企画

京都大学のトイレ事情

2019.11.01

11月10日は、「いいトイレの日」である。この企画では、京大のトイレに関する様々な話題を紹介する。トイレは、ほとんどの人が毎日使用するものである。人によって違いはあるだろうが、1日のうちトイレに滞在する時間を15分と仮定すると、80年の人生の中で約10カ月間はトイレに滞在していることになる。これだけの時間をトイレで過ごすのだから、トイレに無関心でいるのはもったいないことだ。普段は多くの人が意識しないと思われる、トイレの意外な一面や奥深さに迫ってみた。(編集部)

データで見る京大のトイレ

以下で用いる京大のトイレのデータは、吉田南構内にある主な建物のトイレに関するものである。このデータは、編集員が独自に調べたものである。一般の学生が立ち入り可能な場所にあるトイレを調査し、立ち入りが制限されている区域には入っていない。

吉田南構内の主な建物のトイレを調査した結果、まず、和式便器について、一般的に和式便器を設置しないトイレが増えている中、京大には和式便器が多くあることが分かる。新しいと思われる和式便器も中にはある。多目的トイレの設置率は29%にとどまっている。障害を持つ人が過ごしやすい大学にするために、多目的トイレをさらに設置することや、多目的トイレまでの通路を整備することが望まれる。国際高等教育院には女子専用の多目的トイレが設置されているが、その他の多目的トイレは性別の区分がない。通常のトイレは男子トイレと女子トイレに区分される一方で、多目的トイレには区分が設けられていないという矛盾を議論する必要がある。これに関しては、次号以降でぜひ取り上げたい。また、メディアセンター南館以外の建物で、洋式便器のウォシュレット設置率が100%である。メディアセンター南館は全ての洋式便器にウォシュレットがない。便器メーカーはTOTOかLIXILであり、TOTOが大半を占めている。4共を除いて、同じ建物の中では、同一のメーカーの便器が設置されている。

適正器具数と利用形態

到着率・器具占有時間

トイレの面積は限られており、その中で適切な数の便器や洗面器を配置する必要がある。適切な器具数の算定の際には、使用する人数や時間を計算した上で、利用形態や設置にかかるコストを考慮に入れる必要がある。ここでは、「トイレ学大辞典」(日本トイレ協会編、柏書房)や紀谷文樹氏の研究をもとに、適正器具数の算定について解説する。それをふまえて、京大のトイレの傾向を分析する。

到着率は、単位時間あたりに衛生器具を使用する人の数である。ここでは、男子用小便器を例として取り上げる。男性は平均して、1日に5回小便器を使用するという統計がとられている。1日のうち8時間を睡眠に充てるとすると、活動時間は16時間、すなわち960分であり、960分を5で割った、192分がトイレに行く平均時間間隔になる。平均時間間隔の逆数が到着率であり、到着率の値は1/192、すなわち0・0052となる。しかし、1人あたりの数値にすると小さな値になるため、一般的には100人あたりの数値が用いられ、0・52の値となる。実際の算定の際には0・6人/分の値がしばしば用いられる。

器具占有時間は、器具を使用している時間のことである。多くの場合、男子用小便器の器具占有時間は30秒とされる。

以上を踏まえ、1000人が使用するトイレをモデルとして、男子用小便器の適正器具数を考える。0・6人/分は100人あたりの数値であるため、10を掛けると、6人/分となり、1分に6人、すなわち10秒に1人が小便器を使用するためにトイレに来ると考える。1番目の人が1つ目の便器を使用し始め、2番目の人、3番目の人はそれぞれ違う便器を使用するが、4番目の人が来る30秒後には、器具占有時間の値から分かるように、1番目の人が小便器の使用を終えている。そのため、4番目の人は1番目の人が使っていた便器を使用できる。したがって、このトイレで同時に使う器具は平均で3個である。ここから、同時使用器具数の確率分布がポアソン分布に従うと仮定して適正器具数を算定する。このように、到着率と器具占有時間の値を計算し、適正器具数を考えることができるが、建設コストなど他にも検討すべき項目は少なくない。

利用形態

トイレの利用形態は2つに分けられるとされる。1つは任意利用形態であり、常にトイレが使用されるものである。事務所や図書館がこれに当たる。もう1つは、集中利用形態であり、特定の時間帯に集中してトイレが使用されるものである。学校や劇場がこれに当たる。小学校や中学校、高校では主に休み時間にのみトイレが使用されるため、集中利用形態に当たるが、大学では空きコマがあり、任意利用形態と考えることもできる。小学校や中学校、高校と比べて、大学におけるトイレの適正器具数の研究はあまりされていない。

