〈映画評〉一等賞に魅入られて『金メダル男』(2016.11.1)

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 金メダル、何と良い響きであろうか。今年のリオ五輪では、日本人選手ら12の金メダルを勝ち取った。「金メダル男」は、一等賞になることに魅入られた、とある男の物語である。
主人公・秋田泉一は、東京五輪の開催された1964年に長野県塩尻市に生まれた。小学生の時にかけっこで一等賞の金メダルをもらったことをきっかけに、全てにおいて一等賞を目指すようになる。絵画で、書道で、火おこしで、どんどん賞を取っていく姿から、付いたあだ名が「塩尻の金メダル男」。一時は神童とまで呼ばれたものの、中学に入ると一等賞はぱたりと取れなくなって……。自分で部活を立ち上げたり、東京に出たり、海外を旅してまわったりするなかで、それでもとにかく一等賞を目指した泉一は、はたしてどこにたどり着いたのか。
本作の見どころは、内村光良と知念侑李の2人1役だ。社会人と学生時代を演じ分けるため、服装をそろえる事は出来ない。そこで、失敗したときの「あぁー……」という声や表情、うまくいったときの「よしっ」というガッツポーズなど、一貫した仕草によって1人の人物として描き出している。シーンにも工夫が凝らされていて、中年時代に入ると、青少年時代とリンクする出来事が怒涛のように押し寄せる。思わぬところでの知人との再会や繰り返される失敗もさることながら、知念君演じる若き日の泉一の一見バカバカしい武勇伝が、内村さん演じる中年泉一の人生に要所要所で活きてくるところは見ごたえがある。
映画内での時間経過の描き方もおもしろい。映画自体は2時間もないが、作中では1964年から2016年までの50年余りが描かれている。この超高速の時代の流れを語るのが、随所に登場するテレビである。挫折しかけた高校生の泉一を励ましたのは、チャンネルを回すタイプのブラウン管から流れる「ベストテン」のアイドルソング。曲調や衣装はまさに昭和風で、字幕のデザインもなんとなく古めかしい。それに対し、大人になった泉一がぼんやりと眺めるテレビは薄型で、チャリティマラソンを走るイモトアヤコや「バンキシャ!」を流している。自分たちが見ている番組やタレントが作中でもそのまま登場するため、本当に今の時代を泉一たちが生きているような気になってしまう。今の時代を生きているからこそわかるネタが満載なので、高校生クイズや欽ちゃんの仮装大賞、ジャニーズ事務所などを知らない世代が将来見ても、この映画の面白さはほとんど伝わらないだろう。
昔は何をやっても出来たのに、気付けば周りはすごい人ばかりでとても敵う気がしない。どうせ一番にはなれないと、いつしか全力で何かに打ち込むのをやめてしまった。幼少期から要領がよかったであろう京大生にとっては、こうした経験がある人も多いのではないだろうか。心当たりのあった人には、ぜひ見てもらいたい。きっと自分の姿を見ているようで、親しみとバカバカしさに少しの憧れがない交ぜになったような、複雑な感情が湧いてくるはずだ。(鹿)

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