文化

書評 湯浅誠『反貧困』

2008.05.16

本書の著者は、貧困支援活動を行うNPO「もやい」の事務局長である。本書は、著者がその活動の中で見た日本の貧困の現状を記し、その貧困がいかにして生まれるかを明らかにし、貧困を社会からいかになくすかを提案するものである。

本書は貧困を助長する多くのものを告発する。生活保護申請をさせまいと「水際作戦」をする自治体、貧困から利益をむさぼる企業、最低生活費を切り下げようとする厚生労働省。だが、本書が告発する最も衝撃的な対象は、私も含めた社会の風潮である。ホームレスやネットカフェ難民、そのような人々を見たとき、私たちは少なからずその人の自己責任に原因を求めようとする。その風潮こそが貧困に苦しむ人を追い詰め、生活保護申請を躊躇わせ、最悪の場合自殺に追い込む。生活苦で心中した家族を殺したのは、私でありあなたでもある。

著者はこの自己責任論に対し、“溜め”という言葉を使う。大きな溜池があれば、多少の日照りを耐えることができるように、“溜め”のある人は失業などの衝撃に対して強い。“溜め”には貯金、家など有形のものから、いざというとき頼れる家族、友人などの人間関係のような無形のものまでさまざまな者が含まれる。どれだけの“溜め”をもっているかは人によって異なり、この“溜め”が少ないほど抜け出せない貧困に陥りやすい。その個々人の“溜め”の差を無視し自己責任論を押し付けるならば、生活苦で心中する家族を殺すのは私であり、あなたであると言えるだろう。

著者の視点は、研究者でもメディアでもない、活動家としてのものである。そのデータに裏打ちされただけでない主観的な視点は、生々しく重い現実をうつしている。本書を読めば、見えない貧困に目を向けざるを得なくなり、自分との関わりを考えずにはいられないだろう。(幸)

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