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11月祭禁酒方針を考える【第1回】学園祭とお酒の在り方とは

2019.07.01

「11月祭の運営のため(中略)全面的に飲酒行為を禁止する」。11月祭全学実行委員会事務局は右の文言で今年の11月祭で全面禁酒を実施するよう提案した。近年各地の学園祭で飲酒による事故を理由に酒類規制が強まる中、京大では近年の飲酒トラブルを理由に規制のあり方について議論が始まろうとしている。本特集では次号に渡って大学における酒類規制と11月祭での規制のあり方について検証、提示していく。(編集部)

①求められた禁酒規制

6月11日全学実の会議で11月祭事務局が禁酒方針を提起した。酒類の取り扱いに関しては、11月祭事務局が5月の全学実会議で飲酒問題の対策について話し合いをするという予告を出していた。同日の会議は40名以上が参加した。

同日の会議で11月事務局は、禁酒方針が大学当局からの要求によるものと明かした。11月祭事務局によると、昨年の11月祭後に大学当局が全面的な禁酒を要求し、部分的な禁酒を提案した11月祭事務局との間で話し合いがもたれた。議論の際には飲酒の現状について問題提起するアンケートを実施するなど、部分禁酒に向けた取り組み強化の検討もあったという。5月に大学当局が全面禁酒を取らなければ教室の貸し出しをしないと通告したため、事務局として全面的な禁酒はやむを得ないという判断を下したという。

会議では参加者から、「禁酒を含め自主管理すべき」といった規制賛成派から、「全面禁酒は飲酒に起因するトラブルの根本的な解決にならない」といった規制反対派まで意見が交わされた。また「案があっても、施設貸し出し禁止を覆すことは難しいのでは」という意見も出た。

飲酒規制については、以前からアルコール度数が30度以上の酒類販売、70度以上の酒類持ち込みがそれぞれ禁止されていた。17年には最終日の15時以降に禁酒措置がとられた。昨年は30度以上の酒類持ち込みを禁じ、18時以降の夜間の禁酒を全日で定めた。このほか看護師の配置や事務局による見回りが行われた。

また応援団が主催し、例年11月祭期間の前日に模擬店やステージなどが出展される前夜祭では、2013年から禁酒を実施している。前年までは教員の寄付や協力によって「教員酒場」が開かれ、無償で酒類が提供されていたが、大学当局から事実上の自粛を求められたという。当時学生課は「教員が無償で酒類を提供した結果事故が生じる可能性を完全に防ぐことができない」ためと説明していた。

11月祭期間中の泥酔者への対応については、例年11月祭本部で対応していた。2015年以後の11月祭で本部に運び込まれた泥酔者は各年17~30人で、救急搬送された人もいた。昨年は14人が運び込まれ、本部から4人が緊急搬送されたほか、学外から11月祭での飲酒が原因で緊急搬送された人もいたという。

11月祭に関しては昨年、教職員による見回りが行われた。それを踏まえ学生生活委員会で審議があった。同委員会は「学生の補導」を目的に副学長が委員長を務める実質的な諮問機関。学内を巡回した教員から報告があり、翌月の総会で全面禁酒を含めて検討するよう11月祭事務局に提案したという。

今回の11月祭での禁酒検討について、11月祭と並行して京大北部構内で行われる北部祭典の主催団体は、本紙の取材に対し大学当局から禁酒関係の通告はなかったと回答した。北部祭では近年、飲酒が原因で事故につながるようなトラブルはなかったという。主催団体は、今年も実定的な禁酒規制は敷かず、例年同様、北部祭本部と参加者の協力によってトラブル防止に努めたいとした。 

②京大における飲酒問題と対応

過去に京大では、飲酒に関連してどのようなトラブルが起きたのか。また、それらに対してどのように対応をしてきたのか。過去の本紙報道から、京大における飲酒を巡る事例を振り返る。(各記事は掲載当時のものを要約。年表記は当時)

〇医学部生 無期停学処分に(2018年4月1日号)
京大は、医学部2回生1名に対し、3月13日付で無期停学処分を下した。学生は昨年7月、飲酒した状態で他人の身体の一部を蹴り、相手に傷害を与えた。京大は、事件の事実関係などの調査の結果、学生を京都大学学生懲戒規程第3条に掲げられた学生の本分を守らない者に当たると判断した。その上で、当該学生に反省し更生を遂げる機会を与えるためとして、京都大学通則第32条などに基づき、無期停学処分を決定した。

