【一問一答】湊新総長就任会見(2020.10.16)

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10月2日午前、湊長博・新総長が就任会見を時計台記念館2階で開いた。会見で湊氏は、総長としての抱負を述べるとともに記者からの質問に答えた。本号では、会見の様子を詳報する。(編集部)

「自由の伝統堅持したい」 就任にあたって

まだ世界中が、新型コロナウイルスのパンデミックの困難な状況で、京都大学の舵取りを担うということで、その重責に今後身の引き締まる思いだ。
まずコロナの件で、この春から京都大学でも、研究・教育すべての面で非常に大きな課題があり、難しい運営を迫られてきた。オンライン授業の体制の確立、授業料を含めた様々な生活支援、特に病院では、コロナに対応した新しい診療体制の確立といったように、いわば試行錯誤でいろいろな営みをやってきた。最適な答えかは分からない状況でこれまでもやってきたが、今後もまだ、しばらくこの状態が続くだろう。その中で、大学の機能を最大限維持し、それを拡充させていくための努力をこれからも続けていきたい。
一方で、コロナ禍の事態の中で、大学とは何か、その中でも国立大学の、京都大学のミッション・使命は何かを改めて考え直す機会を与えてもらったとも言える。各大学には各大学の創立の理念というものがあり、京都大学は、日本では2番目に古い国立大学であるが、研究型大学としてはおそらく日本で一番古い国立大学である。ちょうど2年後に創立125周年を迎える。ここ数年来、いわゆる日本の研究力、とりわけ大学の研究力が低下していると言われている。いくつかの量的な指標に基づいて、世界的に見たときの相対的な研究力の低下が指摘されている。もちろんそういう量的な指標もあるだろう。一方で、京都大学は、創造的な研究を行い、新しい知を作り出すことによって、社会あるいは国民に還元することを主たるミッションとしてきた。創造性や独創性は、研究の自由、自由な研究者の主体性に依存するのであり、京都大学が尊んできたものだ。我々の研究活動は、論文の生産数などの一般的な指標に直ちに反映されるとは限らない。自由で独創的な研究を行うことで成果を社会に還元するという知的伝統自体は、これからも堅持すべきであると考えている。
他方で、京都大学は、学部生・院生合わせて約2万3000名の学生を擁している。したがって、教育は非常に重要なミッションの一つ。研究大学として、どのような教育をしていくかということが、我々のこれまでの課題であり、基本的には研究者が教育をするプロセスの中で、創造的な学生を育てるということを、我々が伝統として引き継いできた。もちろん、これだけの学生がおりますから、全ての学生が職業的な研究者となるわけではない。しかし、ベースラインとして学生が健全な世界市民としての素養を身につけた上で、いろいろな社会領域において、何であれ新しい価値を作り出していくという探索型、開拓型の人間を育てて、卒業生があらゆる場面で活躍するということを目指してきた。この大きな教育の特徴を我々は引き継いでいくべき伝統であると考えている。最も大きな課題は、ITが新興し世界でいろいろな危機的状況が進行するこの新しい時代に、今申し上げてきた研究と教育の理念を具現化していくことだと考えている。
当面は、このパンデミックという状況に、我々は直ちに対応をしなければならない。それについては最大限の努力を進めながらも、一方で、将来を見据えて、京都大学の本来持つ使命をどのように具現化し、社会に発信していくか、全学的に議論をしていきたい。それが私たちが国民から課せられた指定国立大学法人としてのミッションだと理解している。