京大のトイレの実態

大学のトイレの適正器具数に関するデータがあまりないため、ここでは専門的な分析ではなく、京大吉田南構内のトイレを調査して気がついた傾向を2点紹介する。1つ目は、基本的に全ての建物の全てのフロアに男子トイレと女子トイレが両方設置されていることである。これは、集中利用形態として分類される学校のトイレによく見られる傾向であると言われる。男女比に極端な偏りがなく、各階で使用者が限定されやすい学校では、混雑を避けるためトイレを各階に置くことが基本である。京大のトイレはこういった原則に沿う形で設置されていると言える。両方設置されていない建物では、奇数階は男子トイレ、偶数階は女子トイレを設置していた3共のように、交互に男子トイレと女子トイレを配置していることが多かった。2つ目は、待ち行列が1列になりやすいトイレの構造である。待ち行列には、1列待ちと並列待ちがある。1列待ちは、器具が使用されているときに1列に並んで待ち、空いた便器を列の先頭の人が使用していくものである。一方、並列待ちは複数の器具ごとに列を作って待つものである。並列待ちでは行列ごとに解消速度が異なる可能性があり、利用者の待ち時間の平均を短くするためには、1列待ちの方が優れているとされる。京大吉田南構内のトイレでは、出入り口が1カ所のみで、トイレ内に入るための通路があまり広くなく、待つ人の習慣にかかわらず、1列待ちをせざるを得ない構造である。待ち時間を短縮するという観点から言えば、通路が狭いことは効果的と言える。

和式 VS 洋式

日本で主に使用される便器には、洋式便器、和式便器、男子用小便器の3種類がある。洋式の生活スタイルが定着した現在では、和式便器よりも洋式便器の方が主流となっている。その一方で、京大のように、和式便器を一定数残している施設も存在する。ここでは、洋式便器と和式便器の長所について、4つの観点から検証する。

排泄姿勢

洋式便器では椅座姿勢、和式便器ではしゃがみ姿勢で排泄を行うのが一般的だ。しゃがみ姿勢をうまくとれず、しゃがもうとすると後方に転倒してしまう人が、特に若い人によく見られる。そうした人達にとっては、和式便器での排泄が困難である。しかし、和式便器のしゃがみ姿勢は排泄を促す姿勢であるとされる。しゃがみ姿勢は背筋が伸びない猫背姿勢であり、腹腔内圧を高め、力みやすい。洋式便器では背筋が伸びきってしまうため、自然な排便が促されない。

清潔感

洋式便器は肌と便座が直接触れ合うため、公共トイレでは和式便器を使用するのを好む人がいるとされる。ただ、便座よりも電車の吊り革の方が大腸菌の数が多いというデータが存在し、実際に洋式便器が不清潔であるというわけではない。

形状

和式便器の方が単純な形状をしている。そのため、新たに便器を設置する場合は和式便器の方が安価であり、掃除がしやすいと言われる。洋式便器が設置されている場所の奥の床を掃除するときは、なかなか手が届かないため特に苦労する。

立ち座りのしやすさ

立ち座りは、洋式便器の方がしやすい。洋式便器は、普段椅子に座るように簡単に立ち座りができるのに対して、和式便器を使用する際には膝を曲げる必要があり、体への負担が大きい。そのため、高齢者や妊婦、介護を必要とする人には、洋式便器の利用が推奨されることが多い。

トイレに貼られた「注意」

調査をしているうちに発見したことのひとつとして、トイレの掲示物がある。主に不審者や盗撮への注意を促すものだ。

例えば、4共の女子トイレには盗撮への注意を促す掲示物が貼られている。盗撮や不審者の被害の届け出は年に数回あるといい、この掲示物は実際に盗撮の被害の届け出を受けて作成されたものだという。

また、中央食堂地階女子トイレには「不審者・不審物に注意!」と書かれた掲示物がある。これは、2016年12月に時計台記念館地階女子トイレにおいて、学生が個室から出ようとしたところ、個室のドアの前にナイフを持った男が立っていたという事案や、2017年に発生した女子トイレにおける盗撮被害を受けて作成された。なお、ナイフ等の危険物を持った不審者の報告は2016年のこの事案以降確認されていない。

掲示物が貼られているのは女子トイレだけではなく、一部の男子トイレにも掲示されているという。

編集後記

これまで、普段自分の使うトイレをじっくりと観察したことはなかった。メディアセンター南館にはウォシュレットがない、ということはおそらくこの企画を通してでなければ知ることはなかっただろう。京大の中にまだ和式トイレが残っていることも知らなかったかもしれない。トイレの適正器具数など知る由もなかっただろう。

こういった、どうでもよいように思えることを知るだけで、毎日が少し楽しくなるのだろうと思う。ウォシュレットのあるトイレしか使いたくない、という方はメディアセンター南館は避けてトイレに行けばよいかもしれない。和式のトイレが使いたい、という方は国際高等教育院や共東・共北を避けてトイレに行けばよいかもしれない。

トイレに行く、というごく当たり前の行為をするときに、ふと本記事を思い出していただけたら幸いだ。