〈講演録〉日本メディアの常識は世界の非常識 自主ゼミ浅野健一ジャーナリズム講座 英紙特派員が講演(2016.8.1)

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7月7日、同志社大学今出川キャンパス・良心館で、第7回自主ゼミ「浅野健一ジャーナリズム講座」の特別シンポジウム「日本メディアの常識は世界の非常識」が開催され、ガーディアンの特派員・ジャスティン・マッカリー氏とインディペンデントの特派員・デイビッド・マックニール氏が講演した。日本外国人特派員協会のメンバーでもある2人が、安倍政権の報道への圧力とマスメディア内部の自己検閲の問題点について具体例を交えて解説した。主催は2014年3月同大から解雇され裁判中の浅野教授を支援する学生。講演後には参加者から多くの質問が飛んだ。(編集部)

講演者

◆ジャスティン・マッカリー
英字紙デイリーヨミウリ(大阪)の記者を経て、2003年から英紙ガーディアンとオブザーバーの日本・韓国特派員。医学雑誌「ランセット」や日本のメディアに寄稿。France24 TV、英米豪のラジオに出演。ビデオ作品でも国際的な賞を受賞。ロンドン大学大学院東洋アフリカ研究科修士課程(日本学)修了。
◆デイビッド・マックニール
英誌「エコノミスト」・英紙インディペンデント特派員。アイリッシュタイムズ、ジャパンタイムズ、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン、BBC、ニューズウィークなどにも寄稿。電子ジャーナルJapan Focusのコーディネーターを務める。上智大学講師。社会学・政治経済学で博士号。
◆浅野健一
元共同通信記者、同志社大学院社会学研究科博士課程教授(京都地裁で地位を巡って係争中)。著書に、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』(社会評論社)、『記者クラブ解体新書』(現代人文社)など多数。

圧力に反論しないメディア

マッカリー まず、デイビッドと私がどうして日本のメディアに関心を持っているのかをお話しします。今、私たちは日本のメディアに関する本を書いています。10年あまり日本でジャーナリズム活動をしていますが、現在の日本のメディアを取り巻く状況を非常に危惧しています。いくつかの理由のうち、最初に挙げたいのは、15年12月に完全施行された特定秘密保護法です。公務員らの国家機密の漏えいに厳罰を科し、ジャーナリストが当局者からリークされた情報を得た場合に犯罪者として投獄されるという法律です。ジャーナリストにとって、脅威となっています。
日本のメディアが政府から間接的な圧力を受けている例はたくさんあります。例えば、「公平な放送をしない放送局は電波を停める」という総務大臣・高市早苗氏の停波発言です。また、NHKの問題があります。会長・籾井勝人氏は、安倍首相の長年の友人であり、NHKの経営委員会で選出されましたが、彼が会長になってからの3年間、状況は日々悪くなっています。NHKは英国ではBBCに当たるとよく言われ、NHKを英国で説明するとき私はBBCを引き合いに出します。しかし、NHKとBBCの状況は大きく違います。最近BBCも英国政府から人事面などで様々な介入、圧力を受けていますが、BBCの記者、キャスター、ディレクター、俳優などはオープンな場で政府に反論し、「取材・報道の自由に政府は干渉するな」という声を頻繁に上げています。一方で、NHKや日本のジャーナリズム界の内部から安倍政権の圧力に反論することはほとんどありません。公共放送の基盤は市民への忠誠心だと思いますが、今のNHKは権力に忠誠心を抱いているように思います。そして、3人のリベラルなキャスターがこの春次々と退任しました。NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子氏、TBS「NEWS23」の岸井成格氏、テレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎氏です。降板の真相は時間がたてば明らかになるでしょうが、3人は政権に対し、厳しい質問をしていたことは間違いありません。国谷さんは今から2年前、安保法制について「戦争に巻き込まれるのではないか」と菅官房長官に質問しました。詳細は分かりませんが、クローズアップ現代を作る中で困難があったことを国谷さんは明かしています。
国連人権理事会の「表現の自由」特別報告者、デイビッド・ケイ米カリフォルニア大学教授(国際人権法)は4月19日、日本の報道について「特定秘密保護法と、政府による『中立性』と『公平性』への絶え間ない圧力が、高いレベルの自己検閲を生み出しており、報道の独立性は重大な脅威に直面している」とした暫定報告書を発表しました。ケイ氏は同日、私たちの所属する日本外国人特派員協会(FCCJ)で会見を開き、日本政府に対し、メディアの独立性保護と市民の知る権利促進のための対策を緊急に講じるよう要請しました。彼が指摘したのは、特定秘密保護法によってメディア現場が脅威を感じて、政府にとって都合の悪いことを報道できなくなるのではないかということです。
彼の記者会見の2日後に国境なき記者団が世界の報道の自由度ランキングを発表しました。6年前に日本は180カ国のうち11位でしたが、今回は72位になりました。もちろん、このランキングに問題はあります。例えば、韓国の実態を考えると、韓国が日本の上にいることに疑問が残ります。それでも日本の経済状況や民主主義の程度を考慮すると、順位が非常に低いです。