〇学生団体公認に条件追加(2016年5月16日号)
3月11日、学生生活委員会で、京大の学生団体の公認に関する要領が承認された。それまで口頭でのみ説明されていた公認の条件や団体への処分の種類などが明文化されたほか、新規団体の公認条件として、▼常勤教職員2名以上が顧問となること▼大学の指導に従う旨の誓約書を毎年提出することが加えられた。職員によると、前者は、学生団体が事件を起こした際、連絡を付けやすくするほか、関係者との立ち会い等の対応を円滑に進められるとのねらいがある。後者について職員は、「誓約書を書くという手順を踏むことで、違反行為を犯さないよう学生の意識が高まることを期待する」と述べた。

団体内での未成年飲酒といった問題が例年のように起こるにもかかわらず、公認や処分の条件等が文書で明確に示されていなかったことを懸念する声が当局内で高まった結果、本要領の作成に至ったという。

〇教員酒場 酒類提供せず(2013年12月1日号)
11月20日、11月祭前夜祭で出店された教員酒場で、例年行われている酒類の提供が行われなかった。当日、教員酒場ではノンアルコールビールやソフトドリンクのみが提供された。

酒類の提供について、昨年から応援団と学務部の間で話し合いが行われていた。今年の10月半ば、応援団側が教員酒場でアルコールを提供したい旨を総長に報告したところ、総長が再考を求めたという。これをうけて、応援団と学務部の間で検討を重ねた結果、酒類の提供を行わないことが決定された。

学務部は、「事故が生じる可能性を完全に防ぐことができないことから、酒類の無償提供を見直した」と説明している。

〇教員酒場 教員甘酒に (2014年11月16日号)
11月祭前夜祭の教員酒場が、今年から教員甘酒に名前を変える。今年9月末、応援団は酒類の提供を再開したいと学生課に打診したものの、総長が変わるからといって昨年の判断は変わらないとの学生課の主張を受けて断念。内部での検討の結果、今年は甘酒を提供することとなった。

応援団は今回甘酒の提供に切り替えた理由について、当日は寒くなると予想されるため温かい飲み物の方が良いだろうということ、教員酒場の雰囲気を残せることを挙げている。

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これらは、手続きの変更によってトラブルの防止に努めたり、発生した事案に対し大学が処分を下したりした事例である。しかし、手続きや処分を整備するだけでは、飲酒関連の問題を解決することはできない。学生生活において、サークルの飲み会など、個人の責任のもとで酒を飲む場は少なくなく、前夜祭の事例のように運営主体としての学生が代替策をとって対応するほか、各人がその場で正しい判断をとり、問題の発生を防ぐことが求められる。

そこで、京大では、ホームページ上で飲酒に関する注意点を公開している。飲酒の危険性を説明したうえで、▼未成年者は飲酒をしない▼成年者であってもイッキ飲みなどの危険な飲酒は避ける▼アルコールを受け付けない体質の人にアルコールを勧めない▼飲酒後に自転車・バイク・自動車の運転をしない▼酔い潰れた者に対し責任をもって介抱するなど、学生のアルコールへの正しい向き合い方を求めている。また、今年4月に大学の発行した『Campus Life News』では、「『飲酒』に関する注意喚起」として、「飲酒・酩酊により、自他に危害を加える、記憶を失うなど自己を制御できない状態に陥ったことのある人は、自ら飲酒を控えること。また、そのような人に飲酒を勧めないこと」を学生に呼びかけている。

【ワード解説】

11月祭全学実行委員会(全学実)
「11月祭に参加の意思を有するもの」によって構成される全学組織で、11月祭に関して意思決定する機関。毎年公開の会議を開いている。会議には全ての京大生が参加でき、発言権を持つ。議決は参加者の全会一致。

11月祭全学実行委員会事務局(11月祭事務局)
全学実の承認の下11月祭での包括的な実務を担う組織。年度ごとに改組され、メンバーは公募される。

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