〈映画評〉美しく儚い、絆の物語 『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(2020.11.16)

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ロビー・ロバートソン、リヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガース・ハドソンの5人からなる「ザ・バンド」は、60年代から解散する76年まで第一線で活躍した、北米を代表する伝説のロックバンドである。本作はザ・バンドの中心メンバーであったロビー・ロバートソンの自伝を映像化した作品で、同バンドの辿った歴史をロバートソンの視点から振り返る。

本作の監督には、ドキュメンタリー畑の新鋭ダニエル・ロアーが起用された。制作開始時には24歳だったそうだが、見事に自身が生まれるはるか昔の物語を紡ぎ出した。さらに、ザ・バンドの解散コンサート『ラスト・ワルツ』を映像に収めた映画監督マーティン・スコセッシも製作総指揮として参加。本編にも出演し、ラスト・ワルツやザ・バンドへの想いを語っている。

タイトルの「かつて僕らは兄弟だった」とは、ロバートソンの最新ソロアルバムに収録された曲名である。この兄弟とは紛れもなくザ・バンドのメンバーたちのことを指している。本作に登場する大物ミュージシャンらが説明するように、ザ・バンドのメンバー同士の関係性は兄弟のようであり、純粋に音楽を追求する存在として、他人が入る余地がないほど5人ですでに完成されていた。しかし、栄光を手にした5人の関係も、ドラックやアルコールといった同世代の多くのバンドを蝕んだ問題が生む軋轢により、76年の解散という形で幕を閉じる。ロバートソンをはじめとした当時を知る人物の証言は、家族の絆を重んじる5人が別の道を歩むまでの人間模様、そして兄弟として戻ることのなかったロバートソンの胸中を描き出す。

ただ、ザ・バンドのメンバーの内、3人がすでに他界しているため、メンバー間の関係に亀裂が生じ始めた原因に関してなど、本作を観ただけでは判断が難しい。ライブ活動に区切りをつけ、スタジオアルバム制作を推し進めようとしたロバートソンと、ライブ活動を続けようとしたヘルムをはじめとする他の4人、といった構図の詳細が、ロバートソンの証言からだけでは見えにくいのは事実。また本作では、80年代以降、ロバートソン抜きで再結成されたザ・バンドについて一切言及されていない。エンディングが76年の解散コンサート『ラスト・ワルツ』の映像で締め括られることからわかるように、あくまでもロバートソン視点によるザ・バンドの物語である、ということを頭の片隅に置いておく必要があるだろう。

それにしても、彼らの残した作品群は、今の時代にも通用することを改めて感じさせられた。英バンドのクイーンが、伝記映画『ボヘミアン・ラプソディー』によって若者世代などの新たなリスナーを獲得したようなポテンシャルが本作にもあると思う。また、ザ・バンドの全盛期を振り返る作品としても優秀な出来だと言えるだろう。貴重な映像や写真、当時の関係者による証言は、ライナーノーツ等の解説書により断片的に知っていた出来事を線でつないでくれる。60年代にボブ・ディランと回ったツアーや彼と曲を制作したデビュー前夜についてなどは、非常に興味深いものであった。

ところで、ザ・バンドの解散コンサートの後、ロバートソンは映像作品の音楽を手掛けるようになる。ラスト・ワルツでの縁もあり、マーティン・スコセッシの作品にて映画音楽を担当するようになり、スコセッシの最新作『アイリッシュマン』でも楽曲を提供している。『アイリッシュマン』は、マフィアの男が最終的に友を失うまでの人生を描いた映画であった。奇遇にも、本作のラストでバンドの中でも付き合いの長かったヘルムとの別れについて語るロバートソンの姿は、同映画の主人公の哀愁を帯びた姿と重なるものがあるように感じた。ないものねだりをしても仕方が無いが、彼らが「兄弟」に戻れていたならば……と思いつつ、今でも5人で演奏された音源に耳を傾ける。(湊)

ザ・バンドとは


1959年、米国歌手ロニー・ホーキンスのバックバンドとして結成されたザ・ホークスが母体となる。60年代半ばにはボブ・ディランのバックバンドとして彼のツアーに同行。その後、バンド名をザ・バンドと改めて、アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(68年)によりデビュー。続けて傑作アルバムを複数リリースしたが、結成から16年経った76年、解散コンサート『ラスト・ワルツ』をもって解散する。

80年代にはロバートソン以外の4人で再結成されたが、86年にマニュエルが自殺、99年にダンコが死去したことにより、活動を停止することとなった。2012年にはヘルムが71歳で死去する。

94年にはロックの殿堂入りを果たしたが、ロバートソンとヘルムが舞台で共演することはなかった。2008年にはグラミー賞の功労賞を獲得した。


作品情報
制作年:2019
制作国:カナダ・アメリカ
原題:Once Were Brothers: Robbie Robertson and the Band
上映時間:101分
監督:ダニエル・ロアー

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