〈映画評〉ヨン・サンホ『新感染 ファイナル・エクスプレス』 韓国ゾンビ映画の新境地(2017.10.1)

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ゾンビ映画にはあまり興味が無かったため、何もなければおそらく本作を見に行くことはなかっただろう。しかしどの映画サイトでも高評価を得ており、「ゾンビ映画なのに泣いた……」「韓国映画ということで見てない人も、ぜひ!」などというレビューコメントが並んでいるので、だまされたと思って映画館に足を運んでみた。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』は韓国で観客動員数1000万人を超える大ヒットを記録、さらにカンヌ国際映画祭をはじめ数々の映画祭で高い評価を得た。ゾンビが題材の映画だが、ハリウッド映画のようなガンアクションなどの要素はなく、一般人がゾンビに遭遇してしまった状況がリアルに描かれた作品だ。

主人公のソグは仕事を優先し、家族との時間をないがしろにしているファンドマネージャー。妻はそんなソグに愛想を尽かし、幼い娘・スアンを置いて出て行った。そんなスアンは自分の誕生日に釜山にいる母に会いたいと言い出す。仕方がなくソグは娘を連れて釜山へ向かう高速鉄道KTX101号に乗車する。そのころ釜山を除いた韓国中で謎のウイルスが蔓延し、そのウイルスが原因で生まれたゾンビによる混乱が起こっていた。そしてソグたちの乗る列車にウイルスに感染した女性が乗り込んでしまい、列車内に感染が広まってしまう。ソグたちと残された乗客はゾンビの群れから逃れながら釜山を目指す。

本作の原題を直訳すると『釜山行き』だが、邦題は「感染」と「新幹線」をかけた『新感染』と原題を踏まえておらず正直良い印象を受けなかった。しかしこの映画はそんな印象を吹き飛ばしてしまうほどの興奮をもたらしてくれた。まず冒頭のシーン。トラックに轢かれた鹿が、車が走り去った後ムクムクと起き上がる。その眼は真っ白で、ウイルスに感染してゾンビとなっていることがわかる。そのシーンの不気味さが観客に最初の不安を植え付ける。そして主人公のソグとスアンが列車に乗り込んだ後は、ゾンビに噛まれたらおしまいという死と隣り合わせの緊張感あふれる闘いが繰り広げられる。

そんな主人公と同じ列車に乗り合わせた乗客には気の強い妊婦とやたらマッチョで下品だが心優しい夫、高校生のカップル、自分のことしか考えていないサラリーマン、そしていつも人のことを思いやるおばあさんとちょっと嫌味なその妹がいる。極限状態の中で生き延びようとする彼らの姿についつい感情移入してしまう。そして、もしその場に自分が入ればどう行動するか、自分自身に問いかけたくなるだろう。

監督であるヨン・サンホは、日本のアニメに影響を受けてアニメーターを志し、『豚の王』や『我は神なり』など、長編アニメーションで人間の暗部をリアルに描写し高い評価を受けている。実写映画監督としてはデビュー作である本作にも、ヨン監督ならではのこだわりが随所に見受けられる。例えば、乗客たちのサバイバル劇に交えて、人間の醜い一面やエゴを、ここまでやるかというほど見せつけている。さらには、すれ違っていた父と娘が家族の絆を取り戻していく様も映し出すことで、感動的な結末を用意している。

主演は『トガニ 幼き瞳の告白』『サスペクト 哀しき容疑者』などの作品で活躍した、社会派からアクションまで演じるコン・ユ。さらに韓流好きの人なら一度は見たことのあるような俳優が脇を固めており、豪華なキャスティングとなっている。またゾンビ役のエキストラは感染の度合いによって異なるメイクを施され、動作も振付師によって指導を受けるなどの凝りよう。性別、年齢、演じる場所で役者が分類されるなど細かいところまで作りこまれている。そうしたこだわりは、体をくねらせながら空から降ってきたゾンビが、折れた腕をそのままに追いかけてくるシーンなどから見て取れる。

ゾンビから逃れるというゾンビ映画としては王道のストーリーに、緊張感とスピード感、そして感動が加わることで、鑑賞後はゾンビものを見ていたのに暖かいヒューマンドラマを見たような今まで経験したことのない気分にさせてくれる。妊婦が走り回っているなど多少のツッコミどころはあったものの、この映画はまさに観る人を満足させるエイターテインメント性に優れた傑作であることは間違いない。この作品を通して韓国映画の底力を思い知らされた人も多いのではないか。映画館の大型画面でその迫力をぜひ体感してほしいと思う。(湊)

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