記者クラブが生み出す自己検閲

マックニール 日本のメディアにおいて一番問題なのは自己検閲です。報道の自由は憲法21条によって守られています。それにもかかわらず、自己検閲をしてしまっている。すべてに政府が圧力をかけていると捉えられることもあるのですが、現実は違います。自己検閲があるのです。記者クラブが生み出す自己検閲の例を2つ紹介しましょう。
まずは07年の皇太子のアイルランド訪問前の記者会見です。外国人特派員は普段はあまり宮内庁に招待されませんが、皇族が海外に行く時には、宣伝を狙って招かれます。07年、私は皇太子の記者会見に招待されました。日本の記者会見はふつう30分ほどで、質問も面白くありません。予め質問が決められているからです。しかし、その時は25分くらいで質問が止まりました。そこで、本当は怖かったのですが勇気を出して挙手しました。当時、雅子さんには皇太子と別れたいとこぼしているといったいろいろな噂があり、「雅子さんは皇太子と離婚したいのですか」と聞きたかったのです。私が手を挙げると皇太子は困った様子で宮内庁の職員を見ていました。もう1人AP通信の記者が手を上げました。皇太子は明らかにおろおろしていました。その後、反対側に座っているTBSの女性記者が本当に嫌そうに手をあげました。宮内庁の担当者は「レディファーストで」とでたらめを言って、その記者を当てました。彼女が何を質問したかは覚えていません。つまらない質問だったからです。私たちの仕事は読者のために協力して情報を引き出すことのはずですが、記者クラブの人は皇太子や宮内庁を守りたいと思っているわけです。彼らは「Public interest」(人民の利益)になるように動いていません。取材対象である権力に奉仕するということが記者クラブの問題点です。
もう一つは、09年に東京拘置所の死刑台を公開することになったときのことです。先進国で死刑が残っているのは日本と米国くらいなので、海外の人は死刑制度にとても興味があります。私たちは法務省に何度も電話して、「取材させてほしい」と言いました。しかし、法務省の職員は「私たちが決めることはできない。法務省の記者クラブが決めることだ」と答えました。記者クラブに問い合わせると「私たちは何も決めていない」と言いました。実施された死刑台の取材ツアーには、外国特派員はもちろん、フリージャーナリストや週刊誌の記者も参加できませんでした。これが記者クラブのやり方だと思います。ここでもまた、人民・読者の利益に反して取材対象のために奉仕するという問題が表れています。

浅野 当時の民主党政権の法務大臣は、弁護士出身でもともとは死刑に反対していた千葉景子氏でした。このとき、絞首台など死刑執行の場所を初めて記者に見せました。その時に、フリーのジャーナリストは全然入れませんでした。私も取材申込をしたのですが、拒否されました。その当時のもう一つの問題は、法務省が記者クラブとの協定で、加盟社が撮った刑場の写真は自社で使うだけで、雑誌など他メディアへの販売・提供をしないという約束をしたことです。共同通信や時事通信が撮った刑場の写真を販売することができませんでした。これが、記者クラブ制度の本質だと思います。法務省は「胡散臭いメディアに載ると困る」という理由を挙げたそうです。胡散臭いのはこういう情報を閉ざすカルテルを結ぶ役所と記者クラブです。

「記者クラブ制度では好奇心は関係ない」

マックニール 日本における自己検閲の背景には、浅野氏が今言った記者クラブ制度の問題があります。日本のメディアで悩ましいのは、権力を持つものに対して監視をしていないことです。ジャスティンがさっき述べたようにここ数年、NHKの自己検閲は深刻です。
例えば、NHKの国際放送を担当する外国人記者・翻訳者向け検閲のマニュアル「オレンジブック」というものがあります。日本ではあまり採り上げられませんが、英紙タイムズのパリー特派員が14年10月17日に報じたNHKの内部文書(14年10月3日付)です。オレンジブックは、いわゆる従軍慰安婦問題のような政治的、歴史的にセンシティブな問題についてルールを定めています。慰安婦の場合、「強制」という言葉を使うなとあります。どうして論争になっているかも述べてはいけませんし、「論争的」という言葉も使ってはいけません。靖国神社や南京大虐殺についても同じです。オレンジブックを読むと、今NHKのなかで起きている自己検閲の問題がはっきり見えてきます。
先ほどジャスティンの話にも出てきた国連報告者のケイ氏の来日や記者会見を、日本で一番大きな新聞と放送局であるNHKと読売新聞はほぼ報じませんでした。また、FACTAという雑誌は内閣情報室などがケイ氏や弁護士を尾行していたのではないかと報じました。もし本当だとすれば、国連の特別報告者を監視したということで、大変恥ずべきことです。こんな重要な話にもかかわらず、どうして新聞などの他のメディアがこれを扱わないのか不思議です。

