生協ベストセラー 『京大M1物語』(2008.05.16)

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稲井雄人著の『京大M1物語』は、東京大学で大学生活を送った主人公が、社会の喧噪を離れ、世捨て人になるべく京都大学大学院への入学を決めたところから始まる。 主人公の最上啓介は、片田舎の、社会から見捨てられたような漁村の外れの出身である。生まれつき、テスト向けの勉強が出来た。ただそれだけである。

しかし、当然周囲は期待をかける。生まれつきの秀才が、東大を出てそのままIT社長か高級官僚になるかのように。そんな周囲の期待を受けつつも、東京という大都市の中で自分がちっぽけな存在であることに主人公は嫌気が差した。否、期待に応えることが出来ずに逃げ出したのである。 そんな人間が、世を離れ、しかし生まれつきの、ただテストを解くことが出来るだけの才能を捨てきれずに辿り着く先が、他でもない、この京都大学であることは、想像に難くないのではないだろうか。 主人公は、周囲の期待への裏返しとして、一番「役に立たなそう」な教室を目指す。

本著冒頭で、ここ京都大学は東京大学に対するアンチテーゼとして描き出されている。「役に立ちそう」な東京大学に対して、「役に立たなそう」な京都大学が描き出されているのである。その真偽は、皆それぞれ日々実感していることと思うが、実際に、東大が嫌いだから、という理由で京大にやってきている人は少なくないのではないだろうか。かく言う私自身も、東京出身だが京大にやってきた変わり者のうちの1人なので、その気持ちは痛いほど分かるのだが。やはり東京大学と言うと、マジメ君の集まる官僚養成所、というイメージが付きまとうものである。

また、本著の主人公は修士課程であるが、学部生にも通じるところは多いと思う。例えば、「周囲の期待に対する嫌気」だとか、「将来への不安」、「実社会を反映しない入試形態の一方で、依然学歴重視の社会が抱える矛盾への懐疑」等々である。こういった心情を持つ学生は、おそらく少なくないのではないだろうか。その意味で本著は、京大生の意見を代弁していると言えよう。

一方、本著では、学生の甘酸っぱい恋愛事情も描かれている。私個人の意見としては、院生が果たしてここまで純粋な恋愛をしているのかは疑問であるが。主人公と同様、恋愛経験の多くない学生にとって、大学生活の中にそれを求めるのは至極当然のことであろう。しかしながら、現実と理想とのギャップに打ちひしがれているのではないだろうか。

主人公も、イケメンだが裏のある同級生との間に葛藤を覚える。お決まりの助手と教授の関係や美女と野獣の組み合わせ、現実的にはあり得ない展開等々、納得出来ない点も少なからずあり、多少現実離れしているところが残念である。

その他、京大にまつわる都市伝説的な話や、院生の実態など、その真偽は分からないが、くだらなくも面白い話題が本著には詰まっている。京都大学を題材にした書籍は少なくないが、折角本著を楽しむ上で最適の身分にいるのだから、気分転換に一読してみてはいかがだろうか。(はれ)

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