ニュース

学内に家宅捜索、京大生ら逮捕 京大当局、刑事告訴か

2016.03.16

昨年10月、戦争協力反対や大学改革反対などを訴える学生団体が吉田南一号館を封鎖した「学内ストライキ」で、2月29日、京都大学熊野寮及び哲学研究会ボックスが京都府警による家宅捜索を受けた。また翌3月1日までに「威力業務妨害」の疑いで、学内ストライキに参加していたとみられる京大生1名を含む計6名が京都府警により逮捕された。大学当局による刑事告訴を受けたものと見られ、当局は警察に協力する姿勢を表明した。

熊野寮には機動隊と捜査員、合わせて300~400名が押し寄せた。熊野寮では当初、府警が令状を提示しないまま、多くの機動隊と捜査員が熊野寮地下ボックスと居室二室に突入。寮生らの抗議によって、帰ってきた捜査員が地下ボックス捜索に関する令状を提示した。一方、居室の捜索令状については、現場の立会人に対してのみ開示された。捜索は教育推進・学生支援部厚生課課外活動掛の職員や第三小委員会の教員、寮生らによる立会のもと約5時間半におよび、令状にない熊野寮駐輪場や捜索現場に至る通路・階段を多数の機動隊員が封鎖したため、寮生の通行に支障が生じた。

哲学研究会でもほぼ同時刻から、ボックスに来た捜査員10名のうち6名ほどの捜査員が立ち入った。総人教務からの急報を受けて駆けつけたサークル会員に捜査員が令状を読み上げ、約1時間半にわたる捜索が行われた。令状の内容は「威力業務妨害に使用されたものの押収」だったという。府警はボックス内の写真撮影を行ったほか、学内ストライキに関するビラや、令状とは無関係の会員個人のハードディスクドライブなどを押収した。

熊野寮、哲学研究会いずれのボックスにも、府警からの事前リークを受けたと思われる報道各社が押し寄せ、当事者に許可無く撮影などを行った。

両団体に事前連絡はなかったが、捜査員の発言によるといずれも京大当局には連絡済みであったという。

また京都府警は捜索と並行して、3月1日までに「威力業務妨害」容疑で京大生1名を含む計6名を相次いで逮捕。学生らは昨年10月、吉田南一号館の出入り口を約6時間にわたって封鎖した学内ストライキに参加していたとみられる。

学生逮捕を受け、京大当局は3月1日、大学公式サイト上に「吉田南一号館封鎖事件逮捕について」を発表。10月のストライキを「犯罪行為」だと断定し、捜査協力と学生の処分を行う方針を表明した。

学内ストライキをめぐっては、ストライキ実行日の27日、村中孝史国際高等教育院長ら教職員が主催者側にストライキの解除を求めたほか、大学職員と思われる正体不明の人物が参加者の学生らをビデオカメラで撮影するなどの威圧的な態度を見せた。またストライキ現場周辺の東一条通りには警察車両が複数台配置されており、これらが学生らによる反発を招いた。

これを受けて京大当局は、翌28日付で公式サイト上に「吉田南一号館の封鎖について」を発表。「封鎖行為は威力業務妨害罪に当たると考えられ」、「刑事告訴も含め厳正な対処を検討」するとした。なお、学内での「検討」の経過や刑事告訴の有無に関する本紙の取材に京都大学は「お答えできない」とコメントしている。

11月14日早朝には、職員や学生への事前連絡や立ち会いなく、吉田南プロムナードや京大正門付近で京都府警20名程度がストライキの実況検分を実施。現場に駆けつけた大学職員や立ち会いの学生らを無視して検分を行い続けた。府警は同日昼にも再度検分に訪れ、夕方には「学内ストライキ」関連の立て看板を押収するなどした。

熊野寮自治会は今回の家宅捜索について「寮生の生活空間を長時間にわたって不当に破壊したものであり、断じて許す事の出来ないものである」とし、京大当局として警察に対して抗議声明を提出することを求めている。

哲学研究会も3月3日付で「哲学研究会の部室を京都府警が捜索したことに対する声明」を出したほか、本紙の取材に「大学構内に捜索に入った京都府警、および大学構内への捜索を許した大学当局の判断は、京都大学の自治を著しく侵害するものであり、哲学研究会は断固抗議します」とコメントした。

編集員の視点

「威力業務妨害罪」は刑法234条に定められ、「威力を用いて他人の業務を妨害した者」に処される。しかし、学内活動に対して刑事罰を与えることで、学生らの自由な言論活動を萎縮させるおそれがある。また当局自ら警察を学内に導入することによって、立会いの学生や職員を無視した専断による捜査が行われ、結果として大学自治が脅かされることにもなる。京大当局は学内でも厳正な対処を検討する予定だというが、大学の施策について反対意見を持つ学生を当局自身が率先して処分することは、言論の封殺につながるだろう。大学当局は当局と学生の間にある埋めがたい権力・権限の差を自覚した、慎重な対応をとるべきだといえる。