〈映画評〉小さな英雄  ―カニとタマゴと透明人間―(2018.09.16)

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現代の英雄、それぞれの生き方


スタジオポノックの最新作は、「現代の小さな英雄」をテーマにした短編集だ。米林宏昌、百瀬義行、山下明彦の三監督が手掛けた世界観も作風も異なる3作品が、1時間にも満たない上映時間の中にぎゅっと詰め込まれている。カニの兄弟の冒険「カニーニとカニーノ」、卵アレルギーの少年の日常物語である「サムライエッグ」、都会に生きる誰からも見えない男の変化を追う「透明人間」の3作品は、困難をどう乗り越えるかという三者三様の生き方を描いている。

◆ カニーニとカニーノ

「にーに」「はね」「やー」など、カニの兄弟たちのひらがな的な台詞が愛らしい作品。冒頭に登場するトンボや、主人公であるカニの一家は擬人化されているが、それ以外の登場生物は全て実際の生き物の姿である。この描き分けによって、カニーニ達が川底から仰ぎ見る魚や鳥が、意思の疎通も図れない圧倒的存在であることが直感的に伝わってくる。中盤に出てくる別のカニ達も、弱肉強食の世界を生きる無関係の他者であることが、甲殻類の姿であることから一目瞭然だ。はぐれた父親を捜すカニの兄弟にとって、そんな他者の親子愛を目にしたことは、どれほどまぶしく辛かったことだろうか。
『借りぐらしのアリエッティ』で監督を務めた米林監督だけあって、小さな生き物たちが生きる世界の描写も秀逸だ。キャラクターのそばに落ちる雨粒、水の中を流れる落ち葉、濁流の中の泡などの風景の一つ一つが、見るものに小人になったような気分を味わわせてくれる。特に、頭上を泳ぐ巨大な魚が獲物を求めて目玉をぐりっとこちらに向けるシーンなど、思わず後ずさりしたくなるような迫力である。

◆ サムライエッグ

サムライエッグの主人公・シュンは、卵アレルギーである。それも、呼吸困難から命を失いかねないほどの重度のものだ。タイトルの由来は、卵アレルギーという困難にも気高く立ち向かう侍のような少年の物語、といったところであろう。
学校から宿泊行事に行くのにも、食事をどうするのかで親と先生が相談をしなくてはならない。普段から気をつけていても、お祭りの人ごみの中で意図せずクリームが口に入ったり、市販の食品の原材料変更で卵が新たに使われていることに気付かなかったりするだけで命の危険にさらされてしまう……。シュンの日常風景は、身近に重度のアレルギーを持っている人がいないと想像もできないような苦労に気付かせてくれる。と同時に、逆上がりが出来ない女の子にアドバイスをしたり、シャトルランで学校新記録を叩き出したりするシュンの姿は、「アレルギーがある=周りが気遣ってあげないといけない弱者」ではないのだということを強く伝えてくれる。

◆ 透明人間

サラリーマンとして生きる透明人間を主人公に、不思議な世界観が展開されていく。落とし物を拾って差し出しても、「こんなところにあったんだ」と手を伸ばされるだけで自分の存在に気付いてもらえない。自動ドアにも気づかれないのでコンビニに入る事も出来なければ、暗証番号を入力しても反応しないのでATMでお金をおろす事も出来ない。自分から人に働きかけることもないので、その状況すら伝わらない。その姿は、今までどうやって生きて来たのか、なぜ待つばかりで自分から誰かに助けを求めないのかと、見ていてやきもきさせられた。
主人公は透明なので表情は見えず、ちゃんとした台詞もほとんどない。身にまとった衣服からわかる姿勢や口から洩れる声だけで、主人公の性格や「透明人間」の性質を伝える技法にはほれぼれする。ネタバレになるため詳しくは言わないが、初めて自分から行動を起こした後、最後にバイクで走り抜ける彼は確かに透明ではなかった。彼は本当に「透明人間」だったのか、それとも透明人間のように生きているという比喩だったのか。いろいろと考えさせられる作品だ。

各作品の登場人物たちがカーテンコールを受けるエンディングのあり方は、ポノック短編劇場というプロジェクト名にふさわしく、まさに劇場といった趣だ。もともとの構想では高畑勲監督の作品も合わせて4編構成の予定だったという。惜しくも高畑氏が亡くなられたためこの構想は実現しなかったが、エンドロールにはしっかり「感謝 高畑勲」の文字があった。エンドロールまで含めて、いのちを描いた作品としてしっかり作られていたという印象だ。(鹿)

監督
米林宏昌・百瀬義行・山下明彦
上映時間 54分
配給 スタジオポノック
2018年8月24日公開

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