浅野 デイビッド・ケイ氏の記者会見の報道について私から補足します。読売新聞は第二社会面で「放送法の改革を」とベタ記事で報じました。朝日新聞はそれなりの大きさで扱ったのですが、記者クラブの廃止については触れませんでした。大手紙は東京新聞だけが扱いました。
ケイ氏は日本政府が招待しています。それを監視しているとなれば、大変な問題です。 1月22日、朝鮮民主主義人民共和国の人権状況を調査する特別報告者であるインドネシアの元検事総長マルズキ・ダルスマン氏が日本で記者会見した際には、「国連が北朝鮮の人権侵害を非難」と大々的に報道していました。それにもかかわらず、ケイ氏の会見は全然扱わない。東京新聞の報道を受けて、毎日と朝日もさすがに扱わないといけないと思ったのか会見を報じましたが、「記者クラブの排他性も指摘した」(朝日)とあります。ケイ氏が求めたのは記者クラブの「廃止」です。排他性が問題ではなく、即時「廃止」を求めました。

質疑応答

――国境なき記者団が出している、報道の自由ランキングの基準とはどういうものなのですか。

浅野 各国のメディアの研究者やNGO、法律家を選んで審査を依頼し、約20項目を評価してランキングを決めます。例えば、ある番組を政府がつぶせるかとか、新聞記事を書くときに検閲があるかとかいった項目を10段階で評価して、合計する仕組みです。こういう審査をするときには、国境なき記者団が誰に質問をするかが非常に重要です。だから、そういう意味では審査する人のバイアスはもちろんかかります。しかし、大まかには妥当です。最下位から2番目が朝鮮で、上位は全部スウェーデンやノルウェーといったスカンディナビア諸国です。

マックニール 日本は思ったより低いというのが私の印象です。国境なき記者団は小さい組織ですし、評価は個人がするものなのでもちろん偏見が入ります。ただ、浅野先生の言う通り、概して言えば妥当です。また他のランキングもあり、それも参考にできます。私が勤める雑誌エコノミストでは、民主主義ランキングを出しています。去年4つの国がランクダウンしましたが、それは日本と韓国、コスタリカ、フランスです。もう一つ、NGOのフリーダム・ハウスが出しているランキングによると、日本は41位でした。韓国が日本より低いので、こっちの方が合っていると私は思います。

活かされない記者の好奇心

――記者クラブも含めて日本の記者を見ていて、外国人記者の視点から日本の記者の現状がどのように見えているのでしょうか。
マッカリー 日本の大きい新聞や放送局に勤めている記者はかわいそうだといつも思っています。一日中官庁の記者クラブに入りびたり、毎日同じ人から情報をもらって、記事の中心部分をみんなで相談して決め、自分の机で他の人と同じような記事を書いているからです。日本の新聞の1面を見て、面白くないなあといつも思っています。どの新聞も内容は同じですし、特ダネもあんまりないですよね。私は、もし政府に好きな記者クラブに入っていいと言われても、私は入りたいとは思いませんね。

マックニール 記者クラブが悪い理由はいくつもありあります。まず、それぞれの個人の記者の能力にあまり関係ありません。好奇心は記者にとって一番重要だと思いますが、記者クラブのシステムの中では、好奇心があってもなくてもあまり関係ありません。例えば私は、皇室がどのくらい税金を使っているのかを、10年前くらいから取材していました。税金を払っている側として、どのくらい税金が使われているか調べるのは、私たち英国人にとって当たり前のことです。成城大学の森暢平さんが、01年にできた情報公開制度を使って皇室のコストを調べて『天皇家の財布』という本を書いています。その先生にインタビューし、どうやって調べたか全部説明してもらいました。彼は元々毎日新聞の記者で、宮内庁の記者クラブのメンバーだったのですが、記者クラブのメンバーであればこういうことはできないと言っていました。

NHKとBBCの比較

――政治権力がメディアをコントロールしようとする手段で、NHKとBBCに違いはありますか。BBCの場合は、どのような権限が政府の側にあり、どのような権限がないのでしょうか。

