複眼時評

森純一 国際交流センター教授 「キャンパスの国際交流を深めよう」

2006.10.16

「先生、私は京大に入ったけど、未だ何をしていいか分からないです。留学は意味があるでしょうか。」「先生、留学生と話したいがどうしたらよいでしょうか。」今日も学生が私の部屋の扉を叩いてやって来ました。留学相談を本格的に始めて二年、このような質問にも慣れて、何をするべきかがようやく分かってきたという気がします。国際交流を専門にする私にとってこの手の質問は大歓迎なのです。私は国際交流センターで、海外留学相談や、海外からの留学生と日本人学生の交流活動、そして若い学生の海外体験促進を目的とした国際交流科目の組成などを担当しています。

大学のキャンパスで留学生と自国の学生の交流をいかに図っていくか、学生に海外への目をいかに向けてもらうかは、多くの国の大学で国際化の課題の一つとなっています。これについては多くの研究が行われております。たとえば大学のキャンパスにおける国際化は留学生と自国の学生を物理的に一緒にしておけば進むというものではないと言われています。本学でも三年に一度、学生の意識調査を行っていますが、そのなかで留学生も日本人学生もより多くの交流の機会を望んでいる様子がうかがえます。たとえば留学生からは「日本人学生との交流が少ないのは残念だ。」「もっと日本人と話せたら)日本語授業の)効果が上がると思う。」などの意見があり、逆に日本人学生からは「もっと留学生と交流するイベントを増やして欲しい。」「交流の更なる推進」などの意見が出ています。国際交流には意識的な施策が必要なのです。

若い学生諸君がいろいろな留学生と交流する、あるいは自らが留学することについてはどのような意義があるのでしょうか。これについては今までにもいろいろな研究があります。多くの国・文化・民族の理解はその一つでしょう。国際的なコミュニケーション能力を高めることも効果の一つでしょう。英語ができるだけでなく、自らの考えを説明でき、相手の考え方を尊重できる力が伸びることです。来日早々の留学生にとって日本人学生との交流は大事な気持ちの支えとなることもあります。

国際交流は自らの発見でもあります。私は今「あべこべゼミナール」というものを考えています。これは留学生に日本のことを語ってもらい、逆に日本から海外へ留学した京大の学生に自らの発見した留学先のことを語ってもらおうというものです。二年前ですが、ある海外からの研修生は「狭い空間を利用する日本人」という題で、自身の撮影したカプセルホテルや、お茶室の写真を使いながら、日本人が狭い空間をいかに有効に活用しているかという発表をしたのです。今年八月に留学したKUINEPの学生のなかに、大阪のお師匠さんに三味線と謡を習っている学生がいました。なかなか日本人学生で三味線を習っている人はいないでしょう。これらの学生が「あべこべゼミナール」で話をしてくれれば日本人学生に日本を見直すよいきっかけとなりそうです。もちろん、日本人学生が外国のことを話してもよいのです。国際交流は第三者から見た自分を客観的に見るよいチャンスを提供してくれるのです。

国際交流を進めるために国際交流センターではいろいろな試みを行っています。センターには「きずな」という留学生と日本人学生の交流のための瀟洒な建物があります。ここをベースに春はお花見、秋はハイキングなど様々な交流の機会を提供しています。最近、センターでは「インターナショナル・アフターヌーン・ティー」を始めました。毎週木曜日の午後四時半から、気楽な会話の出来るお茶会を始めたのです。これまでのところあふれるほどの学生が集まりました。主催した我々には嬉しい誤算でしたので、生協に追加のお茶を買いに走らなければなりませんでした。類似の活動は、九州大学、一橋大学、名古屋大学など全国の大学で試みられています。

日本の大学で学ぶ留学生数は一九八〇年代から急激な増加を見ています。本学では一九九〇年に留学生センターと留学生課が設置されました。日本語教育の充実とともに、九七年にはKUINEP科目が開始されました。本学を含めて日本の大学の国際交流はまだ発展段階と言ってよく、国際交流活動の分析や評価など国際交流についての実践と研究にはまだまだ多くの課題があります。国際交流は教職員のみでなく、学生や地域の方々の協力が必要です。京都大学には約一二五〇人の留学生とまた多くの海外研究者がいます。皆さんの周りには本当に多くの国際交流の機会があるのです。ぜひ、この恵まれた環境を生かして、学生諸君には積極的に国際交流に参加してもらい、充実したキャンパス生活の実現を目指したいものです。


もり・じゅんいち 京都大学国際交流センター教授。
専門は開発経済学。留学生に日本語教育を行う一方、国際交流科目では学生を指導し昨年は中国への引率教員を務めた。