総長選を考える/総長選から考える 前編:京大を取り巻く状況の変化(2020.07.16)

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京都大学の総長の交代が近付いている。京都大学の総長は、任期6年で法人の長として、理事の指名も行う。さらには、国立大学協会や日本学術会議で会長を務めることもあり、日本の文教政策全般において一定の影響力がある。国立大学法人化以降、総長選は、「選挙」ではなく選考会議による「選考」へと変わった。政府文科省が進める大学改革のなかで、京大も変化した部分と変化していない部分があるだろう。本号では、「総長選を考える/総長選から考える」とテーマを定め、山極総長の任期6年の間に、京大はどういう方向へかじ取りをしたのか、資料を基に振り返るとともに、大学の現場でこのあり方に関わってきた教員による座談会を企画した。京都大学のこれからのあり方を占う節目として、本企画が京大関係者に有益たらんことを願う。

山極総長就任にいたる学内の状況

山極氏の前には、松本紘氏(現・理化学研究所理事長)が2014年9月末までの6年間、総長を務めた。松本氏は、役員会主導で改革を進めようとし、学内の反発を受けた。部局自治が改革を阻害しているとして、教育・研究と大学運営の組織を分離する学域・学系制度の導入を図ろうとした際には、多くの部局から異論が出て、複数の部局長が連名で対案を出すなど教員を中心に反発が起こった。また、教養教育改革の一環として、総合人間学部を国際高等教育院に改組する案、全学共通科目の英語化を進めるために外国人教員を100人雇用する案を進めようとした際には、人間・環境学研究科の教員を中心に反発が起き、総長解任を求める動きまで起きた。

さらには、2013年12月、職員組合などが、総長選考会議の学内委員複数名から、「総長選考会議において総長選の意向投票を廃止し、総長選考会議のみの議決によって京大総長を選出すること及び総長が現在の任期からさらに再任できるようにする」という議題が提出されたとの情報を入手し、公表すると、学内で大きな反対運動が起きた。25日には時計台前で職員組合の呼びかけで集会が開かれたほか、学生による抗議の座り込みなども行われた。結果として、総長選考会議では、総長選廃止や任期延長の議決はなされなかった。ただ、その後4月23日の選考会議において、選考における意向投票が「意向調査」と改める規程改定がなされ、選考会議が選考の主体であることが強調された。

◯関連記事
〈2014総長選〉選考会議 主体性明確に 「意向投票」は「意向調査」(2014.05.16)

【解説】国立大学法人における学長選考の仕組み
国立大学法人の学長(旧帝国大学の場合は総長)は、文部科学大臣の任命によって正式な就任となるが、事実上の選考主体は、各法人に設けられた学長選考会議となる。学長選考会議は、独自に選考の基準を定め、それに基づいて選考を行う。文科省は2014年8月に各大学に出した通知で、投票結果をそのまま選考に反映させるなど過度に学内の意見に偏るような選考方法は適切でないとの見解を示している。文科省の調査によれば、2019年3月現在、学内教職員による投票制度がある大学は、全体の約6割にあたる45大学で、投票結果1位の人物を選考していない例も5大学ある。投票を実施していない大学が29大学ある。

「京大の主役は学生」山極氏の就任

山極氏は、2011年度から2012年度まで理学研究科長を務め、理事や副学長の経験はなかったものの、学内予備投票で湊長博氏に次いで学内2位の得票数を得て、第1次総長候補者の6名に選ばれた。後に本人が明かしているように、執行部や理事の経験がなかった山極氏には総長を引き受けることにためらいがあった。しかし、周囲の後押しもあり、「京大は学生が主役になるべき」、「京大は多様な価値観を許容する自由な学問の場であるべき」といった所信を表明すると、職員組合の支持を受けるなど学内に支持が広まり、意向調査において、投票者の約41%の得票で、同26%の湊氏を上回った。湊氏との決戦投票では、投票者の61%の得票で、意向調査第1位となり、総長選考会議から総長候補者に選ばれ就任に至った。

