〈特集〉ノートテイカーを知る 聴覚障害と社会的バリア ―よりよい学生生活を送るために(2017.10.16)

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大学で、こんな姿をみたことはないだろうか。

講義の際、教室の前方に3人が横並びに座り、そのうちの2人がパソコンを打っている―これはノートテイカーと、そのサポートのもと授業を受ける聴覚障害のある学生の様子だ。

2016年4月に障害者差別解消法が施行された。それから約1年半、どれほど世間に影響があったのだろうか。今年6月には航空会社のバニラ・エアが身体障害者の搭乗を拒否したことが大きく報道されたことも記憶に新しい。どのような法律なのか、十分に理解されているとは言い難いかもしれない。

内閣府のパンフレットによると、障害者差別解消法とは、障害者基本法第4条を具体的に実現するための法律だという。障害者基本法第4条は、「①差別することを禁止し、②社会的バリアを取り除くための合理的な配慮をしないと差別になる」と定めている。

この法律には「合理的な配慮」という言葉がある。これは「障害がある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること」だ。

音声情報が入らないという、聴覚障害に対する「社会的バリアの除去」とは、情報をきちんと提供すること、すなわち「情報保障」ということになる。

聴覚障害者への「合理的配慮」として、聴覚障害のある学生が授業を受ける手助けをする「ノートテイク」という支援がある。ノートテイクでは、ノートテイカーが教員の発言内容を、紙に書き起こしたりキーボードでパソコンに打ちこんだりする。

京都大学では障害学生支援ルームがノートテイクの支援をしている。障害学生支援ルームによれば、現在学内には支援を必要とする聴覚障害の学生(以下、利用者)が5名、ノートテイカー(以下、サポーター)が70数名いるという。

今回はノートテイクの利用者とサポーター、それぞれに話を聞いた。(酔)

◆利用者 星野春香さん


彼女は中程度難聴で、日常生活では小さい声や高い声では聞きとりづらい場合があるものの、早口でなければ大体は話についていける。しかし話す時は常に集中せねばならず、疲れてしまうそうだ。学生生活では、大学1回生の前期はサポートなしで授業をうけていた。障害の程度が重くなってきたことや、第二外国語のスペイン語の一部がうまく聞き取れず、リスニングのテストで苦労したことを、同じく聴覚障害のある先輩に相談した結果、ノートテイクを知ったという。現在は教育学部4回生で、教育心理学を専攻している。
* * *
専門授業の講義でパソコンによるノートテイクを利用していました。中程度難聴だと、雑音の少ない空間でゆっくりと話してもらえれば、おおよそ聞くことができます。しかし授業では話す速度が速いうえ、専門用語や難しい単語が多いため、ノートテイクが必要になりました。それまでも手話を使える先輩の助けを少し受けていたものの、心理学の授業で記憶など曖昧なものについて話すことが多く、手話で伝えるよりも文字として読む方が深く理解できると考えたのも利用の決め手でした。ノートテイクよりもパソコンテイクのほうが書く速度が速く、情報量が多いですが、図表などを用いて教授が解説する場合は紙に書いた方が速くわかりやすいです。パソコン・ノートを併用する場合や、レジュメや教科書に直接書き込んでもらう場合もあります。ノートテイクは決まったやり方があるわけではありません。サポーターが手話を使える場合、手話で伝えてもらったこともあります。手話では、専門用語や詳細な話を伝えることは難しいかもしれません。しかし、タイムラグが少ないことや、身振り手振りの強弱で話している雰囲気、勢いも伝わるところが長所です。

聴覚障害は情報が入ってこないという障害で、音という情報があるのかないのか、それ自体に気づけない状態です。他の学生と対等に授業を受けるために、ノートテイクという支援方法だけではなく、様々な「合理的配慮」を受けています。例えば先生に、私が受信機をつけている難聴者用のマイクでしゃべってもらったり、ディスカッション形式の授業ではマイクを増やしてもらったりと、柔軟な対応をしてもらっています。

◆サポーター 越智雅子さん


私がノートテイクを知ったのは友人がきっかけです。他大学でノートテイカーをしている友人の話を聞き、「こんな支援があるのか、こんなに支援を必要とする人がいるのか」と思いました。その後大学の掲示板に貼ってあったノートテイカー募集の紙を偶然見かけ、応募しました。

サポーターとして動き始めると、話していることを単純に写すだけではなく、どう重要なのか自分でも理解し、話の流れをわかりやすく要約して書くことが大事だと感じました。というのも、書く速度より話す速度のほうが速いため、すべてを書き写すことはできないからです。
授業の講義内容だけではなく、先生の雑談も文字にしますし、先生の話に対し教室が笑ったら「(笑)」、先生が沈黙すれば「…」と書くこともあります。話している内容そのものだけではなく、授業の「雰囲気」も伝えることが重要です。

使用道具もマイナーチェンジがあります。例えばパソコンテイクの際、昔は専用モニターを使っていましたが、今はより画面の大きいパソコンになったり、キーボードが強くたたいても音が出づらいものに変わったりしました。

京都大学では、ノートテイカーに謝礼として1時間当たり1200円が支払われます。こういったことはボランティアですることだと思われるでしょう。私も最初は、こんなのでお金をもらっていいのか、自分自身も勉強させていただいている立場なのに、と思っていました。しかし段々それも変わってきました。利用学生にとっては、私達の与える情報が「真実」になってしまいます。お金をもらっているからこそ「してあげている」のではなく、仕事として、より責任感と緊張感をもって動けます。利用者の反応があまりよくなかったときは、本人にどうだったか聞いたり、今日のようなノートの取り方でよかったのか、支援ルームの方に相談することもあります。障害が同程度の方でも、してほしいことは違うことが多いので、支援を受ける側も、言葉や態度で意思表示するのが重要だと私は思います。

ノートテイカーになるには、事前研修を受けることが必要だ。
事前研修は障害学生支援ルームが定期的に実施している。
興味のある方はWebサイトを参照してほしい。
www.gssc.kyoto-u.ac.jp/support/supporter.html

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