「安野光雅の仕事」展(2017.03.16)

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こまやかな筆づかいと遊び心

「安野光雅の仕事」展が3日から26日まで美術館「えき」KYOTOで開催されている。作品別に9つのコーナーに分かれており、2017年運行予定の列車「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の車内の一角に展示される2016年の作品2点を含む約90点が展示されている。

画家・安野光雅は1926年に島根県津和野町に生まれた。幼少期から画家になることへの憧れを抱いていた安野は、山口師範学校研究科を修了後、美術教員として上京し、小学校で図画や工作を教えながら、本の装丁や挿絵などを手掛け活躍の幅を広げた。

順に展示を紹介する。まず「ふしぎなえ」。まだ言葉のない絵本など想像もできなかった時代に、安野はトポロジーを使って視覚を楽しませる挿絵を制作したという。階段がねじれ、どちらが上か下かわからなくなる小さな構造物を、とがった帽子をつけた小人が歩き回っている。トランプのかけらをしならせてプールの中に小人が飛び込んでいるのを見ると、絵の中の世界のミニチュアさがわかる。全作品を通して言えることだが、小さな世界を描く筆づかいはこまやかで優しい。「さかさま」では上下逆向きの世界に住む兵士がどっちがさかさまか喧嘩している。兵士たちは王様に抗議するが、王様もどっちがさかさまなのか困り果てて、しまいには作者自身もわからなくなってしまう。

絵と現実の境目がわからなくなる不思議で愉快な世界が展開される「ふしぎなさーかす」。サーカスの団員がライオンの絵を描くと、絵から本物のライオンが出てくる、という絵を我々が見ることによって、想像力が刺激される。

「もりのえほん」では精巧な森の絵の中に隠れている動物の絵を見つけるのが楽しい。3日にギャラリートークを行った安野光雅美術館の学藝専門員である廣石修氏によると、「モヤモヤしてしまう」人がいるため出版社側がどんな動物が隠れているか答えを出しているそうだ。もっとも、安野自身も種明かしを望んでおらず答えの半分以上を忘れているという。「複数人で動物を探して楽しんで欲しい絵」だと廣石氏は語る。

「野の花と小人たち」「花と会うとき」では花の絵が展示されている。廣石氏が奥行き、陰影のつけ方から安野の技術力の高さがわかる作品群だと述べたように、色調や余白のバランス、花の曲線の美しさは見事だ。また、絵に添えられた安野の一言も気が利いていて素晴らしい。その中の1つを紹介する:「花を美しいと思うのは、尊敬する人や愛する人のそばにいるだけで心が満たされる、あの心情に似ています。その心の中が写真で撮れないように、絵にも描けません。それでも描くのは、花と過ごすひとときを幸せと思う恋に似た想いがあるからです」。こういった哲学、憧憬があるからこそ、安野が見て描いた「花」は花そのものより繊細で柔らかく、私たちに安らかさをもたらしてくれるのだろう。彼岸花は彼自身が戦地から帰ってきたときに見たもので、今まで花など特別美しいと感じたことはなかったのに、彼岸花を見た時は涙が出てきたという。安野の作品から伝わってくる安らぎは、人間らしさへの回帰なのだろう。

「文字を考える絵本」では文字を三次元に立体化させた絵と、その文字から想起される絵が並べられている。文字の立体化という新しい取り組みは、安野が広く海外に認められるきっかけになったという。机の表面と脚の骨組みが「T」に見えたことからこの作品を閃いたそうだ。美術館には、立体化させた二次元の文字が描かれた絵を、実際に木のオブジェにしたものが展示されている。オブジェを見ても文字には見えないのだが、その影は文字に見える。二次元と三次元の関係を考えさせられる興味深い仕掛けだ。

続いて「昔咄(むかしばなし)きりがみ桃太郎」では切り紙によって桃太郎の物語が描かれている。デザインは安野が手掛け、実際の紙は切り師が切り抜いているという。展示では子供や婦人や病人の鬼をいじめないように桃太郎が諭す場面の切り絵がひときわ大きく引き伸ばされている。「安野さんらしい桃太郎が描かれている」と廣石氏は言う。

「旅の絵本」では空中から外国の風景を捉えた旅の絵本シリーズがそのまま展示されている。「旅の絵本」は飛行機が着陸する時の風景から着想を得た、鳥のような目から俯瞰することで一度に多くの街並み、人を描こうという試みだそうだ。随所に隠されている「旅人」を探すのはもちろん、イギリスの絵本ではビートルズが、デンマークの絵本ではアンデルセン童話が、アメリカの絵本では西部劇が見られるなど、仔細に目を通すことでさらなる楽しみを得られる。

最後に今回の特別出品の水彩画が2点展示されている。1つは清水寺、1つは壇ノ浦を描いたものだ。90歳を越えてから描かれた作品だが、実力は衰えていない。清水寺の桜は丸く抽象化され、清水寺自体も寺の見た目を残しながらもシンプルに描かれていることで無駄がないながらも優しく心地よい絵となっている。壇ノ浦も桃色の使い方が美しい。両者とも電車に展示されることを意識してか過度な表現を避けられており、そのことでかえって安野の老練さが際立っている。

この展示では安野のウィットに触れられるだけでなく、普段は本の中で接することが多い安野の絵を美術館で見ることで、安野の画家としての力量を鑑賞できる。また、細やかな筆遣いや遊び心から安野の描く対象に対する愛、優しさが伝わってきて、安らかな気持ちになれる。安野の代表作から最新作まで見る事ができるこの機会に、是非足を運んでほしい。(竹)

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