就任記者会見では、前任の松本氏の改革を踏まえつつ、ボトムアップでの合意形成や情報公開を進めると語った。また、「京大のアクターは学生」と強調した。本紙が行った就任インタビューでは、上記に加え、自己資金の獲得やリコール制の導入などへの意欲を語った。

本紙インタビューでも語られた山極氏の「大学は社会との窓である」という考えにちなんで、WINDOW構想と題した改革の指針がまとめられた。

○関連記事 山極寿一 新総長 「権限集中より合意形成を」(2014.10.01)
○資料 京都大学WINDOW構想

目標は実現したか

前提となる国の動き

山極総長の就任直前の2014年6月には国会で学校教育法と国立大学法人法の改定が決まった。この法改定は、教授会の役割を明確化し、「学長が教育研究に関する重要な事項について決定を行うに当たり意見を述べる」場と位置付けたほか、経営協議会の過半数を学外委員とすることなどが定められた。

2016年5月には国立大学法人法の改定によって、文部科学大臣が「世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる」国立大学法人を指定国立大学法人とする制度が創設された。指定されると、各大学の改革構想に応じた資金援助や規制緩和の対象となる。16年5月から17年3月にかけて指定を希望する大学の公募があり、17年5月以降に文科省の指定国立大学法人部会によるヒアリングや現地視察といった審査が実施された。

指定国立大学法人に

指定国立大学法人には、京大も応募し、17年6月に東京大学と東北大学とともに指定された。山極総長は後のインタビューにおいて、「最初は指定国立大学のやり方には反対だった」が「研究型大学として、より良い条件を求めなければならない」ために応募に至ったと説明している。京大では、2016年7月には部局長会議の下に「指定国立大学法人制度検討ワーキンググループ」を設置し、20回を超える会議が行われ、構想が練られた。構想では、京大版プロボスト制の導入や、産官学連携推進のための機能別事業子会社の設置、人文・社会科学の未来形の発信などが盛り込まれた。

○資料
読売新聞教育ネットワーク「異見交論40「国立大学法人化は失敗だ」山極寿一氏(京都大学学長)」

リコール制度

山極総長は、本紙の就任インタビューで、総長の任期途中における業績評価と総長のリコール制度を設けたいと語った。この点については、任期中に実現された。2015年1月には総長選考会議が「総長解任規程」を策定し、▼総長選考会議委員の3分の1以上が連署をもって請求するとき▼経営協議会委員の過半数が連署をもって請求するとき▼教育研究評議会評議員の過半数が連署をもって請求するときなどには、選考会議が総長解任の審議を行うことが定められた。また、「総長の業務執行状況の確認に関する規程」が2016年6月に総長選考会議によって制定され、選考会議が毎年1月に総長の業務執行状況を確認することが決まった。確認は、京大の監事による「監事監査に関する報告書」等を基に行われ、就任4年目には総長本人からのヒアリングと就任後3年間の執行状況の総合的な確認がなされる。2018年3月には、山極総長の3年間の執行状況が確認され、「WINDOW構想という明確なビジョンの下、教職員と情報を共有してその意見を汲み上げようというボトムアップ型のリーダーシップを発揮し、京都大学の個性を活かして力を引き出す優れた運営を行っている」などといった評価が下された。

【注】国立大学法人の監事
国立大学法人には、文部科学大臣の任命で、法人の業務を監査する監事という役職が設けられており、京大には2名の監事が置かれている。監事には、他大学での学長や理事経験者や産業界から、選ばれる傾向がある。

自己資金

また、山極総長は、基金の設置などによる自己資金の拡大に意欲を見せていた。本紙就任インタビューでは、「教育研究環境の劣化を避け、人員をきちんと確保するために、資金を潤沢にしたい」と述べていた。寄附金は、受け入れ額・金額ともに増え、受け入れ額は、2014年度の52億円から2018年度には118億円にまで増えた。これは京大の年間収入の約7%にあたる。2017年度からは寄附金等の自己収入を原資として、金銭信託による資金運用もなされている。