理事人事の意図

記者 総長として理事を新しく任命された。その中で、前回とは違う形にされたところがある。特に研究分野は、理事の職掌を研究倫理と研究公正とで分け、プロボストは法学部の先生が担当されている。どのような考えがあってのものか。
総長 研究については、研究を推進する立場の理事を時任さんに、今ご指摘の研究の公正、規範、倫理をまとめた訴訟を担っていただく理事を北村さんにそれぞれお願いしている。山極総長時は私が両方を兼ねていたが、これは明らかに利益相反だ。北村理事がおっしゃっていたが、研究はやはり攻める研究があって良い。スーパースターがいれば一点突破で研究ができる。ただし、難しい社会で研究倫理を守って、発信をしていく。そのルールを定めるのは、ディフェンスの側面であり、スーパースターが守るわけにはいかない。きちんとしたシステムとして大学が守っていかなければならない。この領域は非常に大事なところだ。近年、研究不正など京大でいろいろ問題が起こったということだけではない。これからいろいろ生命系の問題、遺伝子改変や治験といった問題も生じる。避けては通れないので、これを担当する主たる理事を一人お願いした。プロボストについては、学内全体をどれだけ見渡せるかが肝要で、その人の研究領域がどこであるかはあまり関係がない。全学をとにかく見渡し、いろんな課題を集約して、どこで何が起こっているかをきちんと掴んで執行部へつなぐポジション。だから、今回の理事は非常に良い人材であると思っている。
記者 教育と入試で担当を分けたのは何か細かい理由があるのか。
総長 入試は今年は特別。いつでも入試は大変だが、とりわけ今年は新型コロナへの対応があり、何が起こるか分からない。国などが想定している以上のことを我々は準備しないといけない。何が起こっても対応できるようにしなければならない。受験生にとっては、一生に一度のことなので、万全の体制でやりたい。特に今年度を意識して、入試の担当を特別にお願いした。

■新しい理事の顔ぶれ
稲垣恭子・男女共同参画、国際、広報、渉外(基金・同窓会)担当理事・副学長。前教育学研究科教授
北村隆行・研究倫理、研究公正、研究規範担当理事・副学長。元工学研究科教授
久能祐子・国際渉外、海外同窓会担当理事(非常勤)。新薬の研究開発に携わるほか、国内外で複数の企業・財団設立に関わり、CEO等も務める
時任宣博・研究、評価、産官学連携担当理事・副学長。前京都大学化学研究所教授
平井明成・総務、労務、人事、危機管理、施設担当理事。文部科学省出身
平島崇男・教育、情報、図書館担当理事・副学長。前理学研究科教授
村上章・財務、入試担当理事・副学長。前農学研究科教授
村中孝史・プロボスト・戦略調整、企画、学生、環境安全保健担当理事・副学長。前法学研究科教授

「若手研究者の環境整備を」

記者 研究者の創造性は、研究者の自由な発想によるものだという話があったが、若手研究者の自由な研究環境を担保していくために、どのような取り組みをお考えか。
総長 非常に大事なポイントだ。スタンフォード大学のジョン・エチェメンディ氏(2000年9月から17年1月まで同大学の第12代副学長)という、スタンフォードの名プロボストと言われた人と以前に話したときに、研究に大事なこととして3つを挙げられた。Fで始まる3つで、1つは、Faculty。これは、研究する人、研究者のことだ。一番大きいのは、研究する人であって、それに関係する人事があって、将来を考えると、若い人が必要。どういう人を大学が獲得し育てていくかは非常に重要な課題だ。もう1つのFは、Facility。これは研究施設というより、研究環境全体だ。特に日本で不足しているのは、いわゆる先進・先端の機器をなるべく集約して、若い人達が自由に使えるようにすることだ。研究環境をどれだけ効率的にしているか。大事なのは、最先端機器なり技術なり、すべてのものを、若手を含めたすべての研究者が自由に使えるようにするシステムだ。3つ目は、Fund。研究資金だ。資金調達にはいろいろな方法がある。アメリカが戦後長い間うまくいったのは、日本でいう科研費、つまり政府の公的資金を、きちんと取れるような研究体制を作ったから。学者間のピア・レビューで決まるような公的資金をきちんと取れるような研究体制を作っていく。国にも要求しないといけない。それをベースにして、健全な産学連携などを考える。3つのFを全体として大学がどれだけサポートするかが大事。結局は研究力を決めるのは、大学がどれだけよい人材を持っているか。大事なのは若手です。残念ながら、日本の大学は若手の教員が非常に減っている。京大も例外ではない。京大ではそれを増やすために、40歳以下の若手教員を100名近く特例で再配置した。若手を増やすと同時に、若手が特別な研究を始めるための様々な環境を整えるということをもっとやりたい。

