〈書評〉健康ってなんだろう?  浅野素女『〈話す・聴く〉から始まるセルフケア』(2021.03.16)

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「健康第一」だとよく言われる。しかし現代の私たちの生活は、どうも身体に対して無頓着だ。眠気をカフェインでごまかしたり、長時間同じ姿勢でデスクワークをしたり。目標に向かってがむしゃらに頑張るのは良いことだが、心身が壊れてしまっては元も子もない。私たちは、もっと自分の身体の声に耳を傾けるべきだ――この本は、フランスで指圧師として活動する著者が、自らの体験を織り交ぜながら、身体との向き合い方、そしてより充実した生き方についての思索を綴ったものである。

現代医学の主流は西洋医学である。医者は、身体を様々な部位に分け、病の原因を特定し、薬の処方や手術によってそれを取り除こうとする。だが身体の不調は、様々な要因が重なって引き起こされるものである。身体を分断してしまう西洋医学では、心も身体もひっくるめた大きな視点に立って患者を治療する、という姿勢がおざなりにされがちだ。それに対し、著者が学んだ指圧を含む東洋医学は、心も身体も一つである、という考え方に基づく。心身のバランスを整えることに重きを置いた医学であり、人間本来の自然治癒力を高める予防医学の側面を持っている。

「本来、健康を考えるということは、どうやって生きたいか、を考えることである」と、著者は述べている。表面的な身体の問題が治っても、心の問題が解決できていないことだってある。心と身体両方の充実が、内面から人を輝かせてくれるのだ。もちろん、どちらの医学が優れている、という話ではない。東洋医学も感染症や癌の治療には役に立たないこともある。これからの時代、西洋医学と東洋医学をうまく使い分けながら、健康にアプローチすることが必要になってくるのだろう。

日本とフランスの2つの文化に触れた経験から、よりよい心身との向き合い方についても著者は思索を巡らせる。フランス人は「話す」のが得意だ。これは自らの症状を他者に説明するのに役に立つ。一方日本人は「聴く」のが得意だ。どこが悪いのだろう?と耳を傾けること。他者の声なき声に耳をすませること。治療の第1歩である。

また、長年他者の肌に触れ、心を癒してきた著者は、他者とのつながりの大切さを誰よりも深く感じているのだろう。本のいたるところに、様々な人との出会いが綴られている。新型コロナウイルス感染症の流行によって、他者との距離を感じる場面が増えた。だがこんな時だからこそ、他者との対話を続け、心を豊かに持っていたい。自らの内面と向き合う時間を与えてくれる一冊だ。(藤)

書誌情報
著者 浅野素女
出版社 春秋社
発行日 2020年10月25日

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