展覧会〈岡本神草の時代〉尽きぬ官能性の世界(2017.12.01)

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恐ろしいまでの美

京都国立近代美術館で「岡本神草の時代」展が開催されている。岡本神草は大正から昭和の初めにかけて活躍した画家で、今回の展覧会は初の大規模回顧展となる。若い時の素描や静物画、動物画から代表作の美人画に至るまで年代順に展示され、同時代に活躍した日本画家と並べて鑑賞できるようになっているため、時代性が伝わりやすい展示となっている。

神草の美人画から伝わる官能性は、京都国立近代美術館の紹介文でも指摘されている。今回はその官能性に着目して、それがどこから来るのか考えたい。

展示されてる絵の中にはヌードもあるのだが、数は少ない。むしろ、衣を幾重にも着た美人画もヌードに負けず劣らず官能的だと感じた。それはなぜだろうか。まず、考えられるのは着物から露出している手と足の描写であろう。指や足の先はほんのりと赤く塗ってあり、それは現代の成人漫画にも通じるエロティックな描き方であると感じた。この手と足へのフェティシズムは日本文化にしばしば見られるものであるように思う。谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で暗闇の中から手と足だけが白く浮かぶ日本人女性について言及している。室生犀星も着物を着た女性は普段は体を露出しないからふと見える足や手が非常にエロティックなのだと語っている。第一に、この手と足への伝統的なフェティシズムが官能性を裏打ちしているのではないか。次に、重ねた衣それ自体の効果があげられる。彫刻や絵画を語る際に「濡れた衣」という概念がある。まるで濡れているかのように体に張り付いた衣を着せる・被せることで体のラインを強調することをさす。対照的に、神草の「重ねた衣」は体のラインを全く隠してしまっている。しかし、衣の中にある肉体をかえって想起させるという点では、「濡れた衣」と似た効果があるだろう。隠す美学、といえるだろうか。ドイツ・ルネサンスを代表する画家・クラーナハの展覧会に行った際、ベールで体(特に局部)を隠すことでエロティックな効果を出していると紹介されていた。この隠す美学は西洋の作品にも通じるものなのかもしれない。

また、神草や同時代の美人画家の絵が持つグロテスクさと生々しさ、それに起因する怖さが官能性に通じているのではないだろうか。この展覧会のチラシでも使われている神草の『口紅』という作品は女性が歯をむき出しにして真っ赤な口紅を塗っているシーンを描いたものだ。女性の目は細くて狐のようで妖しいし、唇の鮮やかさや歯の白さは非常に生々しい。また稲垣仲静の『太夫』は、白粉で真っ白な顔をした着物姿の女性がお歯黒を塗った歯を見せて笑っている絵なのだが、顔の筋肉がグロテスクで明らかに怖い作品となっている。しかし、これらの作品は美しいし、妖しげな魅力を放っているのである。この怖さ、グロテスクさ、生々しさがなぜ官能性を帯びて見えるのだろうか。まず、グロテスクさ、生々しさと官能性は表裏一体であることが指摘できる。肉欲は「肉」への欲であるし、肉体を生々しいと形容することはしばしばある。裸体や性器は時にグロテスクである。

さらに、この怖さは美学上の崇高という概念と結びつけられるかもしれない。桑島秀樹『崇高の美学』によれば、崇高とは、古典的で静態的な美と区別され、激しい心情変化を伴うダイナミックな精神的高揚感を価値づけるために採用された語だという。桑島によれば、崇高概念の立役者の一人である18世紀のイギリスの哲学者・バークは、苦・恐怖の美学のうちにこそ、いっそう高次の快感情、いわば歓喜の惹起へ至る通路が開かれていると考えたという。バークは『崇高と美の観念の起原』の中で、恐怖は神経の不自然な緊張とある種の激烈な情緒を生み出すとしている。これは私たちが本能的に感じる怖さゆえの美、その官能性を言い表しているだろう。バークはさらに、私たちが休息中の弛緩状態にある際は憂鬱、落胆、絶望を感じやすく、運動をすることで――つまり、苦に近い負担を与えることで、人は負の感情から脱却し、喜悦を感じると説明している。俗にいえば、ただのんびりとしていることに飽き足らず、ジェットコースターに乗るなど、スリルを求めてしまう私たちの本性を言い当てているかもしれない。恐怖というある種の苦によって、私たちの感性は刺激されているといえる。神草たちの怖い美人画を見た時に感じる官能性と美は、バークの理論によっても裏付けられるだろう。

以上、神草及び同時代の画家の美人画における官能性について考えた。是非この展覧会に実際に足を運び、考えを巡らせてみてほしい。(竹)

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