多様性確保「強力に進めたい」

記者 総長は、多様性が大事だとおしゃってきた。構成員の多様性について、ジェンダーギャップの問題などもこれまで指摘されているが、現状をどのように考え、どう対応していきたいとお考えか。
総長 非常に大事なところだ。多様性というのは、逆に言えば自由度の裏返し。自由があるから多様性があるし、多様性を担保するためには自由が必要だ。自由も、思想性から研究などいろいろなレベルがある。職員・教員を含めた構成員の男女比などに関して京都大学は、理想的な状況には程遠いと思っている。それについては、男女共同参画担当理事を女性の方にお願いして、男女に限らず多様性を保持するためのミッションを達成するべく、かなり強力に取り組みたい。今までもやってこなかったわけではないが、皆さんの注意を喚起するという程度だったので、もう少しアクティブなアクションを取らないと難しいと思っている。ジェンダーを含め、場所における多様性については、策を施したい。
記者 具体的な対応で現在お考えのところがあれば、お伺いしたい。
総長 事務方は、人事システムによって何とかなるところがある。問題は、教員だ。教員のマインドは大きな要因だが、それを啓蒙するだけでは難しいとすれば、例えば、いわゆる本部が戦略的に使うようなポジションもありうる。インセンティブをつけた形でポストを設けるのもありだと思っている。若手教員については、「条件をつけてこの教員を使うからには、その教員をサポートする環境を作ることを誓約していただきたい」といったことをやった。それと似たようなインセンティブをつけた教員人事というものは、具体的な策はまだ検討していないが、十分あり得ると思う。

「まずは情報開示が必要」 学術会議任命拒否めぐり

記者 日本学術会議の会員について、6人の任命が拒否されるということがあった。その中には京大の教授も含まれていた。日本を代表する大学の総長として、お考えは。
総長 日本学術会議というのは、一種の政府機関。政府から独立して、科学者の立場から政府に対して様々な科学的な提言を行う組織と理解している。私は若いときに連携会員というのをやったが、会員ではない。現時点で、具体的にどういうことが起こっているのか、断片的にマスコミで情報を得ただけだ。ただ、日本学術会議としては、正確な、正式な発表があると思っている。政府とのやりとりなので、現状で私が持ち合わせている情報で、具体的なコメントを言うことは差し控える。一般論から言えば、もし何かが起こっているのであるとすれば、情報をすべて国民並びに科学者の世界に開示していただくことが、当面必要なことと思う。
記者 学術会議としては新会長の梶田隆章氏がコメントしている。官房長官は会見で、理由については明らかにはしないと述べている。これは公的な場での発言だが、総長が今おっしゃったのは、選ばなかった理由が開示される必要があるということか。
総長 何が問題なのか、当然開示する理由があると思う。新しい会長がコメントされたのかもしれませんが、私は聞いていません。いずれにしても、学術会議が会議体として、正式な意見、考えを発表されることになるのではないかと想像している。
記者 日本学術会議の政府との関係については、どう考えるか。
総長 おそらく学術会議がどういう目的の機関であるかということはホームページなどできちんと説明されている。まさにその通りの機関であると思う。
記者 学問の自由が脅かされているとも言われる中で、学問の自由についてもう少し踏み込んだメッセージはないか。
総長 一般論として、学問の自由は保障されるべきであると思う。人文科学についても、かつて不要論が出たこともあったが、それについてはいろんな学会で議論を尽くし、産業界からも合意を得て、今度の新しい科学技術基本法の中に、人文科学の振興も日本の学術の発展に重要であることが初めて記載された。それは非常に良いことだと思う。人文社会科学は、自然科学と異なり、絶対的な事実があるわけではなく、正しいもの・そうでないものがあるわけではない。これは思想であり、議論だから、自由でなければならないというのは、当然のことだ。今回の事案については、いろんな名前が出ていますが、私は個人的に聞いていることはあっても、公式の情報はどこからももらっていない。学問の自由が脅かされるというのが具体的にどのような事象を指しておられるのか私には分からないが、今回の件についてはまず、政府機関同士のことなので、はっきり何が起こっているのかを知りたい。学術会議は、任意団体ではなく一種の政府機関なのだから、責任を持って状況を説明し、その情報の上で、我々は、発信が必要であればしかるべき発信をしたい。(了)

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