企画

立て看板規制を問う 連載 第1回

2018.05.16

昨年12月19日に制定され、今年5月1日から施行された「京都大学立看板規程」は、これまでキャンパス内、周辺に設置されてきた京大の立て看板に大きな制約を課している。規制に対しては、学生や職員組合といった当事者のみならず、市民からもその是非を問う声が上がっている。一方で京大当局は、「規程はすでに決定されたもの」とし、学生らが求める説明会の開催すら拒んだほか、看板の一斉撤去にも踏み切った。

本紙では、拙速ともいえる立て看板規制を多角的に考えるための特集を連載することにした。第1回となる今回は、前提となる事実について、条例本文と、情報公開請求で分かったことをもとに解説する。(編集部)

資料編

「京都大学立看板規程」とは

「京都大学立看板規程」は、立て看板の大きさや枚数、設置場所、設置日数に制限を設けている。具体的には、立て看板はNF期間中や新歓期を除いて全学公認団体のみが設置可能で、設置場所は指定場所のみに制限されている。各団体は立て看板を1枚しか設置できず、その大きさは縦横それぞれ2㍍以内に限られる。また、設置団体名や設置責任者氏名、連絡先、設置期間の記載も義務とされている。規程にそった立て看板を設置するための高さ約1㍍の鉄製フレームが今年3月、学内5箇所に1千万円を使用して新設された。

資料1:京都大学立看板規程

施行後の動き

規程に反する看板の5月1日以降の扱いについて京都大学当局は、3月30日に、機関紙『Campus Life News』第24号にて、「立看板等の屋外広告物」は、キャンパス周辺への設置が確認され次第大学当局が撤去すること、構内の指定場所以外に設置された立て看板等や、部局が設置を認めていない立て看板等を確認した場合などは自主撤去を求め、それに応じない場合は大学当局が撤去することを明らかにした。5月1日と5月8日には、職員がキャンパス周辺の看板等に自主撤去を求める通告書を貼り、5月13日の早朝、一斉に撤去した。

▼5月1日に張り出された通告書

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制定に至るまで

規程の制定に至るまでの議論は、公開されている議事録や、学生からの質問・意見を受けつけるフォーム「学生意見箱」で、断片的に明らかになっているのみである。まず、規程制定の主な要因となっているのは、京都市からの行政指導だと分かっている。本紙記者による京都市への情報公開請求で開示されたところでは、指導は2012年から13回にわたり口頭で行われ、昨年10月5日には京都市が文書通知を京大に出した。これを受けて同月20日に開催された学生生活委員会では、立て看板に対する対応を開始することが説明され、意見交換があった。11月14日に開催された部局長会議においては、報告事項として、立て看板の設置に関する大学の基本方針が示される。同日には、学生や全学公認団体に向け、屋外の広告設置を禁止している京都市の条例遵守を促す通知が川添信介学生担当理事・副学長名義で出された。その後、12月12日の部局長会議で議題にのぼった「立看板規程」は、一部修正を加えられることで承認され、19日には教育研究評議会と役員会で承認され制定に至った。12月の部局長会議で初めて規程の草案が出て、そのまま承認に至った形だ。草案の作成過程について京大は本紙の取材に対して「関係する理事、副学長、関係部・課の協議により規程案を検討した」と答えている。

資料2:公開されている学内会議録

規程が定める制限の根拠についても、詳細は明らかにされていない。立て看板を設置する場所を指定する理由については、本紙の取材に対して、「立て看板の設置場所として適切な場所に、安全に括り付けるための棒を設ける必要があるため」と回答している。また、看板に個人の氏名を載せる義務を課す理由については学生意見箱上で「必要な場合に速やかな対応をお願いすることがあるため」と説明している(2018年1月11日)。