マッカリー NHKの経営委員会は安倍総理大臣が選んでいます。BBCにはBBCトラストというNHKの経営委員会と同じような組織がありますが、これはBBCの内部から選ばれています。困ったことに現在、日本の総務省に対応する英国の文化省が、BBCトラストを変えて、NHKの経営委員会のように、政府がそのうちのメンバー何人かを任命できるようにしようとしています。また、BBCの財源も変えようとしています。こういう政府の統制の要求に対して、BBCでは関係者が政府や政治家からのプレッシャーに抵抗する動きがあります。しかし日本では、明らかにNHKに圧力がかかっているにもかかわらず、社会で議論されてないことが問題です。

――オレンジブックの文言について詳しく教えてください。

マックニール オレンジブックが出たのは2年半前です。安倍首相に選ばれた経営委員会の3人や籾井会長といった上司の意向を忖度して、中間管理職の編集長やデスクが自己検閲していることが問題の原因です。慰安婦や靖国、南京、原
発といったセンシティブな問題を扱う記者は書く時に緊張してしまいます。ただかつては、編集長によって扱いが変わるところもありました。例えば編集長がリベラルな人であれば、慰安婦問題で「強制」を使っても良いというようなこともありました。しかし、現在ではルールが決められています。オレンジブックのような国際放送のガイドラインが、日本全体に広がっていく可能性もあると思います。
これまでは、こうしなさいという指摘は所々あったのですが、オレンジブックの方はそれぞれの歴史問題についての具体的な指示が増えました。一例として、「sex slaves」という表現は使うなということにされました。

マッカリー すべての放送局がオレンジブックのようなものを持っていると思います。ただ、普通その内容は文法的なアドバイスに限られます。NHKのオレンジブックにはそういったアドバイスをこえた政治的なコメントが入っています。NHKについで読売新聞の英字版も、ガイドラインを定め、「sex slaves」や「comfort woman」という表現の使用を禁止しました。日本経済新聞の英字版もそういうルールが定められたと知り合いから聞いています。

浅野 もう一つ指摘しておきたいのは、NHKの国際放送については、大臣が放送法で放送区域、放送事項その他の必要な事項を指定して放送を行うべきことを命じることができるようになっていることです。また、このために要する費用は国が負担することを定めています。例えば06年と07年に法務相は「北朝鮮の拉致問題に特に留意すること」とする個別具体的な命令を出し、08年には同様の要請を出しました。総務相の権限を「命令」から「要請」するとした改正放送法は08年に施行されました。
これはとんでもない法律です。これをBBCでやったら大変なことになるでしょう。ふつうは、行政権力が報道機関の編集室に対し報道内容に関する命令をするということはありえません。この法律は廃止すべきです。

「朝日的な」人間、「読売的な」人間

――先ほどマッカリー氏が日本のメディア事情について社会で議論になってないことが問題だとおっしゃっていました。最近、市民、特に若者のあいだには、マスコミ報道への不信感が強まっていると思います。その中で、メディアに関わる教育がどのようになっていくべきだとお考えでしょうか。

マックニール とても良い質問ですね。職業的ジャーナリストを養成するコースが日本の大学に3、4つありますが、そういうところで、報道の倫理や報道の基準はどうあるべきかといったことを教えなければならないですし、そういうことを教えられた人たちがジャーナリストにならなければいけないと思います。しかし、現在の日本では、会社、報道機関に入って、例えば「朝日的な」人間、「読売的な」人間として記者教育をしているという現状があると思います。記事を書く方法やカメラの使い方だけではなく、ジャーナリズムの倫理を、どういうものを書くかというのを教えなければならないと思います。私は去年、東京新聞の編集長にインタビューしましたが、彼はジャーナリズムの使命についてはっきりと、「権力を監視し、市民のため、権力のない人たちのために情報を掘り出すことだ」と語っていました。そういう姿勢を教えることが必要です。

マッカリー いまデイビッドが言ったように、教育はもちろん大事です。もう一つ私が付け加えるとすれば、インターネットメディアに接して、様々な情報を手に入れることが大切だと思います。マスメディアのフィルターのかかってない情報がインターネット上にはたくさんあります。日本語だけではなくて、例えば英語のメディアにも接して、自分で自分を教育することもできるのではないでしょうか。

浅野 私もまったく同感です。米国の大学には約200の大学に、ジャーナリズム学科がありますし、英国のほとんどの大学にもメディア学の学部や学科があります。そういう意味では同大に1948年からメディア学科(旧・新聞学専攻)がある意義は大きいと思います。

(敬称は全て略した)

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