安全管理の課題明らかに 京大病院の実験室火災
2016.08.01
京都大学医学部附属病院の放射性物質を扱う実験室で火災が起きた問題で、事故の全容が明らかになりつつある。火災原因は研究員の過失で、実験の安全管理に問題があったことが分かったほか、事故の情報公開が不十分で遅いと住民らに指摘されるなど、課題が山積している。
火事は、7月1日18時15分ごろ、病院東構内のRI(放射性同位元素)実験施設から発生し、実験室29平方㍍が全焼した。炎や黒煙がときおり破裂音を出しながら立ちのぼり、消防車が20台以上駆けつけるなど現場は一時騒然とした。出火の原因は、出火前に実験をしていた研究員が、実験に用いたヒーターの電源を入れたままにしていたことだ。火災が起きた実験室は、国に許可された放射線管理区域である。火災発生の約1時間後に、病院のRI主任者と消防の隊員、京都大学環境安全保健機構(以下機構)の職員らが放射線量の測定を始めた。
機構は放射性物質そのものが管理区域外に漏れていないかについても調べた。管理区域内と管理区域外の堆積物や土壌、水、壁、窓枠、床などの放射線量や放射性物質の量を測定したところ、一部は実験室外の管理区域内に漏れた可能性があることが分かった。しかし、トリチウムとインジウムは蒸発しておらず、それらの一部は放水による水に溶けたと考えられること、水は実験室のある建物外には流失していなかったことから、実験室のある建物の外には漏れていないと判断した。
一方で、放射性物質が外部に漏えいしていないという見解を疑問視する声もある。市民環境研究所の石田紀郎氏(元京都大学教授)は本紙の取材に対し「あれだけの煙が出ていて、まったく放射線が漏れていないはずがない」と語り、外部へ漏えいしていないことを裏づける証拠の不十分さを指摘する。「仮に放射性物質が拡散していた場合、微量で人体に被害を与えるレベルではなくとも、その影響は近隣住民らが本来受ける必要がないものだ」(京大研究室火災の情報公開を求める住民連絡会・仲氏)という声もある。
もう一つの問題は、研究員が放射性物質の記録を定められた通り記載していなかったため、実験室内にあった放射性物質を特定するのが遅れたことだ。インジウムが漏れていないと機構がはっきり判断できたのは、7月8日だった。記録上は「廃棄」され、所定の場所に移動したことになっているはずのインジウムが、実際には実験室に残っていたことが原因だという。研究員の言動が曖昧で当初報告したインジウムの量が線量の測定結果と矛盾したため、機構が研究員に再度報告を求めたところ、実際の量は当初の報告よりかなり多いことが分かるということもあった。
また、今回の火災では、実験室にあった保護具や測定機器類が使えなかったものの、実験室と同じ医学部構内にある放射性同位元素総合センター(RIセンター)から装備や器具を持ち出し、使うことができた。一方で、桂キャンパスや宇治キャンパスの放射性物質を扱う実験施設は、今回のように装備や器具が確保できるとは限らない。「RIセンターから離れた研究室で大きな事故が起きた場合、装備や器具をどう準備するかは今後の課題だ」とRIセンター助教・角山雄一氏は話している。
火事は、7月1日18時15分ごろ、病院東構内のRI(放射性同位元素)実験施設から発生し、実験室29平方㍍が全焼した。炎や黒煙がときおり破裂音を出しながら立ちのぼり、消防車が20台以上駆けつけるなど現場は一時騒然とした。出火の原因は、出火前に実験をしていた研究員が、実験に用いたヒーターの電源を入れたままにしていたことだ。火災が起きた実験室は、国に許可された放射線管理区域である。火災発生の約1時間後に、病院のRI主任者と消防の隊員、京都大学環境安全保健機構(以下機構)の職員らが放射線量の測定を始めた。
放射性物質のリスク
聞き取り調査などから、火事発生時に実験室内にあった放射性物質は、トリチウム(H-3)とインジウム(In-111)であることが当日に分かった。全量のトリチウムを体内に摂取し、インジウムから50㌢㍍の距離で4時間作業し続けるという条件のもと火災現場で作業した場合の実効線量は、16㍃シーベルトになる。日本における自然放射線の被ばく量は、一日当たり約6㍃シーベルトであり、微量とされるレベルだ。また、機構によると、管理区域外への放射線の漏えいは測定されていない。機構は放射性物質そのものが管理区域外に漏れていないかについても調べた。管理区域内と管理区域外の堆積物や土壌、水、壁、窓枠、床などの放射線量や放射性物質の量を測定したところ、一部は実験室外の管理区域内に漏れた可能性があることが分かった。しかし、トリチウムとインジウムは蒸発しておらず、それらの一部は放水による水に溶けたと考えられること、水は実験室のある建物外には流失していなかったことから、実験室のある建物の外には漏れていないと判断した。
一方で、放射性物質が外部に漏えいしていないという見解を疑問視する声もある。市民環境研究所の石田紀郎氏(元京都大学教授)は本紙の取材に対し「あれだけの煙が出ていて、まったく放射線が漏れていないはずがない」と語り、外部へ漏えいしていないことを裏づける証拠の不十分さを指摘する。「仮に放射性物質が拡散していた場合、微量で人体に被害を与えるレベルではなくとも、その影響は近隣住民らが本来受ける必要がないものだ」(京大研究室火災の情報公開を求める住民連絡会・仲氏)という声もある。
正しい記録を残しておらず
今回の火災では、実験の安全管理における課題が多く見つかった。出火したのは、研究員がヒーターの電源を切り忘れていたためだ。こうした過失による事故を防ぐため、機構では13日、ヒーターの安全な使用と実験の安全確認徹底を求める通知を出した。また、マニュアルや規則の徹底を図るための教育プログラムを改善することも検討されているという。もう一つの問題は、研究員が放射性物質の記録を定められた通り記載していなかったため、実験室内にあった放射性物質を特定するのが遅れたことだ。インジウムが漏れていないと機構がはっきり判断できたのは、7月8日だった。記録上は「廃棄」され、所定の場所に移動したことになっているはずのインジウムが、実際には実験室に残っていたことが原因だという。研究員の言動が曖昧で当初報告したインジウムの量が線量の測定結果と矛盾したため、機構が研究員に再度報告を求めたところ、実際の量は当初の報告よりかなり多いことが分かるということもあった。
また、今回の火災では、実験室にあった保護具や測定機器類が使えなかったものの、実験室と同じ医学部構内にある放射性同位元素総合センター(RIセンター)から装備や器具を持ち出し、使うことができた。一方で、桂キャンパスや宇治キャンパスの放射性物質を扱う実験施設は、今回のように装備や器具が確保できるとは限らない。「RIセンターから離れた研究室で大きな事故が起きた場合、装備や器具をどう準備するかは今後の課題だ」とRIセンター助教・角山雄一氏は話している。