これまでの学内規程

立て看板の設置を制限する学内規程は、「立看板規程」が制定される以前にも存在し、柔軟に運用されてきた歴史がある。1948年に制定された「京都大学学内掲示物等規程」では、立て看板について、「掲示は、本学の定める一般掲示所以外の場所に行なつてはならない」としていたほか、大きさについては「縦220㌢㍍、横40㌢㍍以内のもの」と定めていた。しかし、少なくとも60年代以降は、この規程が厳格に適用されることはなかった。また、キャンパス周辺の看板については、この規程の適用外であることから、「一義的には設置者が設置の可否の判断に責任を負うべき」という見解を「学生意見箱」で明らかにしている(2017年7月14日、森田正信・総務担当理事、佐藤直樹・施設担当理事、川添信介・学生担当理事の連名で回答)。近年では、台風接近時や長期休暇期には、大学当局が自主撤去を設置者に求め、撤去されない場合のみ職員が撤去・移動していた。

資料3:京都大学学内掲示物等規程

規制の背景にある行政指導

前述したように、京大が規程を制定し立て看板の規制に乗り出した主な要因には、京都市からの行政指導がある。行政指導では、京大のキャンパス周辺に設置されている立て看板について、「京都市屋外広告物等に関する条例」に抵触することや通行に危険を及ぼしていると住民からの苦情が寄せられていること、道路法上の不法占用に当たる可能性があることが指摘されてきた。

屋外広告物条例に関する指導

「京都市屋外広告物等に関する条例」は、2007年に京都市が「新景観政策」を実施するのに合わせて大幅に改正され、規制の強化とともに、「優良な屋外広告物の誘導」と「違反指導の強化」という方向性が新たに盛り込まれた。屋外広告物条例改正を含む「新景観政策」は、「京都らしい景観」の保全などを目的として、建築物の高さやデザインの規制、眺望景観・借景の保全、歴史的建造物の保全を柱としていた。

屋外広告物条例に関しては、14年8月末までを猶予期間とし、指導を強化。2012年の条例施行後は巡回指導に当たる非常勤嘱託職員を新たに52人採用し、100人態勢で、違反広告物の取り締まり強化に当たった。職員は、2人1組となって担当地域の店舗や事業所を巡回し、一定規模の広告物について必要な設置許可の有無を確認するほか、基準に合っていない広告物の撤去や改修を求めた。また同時に、条例に即した広告物への誘導も着々と進めてきた。07年には、優れたデザインの看板を設置した店舗を支援する仕組みが作られ、審査で「優良」と認められれば設置費の3分の1から3分の2が補助されるようになったほか、12年11月には、中小企業や個人商店主を対象に、違反看板などの撤去や改修に必要な費用を低利で融資する制度が設けられた。

参考:

このように条例違反の屋外広告物を是正する指導・誘導は全市的に進められており、京大も例外とはならなかった。立て看板に関する京大とのやりとりに関する資料を京都市に情報公開請求したところ、表1のように2012年から協議が行われてきたことがわかる。2016年からは11回にわたり、広告景観づくり推進室の広告物適正化を担当する部署が京大に出向き協議をしたという記録が残っている。そして、昨年10月5日に、広告景観づくり推進室広告物適正化課長と道路河川管理課長の連名で文書通知が行われる。通知では、立て看板が条例で規制されている屋外広告物に該当し、これまでの指導にもかかわらず是正されていないこと、看板が道路にはみ出すと不法占用になること、看板が倒壊などで通行に危険を及ぼすことにもなりかねないことを指摘し、立て看板等の設置について法令遵守を徹底することと歩行者の安全確保に十分な配慮を行うことを求めている。

資料4:京都市からの文書通知

▼表1:京都市と京大の立看板に関するやりとり

※ 開示された資料をもとに筆者が表を作成した
※※ ■は開示された資料で伏字にされていた部分
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抵触する条項

では、立て看板は、屋外広告物条例のどういった条項に抵触するのか。まず、条例が一般的に禁止していることとして、「汚損、退色、はく離又は破損により都市の景観に著しい悪影響を及ぼすもの」や「破損、落下、倒壊等により公衆に危害を及ぼすおそれがあるもの」がある(条例第4条)。そして、具体的な禁止場所としては、擁壁が挙げられており、京大のキャンパス周辺の石垣はこれに該当する(条例施行規則第5条)。

