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〈映画評〉なされたのは、前作へのリベンジ 「ドクター・スリープ」

2020.01.16

1980年にスタンリー・キューブリックにより映画化された『シャイニング』の続編である本作。原作は前作と同様スティーブン・キングによるもの。キューブリック版『シャイニング』がキングの原作とは全く異なる結末で幕を閉じたこともあり、その差異をどのように料理するかが本作の課題であったろうが、キューブリック版の流れを汲みつつ、しっかりとキングによる原作の世界を展開できている。まさに見事な仕上がりと言える。

描かれるのは『シャイニング』の惨劇から40年後の物語。オーバールック・ホテルの悪夢から生還したダニー(ユアン・マクレガー)は、父と同じくアルコール中毒に苦しむ中年になっていた。あるとき自身と同じく超能力「シャイニング」を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)からメッセージを受け取る。それは頻発する児童連続失踪事件の犯人らによる犯行を目撃したというものだった。

本作の本筋はダニーとアブラが、超能力者の生気を吸い取ることで生き長らえる吸血鬼のような存在と戦う物語である。そのため、前作『シャイニング』のようなホラー要素は薄め。ただ、オーバールック・ホテルの亡霊がダニーを追って襲いに来るシーンでは、思わず『シャイニング』を観た時の恐怖を呼び起こされた。また、前作を思わせる効果音も本作の全体に渡って不穏な空気を醸し出すのに貢献している。

そんな観客の不安を煽ってくる雰囲気をよそに、敵たちは終始ダニーらに圧倒されてばかりの印象。敵の余りのやられっぷりに、このあと主人公たちに危機が訪れるのでは? とドキドキするが、そんなことはなく拍子抜けしてしまう。このまま敵を倒して幕を閉じてしまうのかという別の不安が生じたところで登場するのが、前作の舞台となったオーバールック・ホテルである。

『シャイニング』という作品の原作と映画版は、ダニーの父ジャック・トランスが狂気にとらわれ家族に襲いかかる大筋は共通しているが、結末は全く異なる。一つは、ホテルの結末。原作では、ボイラーの爆発によりホテルは崩壊するが、映画版ではそのままの形で残っている。もう一つは、父ジャックの扱いだ。最終的には正気を取り戻し、ダニーに逃げるように促した後、ホテルとともに命を落とす原作とは異なり、映画版では狂ったまま息絶えてホテルに取り込まれる、ある意味バッドエンドである。

この違いからわかるように、本作にてホテルが登場する終盤は映画オリジナル展開である。そして、その終盤から見られるのが徹底したキューブリック版『シャイニング』へのリスペクトだ。独特なカメラワークやホテルの亡霊たちの描写。父と息子の共通項であるアルコール依存を引き合いに出しつつ、ジャックがホテルに取り込まれた設定があるからこそ描けるダニーの成長。極めつけは、物語の結末にある。詳しくは言わないが、なされたのはキューブリック版『シャイニング』で日の目を見なかった原作のエンディングの再現。つまり本作は、最後の最後で原作者キングに対してのリスペクトも示してみせたのである。制作側の意図がわかったとき、パズルが完成した時のような感動が訪れること間違いなし。監督マイク・フラナガンの今回の仕事ぶりには脱帽した。(湊)

制作年:2019
制作国:アメリカ
原題:Doctor Sleep
上映時間:152分
監督:マイク・フラナガン
映倫区分:PG12

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