものにも感じられた。

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ著の本書は、2011年にヘブライ語で発行されるとたちまち45カ国語以上に翻訳され、世界的大ベストセラーとなった。歴史には全く興味がなかった私も、昨年秋に本書に出会うと、斬新な議論とユーモアのある語り口に引き込まれ、500ページを5日で読破してしまった。こうして歴史に目覚め、現在一般教養科目として世界史を選択し、のめり込んでいる自分がいる。人類史を概観するために、そして新たな興味を探しに、本書を手に取ってみてはいかがだろうか。(0)

『サピエンス全史(上╱下)』
ユヴァル・ノア・ハラリ(著)
河出書房新社
2016年9月発売(日本語版)各1900円+税

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