〈映画評〉難解さを越える映像の力 『TENET テネット』(2020.12.01)

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新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が延期される中、久々の新作ハリウッド映画として9月に公開されたクリストファー・ノーラン監督による本作。待ちに待った超大作だが、2回観ないと理解できないことを想定したような宣伝がされていたほど、ノーラン作品史上でも難解な部類の作品である。そのため、あまり一般受けしないと思いきや、公開2か月が経った現在も公開しており、日本では好調のようだ。

ウクライナのオペラハウスで発生したテロ事件。その鎮圧作戦に特殊部隊として参加していた名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、テロリストに捕らわれ尋問されるが、情報を漏らさなかった。その姿勢を買われて、彼は「時間の逆行」を可能とする装置を使い、第3次世界大戦を防ぐという壮大なミッションに参加することとなる。

先述の通り、普通の人であれば、おそらくこの映画を1度観ただけで理解するのは難しい。その原因は大きく2つあると思う。

まず1つは、時系列の複雑さが挙げられる。本作最大の特徴でもある「時間を逆行すること」の概念に関して、「エントロピーが云々」といった劇中の物理学的説明が理解できないのは当たり前としても、様々な人物が1つの時間軸を遡ることで、物語の理解の難易度が上がっている。

もう1つは、複雑な人物関係が挙げられる。こちらは私の理解力が乏しいだけかもしれないが、先に挙げた時間の逆行に気を取られていると、情報量の多さに理解が追いつかなくなってしまう。これらが原因で、例にもれず、私も疑問点を多く抱えたまま劇場を後にすることとなってしまった。

内容は難解だが、各場面での出来事が、複雑な時系列において矛盾なく進行している点は、非常によく練り上げられたシナリオであると感心させられる。時間軸を順行するチームと逆行するチームで行われる挟み撃ち作戦など、監督の初期作『メメント』を思わせる独特の時間感性を、壮大なSFの世界へと見事に昇華している。

また、ノーラン監督からの最小限の配慮か、物語を紐解くための伏線はある程度わかりやすい形でちりばめられていたという印象を受ける。その後の展開を匂わせるような、ちょっとした人物の行動や所持品の特徴といった伏線には、気が付いた人も多いのではないだろうか。

そして、何といっても映像面に関しては、流石ノーラン監督と言える完成度である。重低音の劇判と共にスピーディに描かれる大掛かりなテロシーンを導入として、観客を一気に映画の世界へと引き込む。また、時間を順行する者と逆行する者が1つの画面に共存するアクションシーンは、不自然に見えないために計算され尽くしたカメラワークとCGを極力排除する監督の演出により、現実味を帯びながらも今までに見たこともないスペクタクルな映像に仕上がっている。観客に映画の内容を理解させなくとも、スクリーンに釘付けにするというのは、ノーラン監督にしか為せない技ではないだろうか。

ただ、本作は映像の壮大さと複雑な時間概念に力が入るあまり、人物描写が希薄である印象を受ける。近年のノーラン監督作品の感想として「映像がすごかった」という意見をしばしば聞くように、映像面で素晴らしいのは事実。だが私が観たいのは、監督の過去作『インターステラー』のように、圧巻の映像や複雑な設定の上で描かれる人と人の物語である。本作はその点がお留守だったため、結局「映像がすごかった」以外の感想を持ちえない。(湊)

作品情報
制作年:2020
制作国:アメリカ
原題:Tenet
上映時間:150分
監督:クリストファー・ノーラン

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