【資料】
「[財務]平成30事業年度決算の概況」、『京都大学ファイナンシャルレポート2019』」

意思決定

山極氏は、ボトムアップを意識して、部局に偏りなく理事を指名。結果として、総長選の意向調査上位者が理事に名を連ねることになった。意向調査2位の湊氏(医学研究科長)が研究・企画・病院担当として、同3位の北野正雄氏(前・工学研究科科長)が教育・情報・評価担当として、同4位の佐藤直樹氏(化学研究所長)が財務・施設・環境安全保健担当として、それぞれ理事に指名された。また、人間・環境学研究科長を務めていた杉万俊夫氏が学生・図書館担当として、男女共同参画担当副学長を務めていた稲葉カヨ氏が男女共同参画・国際・広報担当として、厚生労働省出身で京都大学iPS細胞研究所特定研究員を務めていた阿曽沼慎司氏が産官学連携担当として、理事に指名された。また、総務担当理事は文科省からの出向職員が務め、清木孝悦氏、森田正信氏、平井明成氏が交代で務めた。学生担当理事は、杉万氏が体調を理由に2015年9月末をもって退任したことから、後任に川添信介氏(文学研究科長)が就任した。

指定国立大学法人となってからは、プロボストに湊理事が指名され、執行部と部局間で企画を調整する戦略調整会議を主宰している。戦略調整会議の主導で、人文・社会未来発信形ユニットが2018年10月に立ち上げられた。

■雑記

山極総長の任期のなかで、記者として体験した取材対応の変化を記録しておきたい。情報公開連絡会の中止の影響で、少なからず入手する情報の鮮度は下がった。連絡会では同月に行われた部局長会議の議事のみならず、会議で話し合われた内容も一部明かされていた。しかし、現在は、1か月後に公式サイトでアップされた議事録を閲覧できるのみで、しかもその議事録は非常に簡素であるため、学内会議で扱われている情報を素早く追うことは難しくなった。また、2017年頃から、取材に対して、総務部広報課が必ず間に入るようになり、対面取材がしにくくなった。2016年までももちろん広報課を通しての取材も行っていたが、同時に、厚生課や学生課、施設部の職員のもとに行き直接話を聞いたり、理事などに直接電話をしたりして取材をすることもできた。しかし、この3年あまりは、各所に取材を申し入れると「広報課を通してください」という形式的回答が返って来ることが多く、様々な施策に直接関わる職員に対面で話を聞くという取材活動が少なくなっている。総長の定例記者会見も、3か月に1回程度は開かれていたが、総長が話したいことを話す一方で、記者の自由質問の時間は10分程度に制限され、尋ねたいことを尋ねる時間がなかった。

こうした取材環境の変化があり、指定国立大学法人制度を巡る将来構想について報道できたのは、全てが決まったあとであった。ワーキンググループでは様々な議論が行われていたようであるが、それを知ったのは大分後になってからであった。吉田寮や立て看板、731部隊論文検証、遺骨返還をめぐる問題などでは、当事者・関係者が記者会見を開く機会も多く、多くの資料が公開された。一方で、肝心の京大当局、執行部の説明の機会は、多くなかった。利害の対立する問題では様々な立場の意見があるのは承知で、それぞれを掘り下げながら報道したいと思うのが、記者の性だ。しかし、京大当局に関して言えば「具体的にどう考えているのか」が、主に対面での取材ができないために、見えてこないことがあった。

山極総長は本紙の就任インタビューで、情報公開の必要性を説き、「京大の主役は学生」などと述べていた。であれば、学生新聞が自由に取材活動をすることを妨げるべきではなかったのではないか。学生や市民から意見が出ている問題について、少なくとも公の場や記者の前で大学当局の姿勢を言葉を尽くして説明するべきではなかったか。

私たち学生は次期総長が誰になるか選ぶことはできない。有権者である教職員には、責任を持って投票をしていただきたいし、誰が総長になろうと有権者として京大の制度に関与して、適切に情報を公開し説明責任を果たすよう尽力していただきたいと思う。(小)

7月16日23時配信

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