高さや大きさの基準

さらに、細かく定められた規制区域ごとの基準があり、第2種地域と沿道型第2種地域に指定されている。いずれにせよ立て看板は、高さの上限が2㍍、1個当たりの面積の上限が2平方㍍とされ、色彩に関しても数値基準が定められている。

▼表2:条例で定める数値基準

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参考:

そして上述した事項・基準に則ったうえで、設置に際しては市長の許可が必要とされている。しかし、例外的に許可が必要とされない場合がある。京大に関連する条項としては、(1)国立大学法人が公共の目的のために看板を設置する場合(第6条)と、(2)慣例的行事のために表示期間を明記して看板を設置する場合(第6条)、(3)営利を目的としない団体または個人が政治活動、労働組合活動、人権擁護活動、宗教活動その他の営利を目的としない活動のために看板を設置する場合(第9条)だ。たとえば、11月祭期間中の看板設置は(2)のケースに該当するであろうし、職員組合や学生団体が設置する看板は(3)のケースに該当するといえるだろう。ただし、このいずれのケースにおいても、上述した設置場所や、看板の高さや面積の上限、色彩に関する基準には適合していることが必要となる。

住民からの苦情に基づく指導

また、京大に対する行政指導は、屋外広告物条例に関するものだけではなく、住民からの苦情を受け、道路を管理する左京土木事務所からもあった。情報公開で分かったところでは、表3のように、2011年以降5件の要望が寄せられており、内容は主に、道路にはみ出している看板固定用のブロックと看板そのものの両方が危険だと主張するものだった。

▼表3:市民等要望処理報告書(左京土木事務所)

※ 開示された資料をもとに筆者が表を作成した
※※ ■は開示された資料で伏字にされていた部分
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これを受け、京都市は道路上の不法占用にあたるとして京大への指導を行っている。道路法ならびに道路法施行令によると、看板の設置には道路管理者の許可が必要とされている。道路法では、道路に設置された看板が「道路の構造に損害を及ぼし、若しくは交通に危険を及ぼし、又はそれらのおそれがあると認められる場合」には、必要な行政手続きを踏めば道路管理者が強制的に撤去することができるとされている。京大周辺の擁壁に立てかけてある看板は、道路にはみ出している場合は道路法上の不法占用になる。

資料8:道路法

資料9:道路法施行令

もちろん、擁壁付近が京大の敷地内であれば不法占用にはあたらないことになる。しかし、京大周辺の看板は、固定用のブロックが道路にはみ出していることが多い。図1から図3は、京都市が公開している「道路区域明示図」という、道路管理者が管理する道路の範囲を示した図面だ。これを見ると、写真のような看板の固定用ブロックは道路管理者の管轄となることがわかる。

▼図1:百万遍付近の道路区域明示図(平面図)

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▼図2:百万遍付近の道路区域明示図(断面図)。上部に〇がついている直線の左側が国有道路敷

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▼図3:東山東一条交差点付近の道路区域明示図(平面図)

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▼図4:東山東一条交差点付近の道路区域明示図(断面図)

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▼写真:このようにブロックや看板が道路にはみ出している場合、道路法上の不法占用に当たるとされる

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まとめ

京大周辺に立て看板を設置することには、法令上の制約が多い。京都市の屋外広告物条例では擁壁の設置が禁止されているほか、道路法では道路にはみ出すことは不法占用にあたる。とはいえ、特例がないわけではないこともわかる。一方で、京大構内は大学法人が管理するものであるため、法令とは別に基準を定めることができ、設置者である学生らとそのルールづくりを検討することもできたはずだ。しかし、「立看板規程」が制定され施行されるにあたり、これまで看板を設置してきた当事者との協議、当事者への説明の場は開かれていない(学内有志団体のサイトから)。

立て看板規制を考える論点はいくつもある。本企画は次号以降、さまざまな立場からの寄稿を掲載していく。

2018年6月4日午前7時 更新

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