〈映画評〉『夜明け告げるルーのうた』 また別の人魚の物語(2017.06.16)

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人魚の出てくる映画ときいて、思い浮かべるのは何だろうか。ディズニーの『リトル・マーメイド』? それともジブリの『崖の上のポニョ』? 湯浅政明監督のオリジナルアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』は、これらとはまた違った人魚と人間の物語である。

舞台の日無町は、人魚伝説のある海沿いの町だ。近くにそびえる「おかげ岩」の陰になっているので、日光に弱い人魚達がこの湾に住んでおり、船を沈めたり人を喰ったりしているというのだ。いつも退屈そうにしていたカイ少年は、音楽が大好きな人魚のルーに出会って少しずつ変わっていく……。

各種検索エンジンで「ルーのうた」と入力すると、検索候補上位に「ポニョ」が表示される。幼い人魚が人間界にやってくることや、やや両生類的な顔立ちが似ていることで連想する人が多いのだろう。だからといって、内容まで同じだと思ってもらっては困る。ルーのうたでは、主人公たちの進路、若者が出て行ってしまい過疎化する町、飼えなくなって処分される犬など、人間サイドの課題がクローズアップされている。ポニョが人魚の少女のわがままで人々が翻弄される話だとすれば、ルーは人魚たちが人間に翻弄される話といえるかもしれない。本作の主人公はあくまでカイであり、中心となるのは人間たちだ。

ポニョやアリエルは、周りの反対を無視して地上の世界にやってくる。人魚の存在は人々には知られておらず、紆余曲折を経て彼らは人間世界に溶け込んでいくのである。ところがルーの場合、人魚の存在は元々伝説として知られており、町の中にも人魚に人が襲われるのを見たという人が何人もいる。その上、ルーが人間界に干渉することに反対するどころか、ルーの父親もしれっと村に出入りしている。人魚と人の住む世界の距離が近いからこそ、人魚の存在が公になった時の反応は千差万別だ。害をなすものとして退治したいと思う者、観光の目玉として利用しようとする者、共存を目指す者……。様々な思いが複雑に入り乱れることで、敵味方の二項対立では測れない複雑なドラマが描き出される。

本作でもう一点特徴的なのは、独特の人魚観である。ルーのうたにおける人魚には、日光を浴びると発火して死んでしまうという、他作品ではまず見かけない特徴がある。他にも音楽が鳴っている間は尾びれが足になるというちょっとした変身能力や、人魚に噛まれたものは人でも犬でも人魚(ワン魚)になってしまうという奇妙な性質があり、人魚というよりはむしろ吸血鬼的だ。そのせいで人間と人魚は、陸地と水中というよりも光と闇といった関係性にあり、人魚への誤解はここから生まれている。異なる世界を生きる両者をつなぐのは、色とりどりの傘やパラソルだ。雨の日にカイは傘をさして舟でルーを追い、晴れた日でも傘をさせばルーはカイ達と一緒に歌い踊れる。本来日差しや雨を遮るために使われる道具が、画面に彩りを添えながら、二種族を結びつける手段として使われているのが印象的だ。

まごうことなきファンタジーでありながら現実の問題から離れられない本作は、人によって好みが分かれるかもしれない。だが、ルーの天真爛漫さやルーパパの無表情ながらもどこかひょうきんな佇まいは、見ていて心がほぐれていくようだ。人と仲良くなりたい亜人の話が好きな人、特に擬人化された動物の無邪気な愛らしさが好きな人にはぜひ試してみてほしい。(鹿)

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